~第九章~
「役に立てなくて申し訳ない。シェルから色々話は聞けたんだが、肝心な事は……」
私はシェルから聞いた内容を一部始終セレスに話した。
「いいえ、ぼくこそすみませんでした。でも、そうですか。海に流されたシェルを救ってくれたのは、やはりノンマルタスだったんですね」
セレスは少し嬉しそうだった。
「それより傷は大丈夫ですか?」
「ああ。大した事はない。かすり傷だし。そう言えば君も同じところに傷があるって言ってたな」
「あっ、はい。わりと深い傷だったので今でも少し傷痕が残ってます」
「花を採ろうとして崖から滑り落ちたんだろう?」
「えっ!?」
セレスは一瞬驚いた顔をした。
「その話は誰から?」
「シェルがそう言ってたが……違うのか?」
「いえ、そう……ですか。シェル、が……」
そのままセレスは暫く何か考え込んでいたが……
「オニキスさん。明日一緒に行ってほしいところがあるんですが、宜しいですか?」
「ああ。別に構わないが」
明らかにセレスの様子はおかしかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「一緒に来てほしいところって母上殿のお墓だったのか」
小高い丘の上にある小さな墓だった。
「母は淡い優しい色の花が好きでした」
そう言ってセレスは摘んで来た花を供えた。
「母が死んだのは、ぼくが十歳の時でした。どうしても母に好きだった花を見せてあげたくて島中を探し回ったんです。でも、母が死んだのはもう秋も終わりの頃で、花なんて咲いてなくて……。やっと一輪だけ見つけたんですけど……」
「それが崖の上だったんだな」
「はい。ぼくは花を採ってあげられなかった。でも次の日、此処に来たらその花が母のお墓に供えられてて、ぼくは誰かが摘んでくれたんだと。母が淡い色の花が好きだった事は、みんな知ってましたから。でも、あれは……花を供えてくれたのはシェルだったんだ!」
「えっ!?」
「ぼくの腕の傷の事はみんな知ってます。今でも痕が残ってるくらいの傷でしたから。でも何故怪我をしたのかは誰にも言わなかったんです。心配をかけたくなかったから。でもシェルは、シェルだけが知ってた! ……父の時も。そうだ! 父の時も、誰かが父を助けてくれたんです!! あれも、ひょっとしたら……」
私は愕然とした。
セレスが双子の弟の存在を知ったのは半年前。
しかしシェルが、ノンマルタスに遥か以前から、実の両親の話を聞いていたとしたら……?
知っていたのか、ずっと前から?
会いに来てたのか、実の両親と双子の兄に!?
一体どんな気持ちで……っ!?
『あんたに俺の何が分かる!?』
そう叫んだシェルの言葉が胸に突き刺さった。




