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昼休みがおわり午後の授業が始まった。
僕の視線は前のほうに座っている水守一輝に行く。
奴は前から三列目に席があり、僕は最後列だ。
もし奴がべたに最後列の僕の隣なんかに来た日にはぶっ飛ばしてやろう。
そう心の中で誓っていたら奴の席は前から三列目になった。
その代り、厄介なことに僕の隣には、もう一人、転校生が座っている。
林友一という名前だ。
そう水守一輝と同じ日にこの高校には数多くの転校生が現れた。
僕のクラスには、水守一輝と林友一の二人。
そのほかにも、他のクラス、学年にも数人ずついる。
僕はたぶん全員クロス関係者なんだろうな、と予想をつけている。
クロスって正直一般人からしたら、本当に存在しているのかって疑われているような奴らだ。
鬼もまた然りだが。
鬼の数が少なくなり、鬼がこそこそと隠ぺいしながら、人を襲うようになったため、そのほとんどが事故として一般人には報道されている。
だから、実は鬼と人間が争っている、ということを実感している人はほんとに少ない。
みんな存在は一応知っているが、関係のないものだと大半の人は思っているんだ。
そのため、水守一輝も自分がクロスだなんてことはクラスの誰にも言ってない。
あっ、ちなみに林友一はクロスでない。
…と思う。
クロス補佐戦闘員だ。
クロスとは特殊な超能力じみた武器を使える、単体で鬼を軽く撃破できるような人間で、数はあまり多くない。
そのクロスを中心として鬼を狩るわけだが、その補佐戦闘員として、銃などの現代武器で戦う者たちがいる。
林友一はたぶん、この一人だ。
そしてこのクロスを中心とした対鬼用戦闘組織を作っているのが、日本クロイツクロス社だ。
僕は鬼であるから、この組織にびくびくとしながら暮らしており、その存在を脳裏に焼き付けている。
反して僕は、鬼の組織に組みしている。
4強といわれるうちの一人、堕鬼の組織するグループ。
その中で、四天王って言われている、Lv3の4人の鬼が形成してる集団うちの一つ、朱雀の下の、下にいる。
正直所属したくなかったが、これも人間的な生活を送るためだ。
戸籍がほしかったのでつくるためもある。
権力のもとで生きる。これ、重要ね。
で、なぜ僕が水守一輝がクロスだとわかったのか。
それは見たことがあるからである。
同じ朱雀の下っ端が水守一輝に燃やされてチリにされるところを。
いやー、怖かったね。
チリにされたら、さすがの僕もどうしようもない気がするよ。
僕はすぐに逃げたね。
すぐに。
存在を感知されるまえに。
そんな水守一輝が転校してきた時、いかに僕は絶望したか。
僕は水守から眼を放し、横の転校生をちらっと見てみる。
すると、目があった。
林友一は僕にほほ笑みかけてきた。
僕も何となくほほ笑み返してみる。
そんなことより、林友一よ。
君はもう少し凶器をしっかり隠してほしい。
たまに鞄の中に入ってる銃がみえるんだよ!教科書を出し入れするときにっ!
おかげでこいつが戦闘補佐員だ、とあたりがつけれたのだが、視界に入るたびに、なんか脅されている気持ちになる。
そして、この林友一、僕に妙になれなれしい。
同じ名字だからといって親近感を持たれても困る。
だいたい、林なんて言う名字ありふれているだろうがっ!
心の中で罵倒してみると何となく悲しくなった。
僕限定での殺人集団が、学校に一斉転校してきたと思うと気が重い。
なぜだっ……
「はぁ~」
ため息が出てしまった。
また水守一輝に視線を向けてみる。
すると、あいちゃんも水守一輝のことを見ていることに気づいた。
しかも、微妙に頬が赤い。
さっきのつぶやきといい、今の様子を見ている限り、あいちゃんが我が敵、水守一輝に気がある気がしてきた。
それいやだ。
何となくいやだ。
くそ、あいちゃんは殺人鬼ならぬ殺鬼人にはわたさい!
そう僕は授業中に誓った。
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授業が終わると、みんな解放されたかのように話し始める。
僕も教科書を鞄にしまい、背伸びをした。
ガタッ、と隣から音がして、見てみると林友一が立っていた。
「みずきちゃん、今の授業ずっとボーっとしてたね。
何かかんがえてたの?」
話しかけられた。
とりあえず僕は、みずきちゃんと下の名前で呼ぶことを彼には許していない。
しかし文句をいっても、同じ林だからいいじゃんって言って、なおしてくれないから半分あきらめてはいる。
それにしても━━
君たちのことを考えていました!
