テスト後、フレンドとのゲーム
「二人ともお疲れ~」
「おう! おつ~」
食後。これ以上遅くなるとまた“ああなる”可能性もあって、花宮は皿洗いを終えると、そのまま帰っていった。
途中まで見送ったが、もうすぐ十一月ということもあり、先週よりも肌寒い。
秋を感じる間もなく時間が過ぎていく。そろそろ冬服を引っ張り出さないといけないな。
そして今、俺は自室のPCでフレンド二人と通話をしていた。
三人とも中間テストが重なっていたらしく、しばらくゲームはお預け状態だった。
……三人とも、住んでいる場所はそれほど遠くない。
もしかしたら、同じ学校に通っている可能性だってある。いや、同学年である可能性も高い気がする。
それでも、誰かが言い出したわけでもないのに、リアルの詮索は暗黙のタブーになっていた。
理由はいくつか考えられるが、俺の場合は単純だ。
ぼっちだとバレたくないし……それに、二人と比べて劣等感を抱いてしまうのが怖い。
二人がどう思っているのか、どう思ってくれるかは分からないが。
ただ、テストや学校行事の話題には触れることはあっても、自分のリアルを深く話すことはほとんどない。
だから、会話の中心は自然と、三人でやるゲームの話になる。
「ムーも早く準備しろよ!」
フレンドの一人、Arataが催促してくる。
もう一人のYuuの苦笑いも、微かに聞こえた。
Arataはテストのせいで親からゲームを禁止されていたらしく、その反動でいつもよりテンションが高い。
Yuuも同じように制限されていたのか、どこか落ち着かない様子が声から伝わってくる。
「ムー」というのは俺のキャラクター名だ。
本当は「ムー太郎」だが、長いという理由で二人はそう呼ぶ。
ちなみにムー太郎は、実家で飼っている犬の名前だ。
コーギーで、子犬の頃からずんぐりむっくりしていたから“ムー”。そこに太郎を付けただけの単純な名前である。
「ごめんごめん。で、今日もチャンピオン取りに行くか?」
「それもいいけど、ボク今日はこっちがしたいんだよね」
Yuuが提示してきたのは、とあるオープンワールドRPGだった。
個性豊かな数十人のキャラクターを自由に操作し、重厚なストーリーを進めたり、フレンドとボスを倒したり、素材を集めたりとやれることは多い。
最大四人まで同じワールドに参加できるが、あいにく俺たちは三人だ。
その場合は、ワールドの主が二キャラクターを操作することになる。
「OK、起動する」
「これ、三人でやるのも久しぶりだな。最近はずっと銃撃ってたし……というかテストだったし」
姿は見えないが、Arataが渋い顔をしているのが、声だけで分かる。
起動すると、白い画面の中心にゲームのタイトルロゴが浮かび上がる。
それだけで、現実から少し切り離されたような感覚になる。
三人とも、いわゆる課金勢ではない。
まったり遊ぶタイプだから、FPSのときとは違って空気も穏やかだ。
今回はArataのワールドで探索を手伝うことになった。 どうやら、次のピックアップキャラが欲しいらしい。
そのためのガチャ石集め。つまり、宝箱探しだ。
指定されたマップは、ギミックと高低差がやたら多い。とにかく移動が面倒なのが特徴だ。
その代わり、各地に点在する竜の力を使えば、空を滑空したり、海を泳いだりと、移動手段は多彩にある。
「うぉおおい! なんでこいつこんなに強いんだよ! ワンパンでやられたぞ!」
Arataが唐突に叫ぶ。
画面右に表示されているキャラのHPが、綺麗にゼロになっていた――と思ったら、すぐに回復する。
どうやらリスポーンしたらしい。
「あ~、たまにいるよね。油断して挑むと普通に死ぬやつ」
「前のマップにもいたな。変な場所にいてさ、普通に挑んだら俺も水鉄砲でワンパンされた」
Yuuが楽しそうにカラカラと笑う。
俺も似たような経験があるからわかるが、こういう敵は、万全じゃない限り相手にしない。
頭上に名前とHPバーが表示されるので、都合が悪い時は即座に逃げるようにしている。
「せっかくなら倒しておく? たぶんアチーブ取ってないでしょ」
このゲームでは、特定の行動やクエストをこなすとアチーブメントが手に入る。
そこでも、宝箱と同じようにガチャに必要な石が入手できる。
敵が強いというデメリットはあるものの、倒しておいて損はない。
俺とYuuはすでに一度倒している敵のため、ある程度の攻撃パターンは把握している。
「パーティどうする?」
「じゃあ、ボクが回復役やるから……ムーは補助お願い。攻撃はArataに任せよ」
「了解」
「ええ!? オレまた死ぬじゃん!」
「君のワールドでしょ? なんとかなるって。……あ、やられそうになったらウルトで回避してね」
だいたい、いつもこんな感じだ。
ムードメーカーのArataは、基本的にYuuにからかわれる側に回ることが多い。
しゃべり方のせいか、Yuuは言葉の端々にどこかSっ気を感じる。
今はArataがその標的だが、いつか俺にも矛先が向くかもしれない。
「ふぅ……なんとか倒せたな」
「硬すぎだろ……」
「Arata、何回死んだんだ?」
「そこ! うるさいぞ!」
そんな軽口を叩き合いながらも、ようやく敵を倒しきった。
このゲームは人数が増えるほど敵のHPなどのステータスも上がる仕様だ。
それでも、一人で黙々と戦うより、こうして協力したほうがやっぱり楽しい。
俺とArataの言い合いを横目に、Yuuがくすりと笑う。そして満を持して言葉を発する。
「……ねぇねぇ、聞こうと思ってたんだけどさ。二人とも、POP UPって行く?」
三人でこのゲームをやるのは久しぶりだ。
だからこそ、なんとなくそんな話題が出る気はしていた。
「オレは行きたいけど……まあ、当たればだな」
「同じく」
このゲームを運営している会社は、定期的にPOP UPストアを開催している。
全国各地で行われ、人気もあって参加希望者はかなり多いらしい。
去年は遠方での開催だったため断念したが、今年は最寄りで開催される予定だ。
「……もしよかったら、一緒に行かない? 当たれば、だけどね」
時期は十二月末。終業式の翌日から三日間開催だ。
学校関連で忙しくなることもないし、俺にとってもちょうどいい。
それに、半年間、顔も知らず声だけで遊んできた俺たちが、初めてリアルで会える機会でもある。
たぶん、この機会を逃せば当分先になる。……いや、もしかしたら一生ないかもしれない。
会うのは、正直かなり恥ずかしい。それでもせっかくなら、会ってみたいと思う。
ドキドキが半分、怖々も半分といったところだ。
もうすぐ応募も締め切りだ。一緒に行くなら、時間を合わせて申し込まないといけない。
「じゃあさ! この日、行こうよ」
Yuuが提示したのは、二日目の午後三時ごろ。
俺の方は問題ない。ほとんど間を置かず、二つ返事で了承した。
Arataは部活があるらしく、一度スケジュールを確認するようだった。
とはいえ、参加できる可能性のほうが高いらしい。
楽しみな予定が一つ増える。
その後も小一時間ほど他愛のない話をして、この日の通話は、ゆるやかに解散となった。
次回で花宮さんのお友達を出したいからもう少し詰めないといけないかもしれない。
あと性格と見た目を少し調整したいな~




