思い出と手
というか普通に帰ってるけどいいのか?
コンビニに集合したはいいものの、理由は知らないし。彼女から何かを切り出すのを待っているものの、そんな気配が一向にない。
なにやらご機嫌なようだし、俺から切り出しても大丈夫だろう。
「ところで、コンビニに集合した理由って?」
「ん~? 一緒に帰ろうと思って」
思わぬ理由に拍子抜けした。というかかなりシンプルなものだったな。
てっきりもっと重要な話か……明日の話かと思っていた。
「……………………」
今のところ隣にくっついて歩いているだけだし、気まずさったらない。
時間も真っ昼間で、人通りも車通りも多い。
花宮は目立つ美少女だし、当然衆目を浴びる。
一歩間違えると俺がストーカーみたいに見られる気もしてやっぱり落ち着かない。
キョロキョロすればそれも一層だし、黙って前を向くしかない。
「ね、公園寄って行かない?」
そこは俺の住むマンションからすぐ近くの公園だった。
俺が花宮と関わることになった場所であり、あの日の夜は決して忘れることはない。
俺がごちゃごちゃと頭の中で考えている間にそんなところまで来ていたようだ。
そこまで広いわけでもないこの公園には、今の時間だと年配の人や主婦の人くらいしかいないだろう。
小学生の冬休みはもう少し遅いと思っているがどうなんだろう。
公園に着いて辺りを見回すと、二つあるうちの一つのベンチに座るペットと思しき柴犬連れのおばあさんのみで、他は誰も居ない。
随分と閑散としていた。
「ここ座ろ!」
先に進んでいた花宮が、おばあさんの座っていないもう一つのベンチの前で手招きしている。
どこにでもあるような木製のベンチは、四人座ればぎゅうぎゅうになりそうだ。
そんな中花宮は右寄りのほぼ真ん中に座っているせいで、俺が座れる十分なスペースがない。
何で座らないのか不思議そうに見上げるのは止めて欲しい。
なんだか断るのも悪いし、おずおずと一定の距離を置いて座る。左半身が座れていないが問題はないだろう。
……筋トレとか始めようかな。今別に必要でもない思考停止した考えがよぎる。
「……静かだねぇ」
昼間の住宅街にもかかわらず、その喧騒が少ないのは、公園を囲むように植えられている桜の木の影響だろう。
冬だから葉は散って寒々としてしまっているが、今年の春に見たピンク色は公園一面に広がっており、壮観だったのも記憶に新しい。
それももう半年以上前のことだ。
空気は冷たく、日の短さが一年の終わりを確かに感じさせてくる。
「ここで君に助けられたんだっけ? 全然覚えてないんだけどね」
アハハと笑いながら花宮は空を見上げる。
助けるなんて大仰なことをした覚えはないが、まあ深夜に女の子一人は確実に危ないし、変な大人がいないとも限らない。
たまたまあの時間に外に出て、花宮のことを幽霊か何かだと錯覚して好奇心の赴くままに近づいたことで、今こんな関係を築けている。
…………。
「……ありがとね」
さっきまで空に向けられていた彼女の視線は、いつの間にか俺をしっかりと捉えていた。
淡く照れが見え隠れする瞳には、どことなく柔らかい優しさが込められているように感じる。
「……俺だって感謝してますよ。こんな俺と友達になってくれて」
そんな姿が俺には眩しくて、言い終われば照れくさくて目を逸らす。
出会ってせいぜい二か月だ。
全然長くはないし、かといって短いわけでもない。
金曜日の夜と、テスト期間中の関わりくらいしかなかったのが、あまりにも意外なほど濃く感じている。
「……っ! さむ!」
冷たさを乗せた冬の風が吹き抜ける。
花宮は体を縮こまらせながら首を竦めている。今年の冬は今のところ暖冬から幕を開けているので、夜中でなければ息が白むことはない。
それでもこの冷たい風はやっぱり冬だと思わせてくるし、外に長居しすぎて風邪を引いてしまっては笑えない。
それに明日はYuuとArataの三人で、初めて会うことになっている。
「ねぇねぇ! 今日遊びに行ってもいいかな? ゲームしよっ!」
花宮はすっくと立ち上がり、意気揚々と進言する。
「全然いいですけど、冬休みの勉強とかしなくていいんですか?」
「むぅ。冬休みは明日からだよ! 今日はまだ違うんだし、遊んでもいーの!」
可愛らしく頬を膨らませたと思えば、優しい笑みで右手を差し出してくる。
立てということか。
その手を取ろうとして、少しためらう。
辺りを一度キョロキョロとするが、やはり柴犬連れのおばあさんがいるのみだ。
わずかにもたげていた手を、おずおずと花宮の手のひらに重ねようと伸ばす。
「さ! 行こっ」
手が重なる前に、俺の手首が掴まれた。
それが差し出していた花宮の手だと脳が判断する前に、俺は手を引かれ、強引に立たされる。
そのせいでバランスを崩し、花宮の華奢な体に寄り掛かりそうになるが、なんとか踏みとどまることができた。
しかし、顔が触れそうなほど、互いの息が触れるほどの距離感に、息を吞む。
衝撃で心臓が強く脈打っている気がする。
寒さで両手がかじかんでいるし、頬も赤くなっている感覚だ。
花宮は気にする素振りもなく、俺の手首を掴んだまま振り返り歩き出した。
「…………」
意識してしまったのは自分だけだったようで一層恥ずかしくなるが、彼女に気が付かれない小ささで、ため息とも深呼吸とも取れない曖昧なものをひとつ。
俺の家に向かっているはずなのに、先導しているのが花宮というのが謎ではあるが、その構図があまりにへんてこで、つい苦笑いがこぼれた。
「ん~? どうしたの?」
その気配を悟られたのか、花宮は不思議そうに振り向き、首を傾げた。
「いえ、なんでもないです。それより早く行きましょうか。ゲームは一分一秒を争うので!」
俺は歩をわずかに早め、花宮の隣に並んだ。
その拍子に、離された手首を掴んでいた手が名残惜しく感じてしまったのは否定できない。