なんて、口が滑っても言えるわけがなく、ここは適当にごまかそうと思い
「何も考えてなかったよ。むしろ、猫の気持ちになってた」
と意味不明なことを僕は口走った。
そのあと、意味不明すぎるわ、ボケェと内心、超突っ込みをするが、時は戻せない。
もう固まったね、空気が。
なんか予想外の発言に、林友一も笑顔のままで固まってるよ。
僕もまねして、笑顔のまま固まってみた。
っていかんいかん。
何とかしよう。
「あは、あはははは。ほら、猫ってほら、か、かわいいじゃん!何考えてうごいてるのかなぁ。な~んて、私、気になっちゃうわけでして、もうthe catみたいな。……なんてね?」
ほんと、僕の口は何考えてうごいているのかなぁ。
誰か止めて。
ものすごく止めて。
もう自分の力じゃ止まれない。
そう思ってると、そこに救世主が到来した。
「みーちゃん~。みーちゃん~」
あいちゃんが僕に話しかけてきたのだ。
このチャンスを逃してなるものかと思い、僕は全力でくいついた。
「あいちゃん~!どうしたのっ?」
すると林友一のほうも、ここが好機かと思ったのか、
「じゃ、じゃあ、俺はここでっ」
と言って、たいした会話もしていないのに林友一は話を区切って、水守一輝の元へ向かっていった。
行く前に僕にほほ笑むことはわすれずに。
なんかあいつ、ほほ笑みマシーンだなぁ。
僕がその姿を追っていると、あいちゃんが話しかけてきた。
「ごめん、みーちゃん。邪魔しちゃった?」
いえいえ、そんなことはありません。
むしろ勝手に修羅場突入してました。
助けていただきありがとうございます。
いやぁ、相手が自分を狩るものだと思うと、マジで緊張しちゃうんだよねっ。
そう思いつつ、あいちゃんの用事はなんだったんだろうと聞いてみた。
「そんなことないよ。それで、あいちゃんどうしたの?」
「えー、ほんとにぃ?そんなことないの?」
「ほんと、ほんとっ」
「うん、まあ、いっか。うーんとさっ、あのさ~、う~。━━みーちゃんは水守君のことどう思う?」
僕的爆心地を、見事にあいちゃんは踏んできた。
「どっ、どうって、そのど、どっど、どういう意味で?」
とりあえず平常心でかえそうとしてみる。
動揺しまくった。
にしても噛みすぎだ。自分。
「ほら、そのかっこいいとか、優しそうとかそういう感じでさ」
ともじもじしながら、あいちゃんが答える。
その動作がとてもかわいい。
僕の中での水守一輝は怖いの一言に限る。
僕は奴が鬼をチリに変えたことが忘れられない。
「ま、まあ優しくは見えないかなっ。あは、あはは」
そう答えてみた。
「そ、そうかな~。私的には優しそうだな~って思えたよ。
てか、みーちゃん!!」
急にあいちゃんが身を乗り出してきて少し焦った。
「な、なに、あいちゃん?」
「みーちゃんは水守君のこと好きじゃないの!?」
「えっ」
何言ってるんだろう、この子は。
つい心の声が少し漏れてしまった。
僕が水守のことが好き?
そんな馬鹿なことがあるのか。
「だって、みーちゃんいつも水守君のことみつめてるじゃん」
そういうあいちゃんの言葉に僕は衝撃が走った。
あ、そんな解釈の仕方があったんだ。
確かにずっと憎しみを持って睨みつけていたけど。
「私は水守君のこと、これっっぽっちも好きじゃないよ」
僕はあいちゃんの手を両手で包みこんで、真剣な顔をして語りかけた。
「ほんとに?」
「ほんとに」
「これっぽっちも?」
「これっぽっちも」
そう答えると、あいちゃんはうーん、うーんと悩み始めた。
そして意を決したようにして僕をみると、
「みーちゃん、私、水守君のこと好きみたい」
そう告白してきた。
やはりそうだったか。
普通だったらがんばってね、というところだが、僕はかけらも応援したくない。
それでも━━
「まずは、お互いのことよく知らないとね。」
僕はひとまず定型文をいうことにした。
あいちゃんは大切な友達だからだ。
するとあいちゃんがうれしそうにする。
「うん、そうだね!これからがんばって話しかけてみるよ!
私がんばる!!」
「ほどほどにね~」
「それにしてもほんと、みーちゃんがライバルじゃなくて良かったよ。
私、みーちゃんがライバルだったら絶対勝てないもん。」
あいちゃんが茶化すように言う。
「ほんとみーちゃんかわいいし、面白いし~」
「そんなことないって」
必死に否定する僕。中身は男だ。
「それに、知ってた~?
実は水守君、たまにみーちゃんのこと見てるんだよ」
「ぶっ」
つい噴き出してしまった。
えっ、狙われてる??
くるくる、グルグル、僕の頭の中は回ってゆき、何も考えられなくなった。
あいちゃんの『林君もすごくみーちゃんのことみてるよねー』っていう言葉も、もはやスルーされていった。