流浪の民の哀歌
俺の、このどうしようもない人生で、唯一冴えていた判断は、あの都から逃げ出したことだ。
風の便りで聞こえてくる噂によれば、地獄の釜を開いたような酷い有様だったらしい。
国王の圧政、スパイの暗躍、勇者による反乱、隣国の侵攻。そうかと思えば、兵は撤収し、魔王軍による蹂躙があり、さらにはまた別の国による支配が始まったという。
事が始まってから数ヶ月経つ。俺の出会った数少ない知り合いの中で、生き残っているって話は一人も聞いちゃいない。
もっとも、逃げ出したからって、楽じゃねえ。
小作農っていうんだろうか?それとも農奴ってやつだろうか。
違いは知らねえが、俺に他の選択肢はない。いまさら故郷に帰るわけにもいかないしな。
いつか這い上がれる日が来るだろうか?
だが希望を持つことは忘れちゃいけねえ。
「なあ、あんたもそう思うだろ?」
隣にいるギル……なんとかとかいう男にそう言ってみる。
名前を覚えるのは苦手だ。
ここいらには似合わない美形のその男は、歳を食っているが都にでもいけばさぞかし婦人たちに人気が出そうだ。
まあ、農奴だったら、モテるも何も、どうしようもないがな。
「ん?ああ、そうだな」
「ったく、手際が悪いぜ、畑仕事したことないのか?どれ、一つ教えてやろう」
「面目ない、ありがとう」
こんなところには不似合いな、妙に礼が様になっている男だ。
「面目ないって……まあいい。ここはな、こうやって……」
しかし礼を言われて、悪い気はしない。
どんな困難が訪れようとも、生きている限り、生活は続く。
苦しくても、耐えがたくても、死ぬまで続く。
泥水を啜り、両手を汚し、疲労で倒れそうになっても、飯を食うため、動き続けないといけない。
だがな、死ぬよりはマシなんだ。生きてりゃいいこともあるって、俺は昔から、そう信じている。
不器用なこの男だって、そう思って生きている。きっとな。
国王の死を望んでいたあの頃が懐かしい。
俺らをこんな目に合わせたのは誰だ。
決定的だったのは、あの勇者だろう。
あいつのせいだ、きっとそうに違いない。
余計なことをしてくれなければ俺は王都で、平和を謳歌していたんだ。その日暮らしで、生活はカツカツだったけどな。
そんな奴が魔王を討伐しただなんて、皮肉なもんだ。
世界が平和になっただ?
そんな歌を、酒場で吟遊詩人が歌っていたらしい。
馬鹿馬鹿しい。俺らには関係ねえ、関係ねえんだ。
必要なのは、勇者の冒険活劇じゃねえだろう。
ああ、わかってる。この感情は単に、人のせいにしているだけだ。
だけどよ、それでも、腹は空くんだ。
そうやって、恨み言を吐きながら、明日の飯のために土を掘る俺たちを、なんと呼べばいいんだ?
生活は続く。
続いてしまうんだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
今回初投稿です。楽しんでいただけたようでしたら、感想や評価をいただけると励みになります。
反応をいただけるようであれば、「逃げた」男を中心にした、亡国後の物語を書くかもしれません。
また、12月にクリスマスに向けた物語を投稿予定です。
別の物語でもお会いできたら嬉しいです。




