繋いだ未来
「できれば早く来てください。刺されている貴方に言うのもどうかと思いますけど私も楽ではないです。」
刺客を取り押さえたリンがゾーイックに向かって話す
「なんとか刺さってないですよ……いま行きます。」
ほぼ無傷で終わらせたが下半身に深いダメージを負ったゾーイックは腹の擦りながら彼女の下へ歩く
(危なかった、腹にそこそこ厚い本を挟んでおいて助かった。)
「その人、えっと……どうすればいいですか?」
「早急に捕縛します。ガンヒルドさんはまだ戦っていますから。」
「わかりましたよ。」
縄など縛る物なんて準備していなかったから代わりにゾーイックのズボンのベルト(学校指定ではないらしい)やリンの持ち物から縄代わりになりそうな、ものを束ねる紐を使って縛りなんとか無力化した
万が一で縄抜けされないために刺客を見張りながら二人がかりで持ちあげる姿にはどこかシュールな絵面があった
今も戦っているガンヒルドを確認するとまだ決着は就つきそうだ
有利なのは彼女で巨漢の刺客が武器を持とうとどうしようと関係ない
彼女の魔術と相手との間合いをとることで未だロクにダメージを受けてなかったのだ
反対に刺客の男はタフネスこそ凄まじきものであったが場は覆せなく不利な状況から脱せてなくそのままである
(心に余裕ができた今となっちゃ思えることだけど生まれ持った才能とはこうまで差を生むのか……)
ガンヒルドらから距離のあるところで健一はそれを見て思えた
(ちょっと怖いかな……いや、なんで僕がゾーイックに似ている考えをするんだ?あんなヤツじゃない。まぁ、こんな場面は作中に出た記憶にないから想定外で焦ってるだけだ。)
しかし身体能力の差をも凌駕する能力持ち、果たしてそれはこの世界必要な力なのだろうか
「ウゥオォォォォ!!」
防御を捨てて得意であるだろう殴り合いをする為に突っ込んで行く
しかし前に試合で見せた踊るような、流れる格闘術、その一撃を受け巨漢の刺客は地に伏せた
「クソ、失敗か……まぁ本当にお嬢さんが殺せないなら……言い訳にはなるかもな……」
最後の一人が疲弊しきった顔で腰を下ろして道路に座り込む
その途端壁行きどまりだった壁が消失し代わりにゾーイックも覚えている元の通りがあった
この男が何かしらの方法で壁を作っていたと判断できる
「魔術で壁を作っていた訳か……たいしたものだ。」
「……アンタに、褒められても嬉しく……ないね。」
この時ゾーイックこと健一は知らなかったがリーダー格のその男は魔術を使ったが能力持ちの一種、魔力持ちではなかった
この世界では魔力持ち以外の人の魔術は基本些細、小規模なものを短時間しか使うことができないが彼の魔術の『質』において才ある者の域に立てるほどだ
使えば疲労し、酷い時は男のように立つことも難しい状態になる
「だがよぉ、いいのか?俺達以外にもいるぜ。狙ってる奴は。」
「何?……いや、そうか、」
壁が消失したその先から武装した集団が走って接近してきていたのだ
とある建物の中へ突撃していった集団である
「お前らも……はぁ、お嬢さんを連れて……とっととそこから消えろ。」
最後の刺客は諦めながらも笑みを浮かべてゾーイックらにそう言った
「……わかった。行くぞ、ケンイチ、リンさん。はぐれないよう私の手を掴んでいてほしい。」
「?……あぁ了解。」
「わかりました。」
ゾーイックとリンがそれぞれ左右の片方の手を掴む
『濃霧』
「のわ!?」
「きゃ!」
ガンヒルドを中心に一気に半径数十メートルが白一色に染まり何も見えなくなった
「離さないでしっかり掴んでおいてくれ!」
深い霧の中、二人を引っ張り駆け出す
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以下一時刺客視点
「あー。どうしたもんかな〜」
そう呟いても何も変わらないことはわかったいる
今回の仕事、もといクソみたいなお使いは失敗した
それだけの話
獲物に対してなんか見知らぬ美人さんが言っていたことを今になって思い返す
「……殺せないか。」
そんなもんは知らないし知らないフリをしなきゃいけないもんだ
俺達は保身爺さんからエサをもらう犬みたいなもんだから命令のままに適当に動く
失敗なんて無かった
いや、さっきまで無かった
俺達は型にはまりゃ無敵だ
しかし奴らを嵌めることが出来なかった
まず第一にあの方法を使った相手は例外なく仕留めてきた
だからあれを知ってる筈はない
なのにまるで俺らを把握しているようにあの女は実質不可視の技能を使うヴァルディスを的確に蹴り飛ばしやがった
ヴァルディスは相手が一瞬でも見失えば本人が攻撃を仕掛ける寸前まで鏡で映そうが見えない、足音をたてても聞こえない、僅かな体臭や纏っている服、血がついたナイフだろうと嗅いでも探知できない。トドメに相手へほんの小規模の認識汚染。
そんな技能、『呈閑』を持ってる
逃げ道を封鎖し俺や体格と腕力に優れているマグバーに囮をさせ釘付けにして後ろから毒を仕込んだナイフ仕留める
相手さんはなぜわかったのだろうか?
この疑問をあの言葉と無理矢理繋ぎ合わせるなら
『実はしっかり殺せた』可能性が存在する
殺しても死なない
こちらの手の内をなぜかあいつらは知っていた
これらのことから考察は
ハッタリで殺せないことはない
自分で言い訳できそうな口実を潰すなんて
そうこう考えていると別働隊の連中が来た
見るからにあちらさまも士気は低い
「む、『箱庭犬』何があった?状況を報告せよ。」
「任務失敗、『妄言姫』の制裁は未だできず、だ。」
「……了解。」
俺の少し間の抜けた返答に『バカみたいな命令を受けなきゃいけないのだろう』と言いたげな同情している別働隊の一人へ状況の報告をしなんとか立ち上がる
魔力持ちではないこの身は多少魔術を使うだけでバテてしまい無理はできない
「大丈夫か?手を貸そう。」
「いいやありがとよ。」
俺はまず仲間の二人の様子を見に行くことにした