91 輝きの聖女
陛下が両手を広げて、彼らを静める。
「余の身に起こった奇跡を皆は喜んでくれているようだな。これで、いつまた魔王が攻めてこようとも、余自ら戦場に立って退けてくれようぞ!」
愕然とした表情で両膝をついたガルト公爵と、その光景に頭を抱えるリンシア皇妃。
こうして謁見の間が平静を取り戻すと、陛下自らの手で勲章授与式が行われた。
私の番が来ると、陛下はアカデミーの制服の左胸に美しい金細工の勲章を丁寧に留めてくれる。
「エスト姫の願いをなんでも叶えたい。余に可能なことがあれば、ぜひ遠慮なく聞かせてほしい」
「私の望みはノア皇子さまとミリア皇妃さまが、離宮から自由になることです」
「⋯⋯ハハハ、そこを突かれると余も痛いな。だが、いずれ解決せねばならない課題でもあった。リンシア! そなたのわがままに付き合うのも今日まででよいな」
リンシア皇妃は力なくうなずき、ガルド公爵も肩を落とすように彼女を見つめた。
これでレオさんとノアさんがいつでも自由に会えると思うと、その姿が目に浮かんで、なにより嬉しかった。
式典の終わり際、陛下は私にこんな提案をしてくれた。
「余はエスト姫が喜ぶ姿を見たい。盛大な晩餐会では、あまり姫がくつろげないとバルマードに指摘されてな。ぜひ、余の招待を受けて欲しい」
「その、お気を使っていただいて、ありがとうございます」
「ハハハッ、いつも通りで構わんよ。その方が親しみが感じられて心地よいのだ。まだ時間があるゆえ退屈させてしまうだろうが、ぜひ楽しみにしていてほしい」
陛下はそんな温かい言葉で締め括った。
私はローゼさんに案内されて、華やかな宮殿を見てまわった。
白姫がローゼさんだったことがあっという間に広がり、行き交う人たちの彼女を見つめる姿が驚きと興奮に満ちていた。
「あら、注目されているのはエストさんだって同じですよ」
「え、私がどうしてです?」
「あんな奇跡を起こして、陛下に『輝きの聖女』と呼ばれたんですから、それはエストさんの二つ名になったわけです」
二つ名って、私もヒルダみたいな目にあっちゃうの?
いやいや、あんな美女とくらべても仕方ないし、むしろ問題は教会だ。
もう勢いで使ってしまったから。
⋯⋯悪徳教会にこき使われると思うと頭が痛い。
「この先にお気に入りの庭がありますので、そこでお話ししましょう」
そこは季節の花が咲き乱れ、噴水から噴き上がるいくつもの水柱が、陽の光を浴びて虹を作る美しい庭園だった。
その景色を一望できるテラスに私たちは座った。
「陛下が認めたのですから、もう教会など気にせず魔法も使い放題です」
「やっぱり陛下ってすごいんですね!」
良かったー。
冷静になったら、やってしまった! って内心ビクビクしてたから。
「ええ、『輝きの聖女』エストさん」
「なんかそれ、恥ずかしいですね」
ローゼさんは私をからかいながら、教えてくれた。
教会には二つあるらしくって、陛下は皇都のセバリオス教会じゃなく、バルマード様の領地にあるジラ教会を支持している。
そういえば、魔王との戦いでレイラさんを救った女神が『ジラ』様だったのを思い出した。
レイラさんは「感謝はしてるけど、なんで若返らせたりするの!」って愚痴ってたけど。
「そういえば、『白姫』ローゼさんって呼んでいいんですよね」
「うふっ。お父様のお役に立てる絶好の機会でしたから。私は人の噂など気にしないので、エストさんも聖女と呼ばれるのが気になったら、賞賛されてるくらいに思ってくださいね」
「ローゼさんのバルマード様好きはまったくぶれませんね。それに『白姫』って響きもなんだか優雅でカッコいいし、かなわないなぁ」
「あら、『輝きの聖女』も素敵だと思いますよ。こう、照明代わりになるといいますか、世の中を明るく照らしてくださいね」
「なんか違います、それ!」
夕方になると、私たちは陛下が用意してくれた晩餐会に参加した。
そこは公爵家の食堂のように落ち着ける雰囲気で、そこに白い礼服を着たノアさんと、華やかなドレス姿のミリアさんが笑顔で待っていた。
豪華な料理の並ぶ円卓で、陛下が手を大きく広げて迎えてくれる。
「これでいかがかな、エスト姫」
「その、こんなに早く願いが叶うなんて感激です!」
私が席に着くと、陛下がまだなにかあるように指示をする。
すると奥のカーテンが開いて、そこからお義父さまとお義母さまが現れる。
「娘の晴れ舞台に招いていただき感謝しますぞ、陛下」
「お久しぶりです、我が師よ。このようにエスト姫が、余の左腕を見事に治してくれたのです。師に剣を学んでいた日々がよみがえるようで、体の奥底から活力が溢れてきますぞ」
「陛下にはお喜び申し上げます。エストがそんな奇跡を起こしたと聞き、なんだか誇らしくて」
二人は私を囲むように、隣の席に座った。
両親の前で照れくさくなるけど、バルマード様やみんなが私を見つめてくれて、胸がジンと温かくなる。
ノアさんが胸に手を当て、私に一礼してくれた。
「エストさんが俺や母さんのことを陛下に願ってくれたと聞いて、とても嬉しいよ」
「ハハハッ、今宵は無礼講だ。ノアも遠慮せずに言いたいことを言ってくれ。ミリアには苦労をかけてすまなかった。だが、ノアをこんなに真っ直ぐに育ててくれたこと、礼を言わせて欲しい」
「そんな、陛下⋯⋯」




