第三十三話 デート・ガルディアへ向けて
「アグ......ライト......様に......いの」
そう言って、大司教様は事切れる。
......殺される。
そう思って、王都から逃げ出す決意をした。
大量の王国兵の前に、逃げきれる訳がなかったが。
ガタゴトと音をたてる馬車が通り、周囲にいる小さな魔獣は草木に隠れる。森と聞いて悪路を想定していたが、道は整備され、道に沿っている周囲の木は伐採されているようだ。
「そろそろ昼食だ。......ヴィンデート、数個渡してほしい。」
「はい。......プォージートさん、アンネリアさん、昼食にしましょう。」
袋から保存食を取りだして、ハルセンジアさんに渡した後に、二人に渡す。どうやら食べたことがあるようで、すぐに食べはじめた。保存食の見た目は小さな立方体だ。肉や野菜を凝縮して乾燥すると固まる特別なタレで浸け物らしい。口に入れてみると、しゃりしゃりしていて濃厚なタレの味が口に広がる。
「私は四つで十分です。」
「では私が貰いましょうか。」
アンネリアさんが食べきれなかった一つを、プォージートさんが口に入れる。俺も自分の分を全て食べ終えて周囲の観察を始めた。
「......。」
なんだかアンネリアさんがじっと見つめてくる。目を合わせると、少し戸惑いながらも、彼女は口を開いた。
「実践をみてみましたが、手練れているように見えました。」
「ありがとうございます。」
「仕事って、そのようなものなのですね。」
それだけではないですが、と伝えて木々にまた目を向ける。静かだ。風が吹けば木漏れ日は意思を持ったように動き、音を奏でる。森を抜けるまで、皆は自然が奏でる音楽に耳を傾けた。
大した事は起こらず、森を抜ける事が出来た。
最大の山が来なかったことに安堵しつつ、二つ目の平原に突入した。
「もうそろそろですか。暗くなる前に着きそうですね。」
プォージートさんがそう呟いて、丘を見つめる。おそらく、あの丘を超えればデート・ガルディアの街が見えるのだろう。最後まで油断をせずにこの仕事をこなしていきたい。と、決意したとき、またまたアンネリアさんに話しかけられた。
「貴方は守る事が楽しいのですか?」
「......何故そのような?」
どうしてそうなったのかわからない。その疑問にくすくすと笑いながら、アンネリアさんは教えてくれた。
「たった二人のはずなのに、どちらかが守れるような配置で戦っていたようにみえて......。それに、デートの神様ですしね。」
陣形は意識しているかもしれない。というか守備だけではなく、多くの陣形を覚えて実践で活用している。そう思っていると、ハルセンジアさんが口を挟んできた。
「ははっ、デートの神様か。ヴィンデートの名前の由来だな。」
分からなかったので聞いてみると、どうやらビート、デート、ジートの神様が争っている神話があるらしい。ビートは炎の神様で、圧倒的な破壊力を持つ。デートは水の神様で、絶対的な守備力を持つ。ジートは風の神様で、恐ろしく高い知能を持つ。ビートはその破壊力でジートの戦略を力押しで突破し、ジートはその知能でデートの守りを攻略し、デートはその守備力でビートの攻撃をいなしたらしい。
「ビートが由来なのはアンデルビート国王、ジートが由来なのはエデルジート団長とプォージートさんだな。そしてデートが由来なのはヴィンデートだ。」
「そういう事ですか。」
「ごめんなさい、デートの神様だからといった先入観があったかも知れませんね。」
アンネリアが謝るが、大丈夫ですと言って謝罪を流す。
気がついたら丘を越えていた。
「あそこがデート・ガルディアの街です。」
高い壁に囲まれた街を見下ろし、感嘆の息を吐く。
......すごく大きい。
そんなちっぽけな感想を押し潰すほどに、その街は巨大だった。いや、街ではあるが、要塞のようにも見える。しかし、街に向けて進んで行くと、道端に何かが落ちているのが遠目から見えた。
「あれは何でしょうか?大きな塊......。」
「......人間か!急ぐぞ。」
さっと顔色を変えたハルセンジアさんは、少し馬車のスピードを上げる。どんどんそれに近づいていき、俺もやっと人間が倒れているのだと気づけた。
「大丈夫ですか!」
側に馬車を停止させ、ハルセンジアさんは触らないように近寄った。返事は無い。左足に酷い怪我があり、顔を見ると男性であり、かなりやつれている。
「とりあえずこの人を連れて急ごう。」
丁寧に馬車に入れて、俺達はデート・ガルディアの街へ急いだ。
「止まって下さい。確認します。」
「それより先に、この人の治療をできませんか?」
門番に止められ、馬車を停止させる。プォージートさんが門番に男性を見せて、門番らは怪我をしている男性を連れていった。残った門番が荷物や所属のギルドを検査し、良しとしたのか街へ通した。
「夜になる前に着けましたね。」
「本当にありがとうございます。今日は私達のギルドの寮で泊まっていきませんか?事情を話してみます。」
「では、お言葉に甘えて。」
そうして、俺達は逆毛の霊獣団へ向かった。




