80 決勝戦
さらに速度を増した彼女の動きは神速で、無数の残影を残しながらウィル君のシールドを削る。
「速度には速度で対抗してみせる」
「もう少し早く気付いていたなら、勝負はわからなかったでしょう」
ウィル君は善戦するもシールドが砕けた。
彼が微笑みながら、白姫に一礼する。
「こんなに強い相手がお父様以外にいるなんて。剣と魔法の勉強になりました!」
白姫が手を広げて、観客全体を見渡した。
「ミハイル公子にウィル公子と、今回の大会は強者揃いですね。その実力は帝国でも屈指といっても過言ないでしょう!」
その言葉に、観客や貴族たちから歓声が沸き上がった。
「あの最強の白姫が、誰かを褒め讃えるなんてはじめてだ!」、「マクスミルザー公爵家は、どれほど強大なんだ!」とざわめく中、皇帝陛下は満面の笑みを浮かべていた。
次の試合相手はレオさんだ。
開始直前に、レオさんは私の耳元でこう囁いてきた。
「あなたに本気は出せません。見え透いた試合になったらすいません」
こんな時まで私を気遣ってくれる、その優しさがとても心地いい。
だけどこの戦いは、レオさんの『皇太子問題』という、すごく重要な未来を左右するものなんだ。
そんなレオさんを私は心から応援したい。
私はロッドを下げ、「優勝するレオさんの姿が見たいんです」と棄権した。
皇帝陛下が笑みを浮かべてうなずき、皇妃の鋭い視線が私に刺さる。
決勝戦。
大闘技場は熱狂の海となった。
皇帝陛下と皇妃が観客席の最上段から見守る中、貴族たちの旗が一斉に風に揺れる。
「レオクス様、勝って!」という歓声が空を突いた。
目の前では、レオさんと白姫のローゼさんが向き合っている。
「あなたとこうやって戦えることを、運命のように感じます」
「私もこの場に立てることを、光栄に思っております」
バルマード様が二人のタイミングを見計らって、後ろへと下がっていく。
「では君たちの戦いを、楽しみにしているよ」
試合開始の合図で、闘技場が一瞬静まり返る。
白姫の頭上に六つの魔法陣が浮かび、それぞれの属性がまばゆく輝いた。
「六属性魔法を、全て同時に無詠唱!? ⋯⋯何という美しさ」
「さあ、はじめましょう」
炎の柱が燃え上がり、雷鳴が轟き、氷の刃が空を切り裂く。
私はその光景に息を呑んだ。
観客席がざわめく中で、レオさんの剣が閃く。
白姫の風の刃を両断し、光の矢を弾きながら、迷いなく迫る。
「私はあなたに追い付き、追い抜くことを目標に、これまで腕を磨いてきました」
「ええ、素晴らしい成長です」
レオさんの剣には、まるで白姫への敬意みたいなものが感じられる。
もしかして、レオさんは白姫がローゼさんだと知ってる!?
⋯⋯でもそのことを、レオさんが知っていても不思議じゃない。
だって、あの襲撃でレオさんを救ったのは、白姫だって聞いたもの。
白姫の剣は光そのもので、いたるところに光の軌跡が描き出される。
火花を散らしながら、レオさんの剣を弾き、背後から岩の槍が突き上がった。
「さあ、私に真の実力を見せてください」
「この瞬間が、まるであなたとダンスを踊っているかのように楽しいです!」
レオさんは高く飛んでかわし、光の鎖が彼を絡め取ろうとするのを斬り裂く。
観客席が「レオクス様!」と沸き立った!
私は白姫の動きに言葉を失った。
見えているのは彼女の残像で、空気が揺らいだ場所から突然、白姫の剣があらわれる。
彼女の剣は、まるでレオさんを試すようにも感じられた。
攻撃には微かな隙があり、「ここを突きなさい」と教えているようにも見える。
⋯⋯庭園での、ローゼさんの言葉が頭をよぎる。
「レオさんが優勝するのが理想的かと思います」
ローゼさんはレオさんの勝利を願いつつも、彼を高めようとしてるんだ。
戦いがさらに激しくなる。
白姫の魔法が加速し、雷の龍が咆哮しながら、レオさんを飲み込もうとする。
土の巨人が拳を振り上げ、光の剣が無数に浮かび、彼を全方位から襲う。
レオさんの剣から金色のオーラが溢れ出すと、龍を両断し、巨人を砕き、光の剣を弾く。
「オーラブレード!? そこまでの高みに達していましたか。お見事です、もっと私の予想を超えてください」
「ええ、あなたとならもっと舞えるッ!」
その姿は、帝国の新たな英雄そのものに見えた。
だけど、白姫の剣がレオさんの剣を捉え、高い金属音とともに真っ二つに折れる。
「私たちの戦いに、この剣は少々お粗末なようです」
「確かに剣が悲鳴をあげていましたね」
バルマード様が試合を止め、二人に新しい剣を渡す。
「これは特別に鍛造したアダマンタイトの剣だよ。さあ、二人とも存分に戦いなさいな」
観客席がさらに熱狂して、「まだ続くのか!」と声を上げた。
試合が再開すると、白姫の攻撃が嵐のように炸裂する。
炎の槍と光の剣が無数に降り注ぎ、風の刃がレオさんを切り刻もうと迫る。
レオさんが立ち止まって剣速を上げると、まるで金色の盾のように見える剣の軌道が、炎や光を弾くように打ち消す。
「そのまばゆい剣技は、まるで光の芸術のようですよ」
「流れるようなこの時間を、私はもっと味わいたいです」
白姫とレオさんが剣を交える回数が増えていく。
二人の起こした剣風が、観客席を守るシールドまで届き、青白い半透明の防御壁の出現に、歓声が湧き上がった。
金色の斬撃と白光の剣が激しくぶつかり合う。
「まるであの方の本気を見ているようで、興奮がおさまりませんッ!」
「うふふ⋯⋯。最高の褒め言葉と受け取っておきましょう」
見ていて気付いたけど、指輪のシールドは直接攻撃以外では削れないんだ。
白姫の光の剣や雷の矢が、激しい勢いで闘技場を覆うシールドにダメージを出してるのに、二人の周りだけ、特別な空間みたいに鎮まり返っていた。
きっと、それ以上に打ち合っているはずなのに、二人は剣舞を舞うように美しく見える。




