馬鹿みたいな話
「俺はアーレイ・リバス。『獣大陸』の第一王子だ!」
「...へ?」
少年から、意外な言葉が飛び出てきた。「獣大陸」の第一王子。「獣大陸」と「精大陸」と「魔大陸」には、それぞれ国王が居て王子が居て民が居る...という王制の大陸だ。
「獣大陸」の王族は、基本的に王子は公衆の面前に出る事はなく、国王になるまでは外にも出ない。さっきからこの少年ーーアーレイは”誘拐”というワードを出していた。もしかすると、誘拐されてこの森に迷い込んだのかもしれない。
「それと、俺は18だ! お前より年上なのに...何で子供扱いなんだよ!」
「え、18歳? 見るからに8歳...」
「え? あ、えぇぇぇぇえ!!」
アーレイは、湖に映った自分の姿を見ると、泡を吹いて気絶してしまった。しばらくすると目を覚ましたが、放心状態だった。
「随分とメンタルの弱い王子様なんだね」
「うぅ...メンタル弱い言うなリン。色々とショックだったんだ...俺の黒歴史がある時代になってしまって...!!」
「地味に気になる!!」
途端、グー...という音が響いた。アーレイの腹からだ。すると、彼は少し顔を赤くした。
「フフン♪ リンゴ居る? 人参っぽいのもあるよ?」
「い、いらん! 俺は庶民から施しを受けない主義だ!」
「施しって...貴方それでも王子なの?」
本当はお腹空いてるくせに、顔を赤くしながら拒否るケモミミ王子は可愛いけど、それ以前に私は彼自信の事が気がかりだった。
自称「18歳」というのは分かる。だって、10年歳が戻るんだから、その証拠に高熱も出ていた。そういえば、もし歳が戻った時、元に戻す方法聞いてないな...まぁ良いか。
「っ...」
「それに、私は庶民じゃないと思うよ。一応勇者らしいしね」
「勇者? ...『人大陸』が勇者召喚に成功したと聞いていたが、もしかしてお前か?」
「そうだよ。まぁ、あと何十人かいるけどね」
「そう、なのか...」
アーレイは唇を噛んで悔しそうな顔をした。どうしたのと聞くと、彼は顔をゆがめながら答えた。
「いや、な。お前勇者なわけだろ? まだあんまり信用しては居ないが...人と魔族が敵対しているのは知っているな?」
「うん」
「我々獣人側としても、出来る限り早く戦争を終わらせてほしい」
「うんうん」
「だが、それは何方かが負ける勝つなどではなく、『和解』を望んでいる。だから、勇者など強行手段にすぎないただのクズのしゅうだーーうわ!」
「今君なんて言った? ねぇ何て言ったかなぁ?!」
私はアーレイの後ろに回り込み、小さい体を自分の足で固定して、彼の頭に胸をくっつけると、両手で頭をグリグリし始めた。
アーレイは顔を真っ赤にしながら、痛みと頭に感じる柔らかみを感じていた。
「お前ーー俺が勇者達をクズって言って何が悪い!!」
「...私が、いっちばん!大嫌いなもの何か知ってる?」
私は深呼吸をして、グリグリを止めた。アーレイは不意をつかれたような顔をしていた。
「それはねぇ...人の悪口ないし陰口よ」
「え...」
「言葉はね、人を生かす事も殺す事も出来る。そういう繊細な武器なの。身勝手に振り回したりしたら、何時の間にか自分の周りに居る人間は、みんな傷つく事だってある」
私は、アーレイに抱きついた。もふもふの耳が顔に触れる。
「貴方は、もしかしたら悪気はないのかもしれない。それに、『勇者達はクズ』だなんて、貴方にとってはほんのちょっとした事なのかもしれないわアーレイ。でもね、それを聞いたら本人達はどう思うか分かる?」
「...」
「きっと傷つく。彼らは、戦争を止めるために今も訓練をしてる。悪口なら...私に言いなさい。私は本当のクズだから」
彼に抱きつくのを止め、私は立ち上がった。アーレイは私を心配そうに見たが、私は曖昧に微笑んだだけだった。
「リン...な、何故お前はクズなんだ。お、お前の話だと、俺を助けてくれたっぽいし...お前、良い奴だろ?」
「...ううん。私、全然良い人なんかじゃない。ただのクズ」
「話せ。俺が聞いてやるから。...いや、聞きたいんだ」
「え...アーレイ」
私は優しく微笑むと、また地面に座って話を始めた。召喚、勇者、王子、立場ーーそして、何故自分が此処に居るのかも。
アーレイはもう、私に心を開いてくれたっぽかった。普通に差し出したリンゴを食べてくれたし、口を挟まずに聞いていてくれた。
「とまぁ...こんな感じ」
「それで、お前は自分をクズだって言うのか?」
「だってそうでしょ? 自分を優先して、勇者の責任とか...全部放り出してーー」
「お前になんの責任があるって言うんだ? 思うんだが、『召喚』なんてただの託つけた『拉致』だろ? 誘拐も同然じゃねぇか。それなのに、何でお前に責任があるわけ?」
アーレイは不思議そうな顔をした。いかにも「当たり前だろ」と言いた気な顔だった。
「でも、私は生徒会長としてもーー」
「だから何だ? お前は”戦いたくない”。理由はそれで十分だと思うぜ。生徒会長がどんなものかは分からないが、こうやって離れたのは仲間の事を思ってでもあるんだろ? 自分が誰かを傷つけないように」
「...まぁね」
「それなら、お前は立派じゃないか。何がクズだ。俺が間違ってたさ」
彼は優しく微笑んだ。
「アーレイ...フフ」
「何がおかしい」
「可愛いなーってね」
「っ?!」
すると、アーレイは酷く怒ったような顔をした。どうやら、「可愛い」は禁句のようだ。




