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ハズレ令嬢に転生したけど、悪役令嬢と親友になって活躍したら聖女に持ち上げられました  作者: アヤコさん
第3章 新たな聖女

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90 時の権能

「あはっ、バラしちゃいました! 私をこんな気持ちにさせたのも、エストさんなんですからね」


 ローゼさんはそう無邪気に笑いながら手を離すと、陛下の方に向き直ってドレスの裾を摘んで一礼した。


「お久しぶりです陛下。子供の頃から実の娘のように可愛いがってくださり、ありがとうございます」

「さすがに今回は驚かされたが、ローゼ姫はいつも余を楽しませてくれる」

「私はお父様の娘であることを、その剣をもって証明したかったのです。もちろん他の指摘がなくとも、陛下にはお伝えするつもりでした。それが今日になったのは、良いことなのかも知れませんね」


 堂々と語るローゼさんに感心したように、陛下が降りてくる。


「こんなに愉快なことは初めてだ。バルマードに匹敵するような、かの麗しき白姫が余の味方であったとはな! あれほどの剣と魔法をまさかその歳で修めるなど、実際この目で見ていなければとても信じられなかったぞ」

「陛下に捧げる忠誠が、お気に召されたようでなによりです」

「ああ、もちろんだとも! 帝国の威信を示す武闘大会に最高の華を添えたのが、ローゼ姫だったとは。レイラ殿が戻った時から、こんな吉報を予感しなくもなかった。ローゼ姫は、『導きの聖女』と讃えられる、そのレイラ殿の美貌と才能を受け継ぐ、まさに新たな『レトレアの薔薇姫』であるな!」


 陛下の絶賛が響く中、ローゼさんが私に手を差し伸べて近づいてきた。


「紹介させてください。彼女こそお母様を帰還させる奇跡を起こした、私の最高の友、エストさんです」


 ウィル君やレオさん、ミハイルさんが、私を祝福するようにそっと後ろに下がり、私が前に進むよう背中を優しく押してくれた。


 一歩踏み出した私の手を、陛下がその温かく力強い手で包み込んだ。


「あらためてエスト姫。スレク卿の愛娘といえば、余にとっても娘のようなものだ。そう思って構わないだろうか?」


 私は感極まって「はいっ」ってうなずくと目頭が熱くなる。


 ーー直後、私は不思議な体験をした。




 陛下の手を通じて、まるで時間が遡るかのように、まだ若いお義父さまと少年の頃の陛下が木剣を手に訓練に汗を流す光景が、心の奥に鮮やかに浮かんだ。


 二人が笑い合い、訓練所で汗と埃にまみれながら剣を交える。

 その光景は、まるで私がその場にいるかのようにリアルで、でもどこか温かく懐かしくも感じられた。


 どうして二人の過去が!?

 もしかして、これが私の中にある【時の権能】なの?


 その時、目の前にいる陛下の失われた左腕が、白い光のシルエットとなって浮かびあがり、別の光景が流れ込んできた。




 ーー魔王軍との戦いで、魔将軍の斬撃を陛下が左腕で受け止め、その先にいる幼い少女を庇った姿が、まるで今、この場で起こっているかのように鮮明に浮かんだ。

 陛下は残った右手だけで、渾身の一撃の元、魔将軍を斬り捨てた。

 駆けつける部下の人たちが懸命に神聖魔法で陛下の傷を治そうとしている最中、怯える少女に「はやくお逃げなさい」と優しく、そして力強くその行き先を指差し、笑ってみせる。


 その光景が、幼い頃の私を魔王の魔の手から救ってくれたバルマード様の、あの日の記憶と重なる。

 陛下の優しさが、まるで自分のことのように胸に刻まれ、ふと我に返った。


 ⋯⋯まさか、誰かの記憶を見られるようになる能力なの?


 私はまだ陛下の手をギュッと握ったままで、その温もりが過去と今を繋ぐ糸のようにも思えた。


 陛下が心配そうに私の様子を窺っていると、そこにローゼさんが静かに近づき、私のもう片方の手を柔らかく握って、こう囁いた。


「エストさん、もう一度、奇跡を起こしてみませんか」


 慈愛に満ちた表情をしたローゼさんに、私の心が過去のビジョンと響き合い、身体が自然と何かをわかったように動いた。

 陛下の手をもう一度強く握り直し、過去と今が交錯する中で陛下の顔を見上げる。


「うまくいくかわかりませんが、どうか私とローゼさんを信じてください」

「ああ、愛しい娘たちの言うことだ。信じてみよう」


 今なら意識して【時の権能】が使える!

 私は全神経を陛下の失われた左腕に集中する。


 ⋯⋯ローゼさんから、膨大な量の魔力がまるで川の流れのように伝わってくる。


 こんな大勢の前で神聖魔法を使ったら、私は教会に都合よく使われるかも知れない。

 でも、陛下の優しさで大切な左腕を失った姿を、【時の権能】で見たのなら、私がなんとかしてあげたい。


 私は瞳を閉じて、心の中で強く想いを込めるように、(『エクスキュア!』)と叫んだ。


 次の瞬間、眩い光がまぶたを突き抜けるように輝き、まるで過去と今が一つに溶け合うような感覚に包まれた!

 目を開けるけど、ローゼさんも陛下も光の中に没したように、一面が白く輝いてまぶしい。


「何だこの光は!」と声が聞こえて、あたりが騒然としているのがわかる。


 その強烈な光も、霧が晴れるように消えていくと、私を優しく見つめるローゼさんの姿を最初に見つけた。


「お見事です、エストさん!」


 ローゼさんは繋いだままの手を引くと、私を背中から抱きしめる。


「ほら、奇跡が起きましたよ」


 そこに左腕が元どおりになった陛下がその両腕を見比べながら、指先を動かして、ゆっくりと感覚を確かめた。


「⋯⋯こ、これは夢ではないのか!?」


 戸惑った様子の陛下のそばにバルマード様が寄り添うと、陛下の左腕を確かめはじめた。


「まだリハビリが必要なようですが、これでまた愛剣を握れますな。手合わせならば、いつでもこのバルマードが引き受けましょう」


 陛下の腕が元に戻っているのを、目の当たりにした貴族たちが「奇跡が起こった!」と騒ぎ始めた。

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