EP 2
黒船来航! 巨大軍事企業『エイペックス』
「……な、なんじゃあありゃあ! 雲が割れとるじゃないけ!」
ベランダでポーズを決めていた朱雀が、朝の静寂を切り裂く轟音に悲鳴を上げた。
東京湾の上空。朝焼けを遮るように現れたのは、これまでの魔将機のような「異空間からの門」ではない。光学迷彩を解除し、音もなく雲海から這い出てきた、全長五百メートルを超える巨大な空中空母だった。
その船体には、鋭い稲妻を象った不気味なロゴマーク――世界最大の軍事企業『エイペックス社』のエンブレムが刻まれている。
『警告。正体不明の通信リクエストを受信。……強制介入されました。プロトコル、拒絶不能』
俺のノートPCの画面が、激しいノイズと共に真っ白に染まった。
次の瞬間、俺の部屋のリビング中央に、一体のホログラムが投影される。
「ハロー、ジャパニーズ・ヒーロー。……いや、今はまだ『名もなきデバッガー』と呼ぶべきかな?」
現れたのは、俺と同じ二十代半ばほどの白人の青年だった。
プラチナブロンドの短髪に、知性を湛えた氷のような青い瞳。素肌の上に高価なテックウェアを纏い、不敵な笑みを浮かべている。
「……誰だ、お前。俺のプライベートな朝食タイムをハッキングするなんて、マナー違反だぞ」
俺はリゾットの皿を片手に、冷たく言い放った。
「失礼。私はマクシミリアン・シルバー。エイペックス社のCEOであり、君と同じ……いや、君以上にこの世界の『コード』を理解する者だよ」
マクシミリアンと名乗った男は、空中に浮かぶ空中空母を背に、芝居がかった仕草で広げた。
「ガオガオン……。先日の戦闘データは見せてもらった。実に見事な『バグフィックス』だったよ。だが、魔法や聖獣といった不確実なエネルギーに頼るのは、あまりに非合理的だ。人類の進化には、純粋な『科学の力』による管理が必要なんだよ」
「ワレ、誰に向かって能書き垂れとんじゃ。その小洒落たホログラム、指パッチンでチリにしたろか?」
デュアダロスがエプロン姿のまま、手にした木べらを突き出して威嚇する。
マクシミリアンは、邪神であるデュアダロスを視界に入れることすらなく、冷笑を浮かべた。
「おっと、そこの『レトロなデータ』は黙っていてくれ。……百夜玲王。君がそのガオガオンの設計者だね? 日本政府の若林幹事長との密約も、すべて我々のログに記録されている」
「……若林さんの名前まで。随分と調べ上げたな」
「君たちの役目は終わりだ。今日から、この国のダンジョン管理権は我々エイペックス社が接収する。……そのデモンストレーションとして、我が社の最高傑作をお披露目しよう」
マクシミリアンの合図と共に、上空の空中空母から、巨大なコンテナが投下された。
海面に激突し、爆発的な水柱が上がる。
そこから這い出てきたのは、これまでの魔将機とは一線を画す「人工の神」だった。
全身を流線型のナノ合金装甲で固め、無数のセンサーが深紅に輝く、巨大な機械の海龍。
背中には電磁加速砲を備え、周囲の電磁波を完全に支配するその威容。
人工魔将機、コードネーム――『リヴァイアサン』。
「……あれ、全部『機械』なの!? マナの波長が全く感じられないんだけど!」
白虎が驚愕の声を上げる。
「ああ、純粋な電力とAI演算だけで構成された、究極の自律兵器だ。聖獣のような情緒など存在しない。ただ効率的に、邪魔な対象をデリートするためだけの存在だよ」
リヴァイアサンが咆哮……いや、強烈な超音波を放った。
その瞬間、東京湾周辺の電力が完全にダウンし、ビル群の灯りが一斉に消え去る。
「……おいおい、朝のリゾットが冷める前に、とんでもない『黒船』が来やがったな」
俺は冷めたリゾットを一気に口に放り込み、ノートPCをひったくった。
「デュアダロス、ガオン! 全員、迎撃準備だ! ……科学の力で何でもできると思ってる傲慢なエリートに、特A級エンジニアの『非常識』を叩き込んでやる!」
「おう、合点承知じゃ! 仁義なきエイペックスとやら、ワシが直々にカチこんだるわ!!」
デュアダロスがエプロンを脱ぎ捨て、インテリヤクザ邪神の顔に戻る。
最新鋭の科学と、古の聖獣、そして最強のエンジニア。
東京湾を舞台に、世界の覇権を賭けた「新旧技術戦争」の幕が上がろうとしていた。




