62 新しい家
ローゼさんの新たな一面に、ミハイルさんが口元を緩めた。
「見事なものです。これだけ子供たちの扱いに慣れているのも、ローゼさんの魅力ですね」
「彼女の優しさや気配りは、こうして見ると穏やかな気持ちになります」
おお、男性陣のローゼさんへの好感度が上がってる気がする。
ローゼさんもそろそろファザコンを卒業して、恋する乙女になってもいい頃だよね!
その時、ローゼさんが私の方に振り返って、小さく首を振って「めっ」とする。
うっ、また心が筒抜けだったみたい。
すると、アンリエットさんの背後から見知らぬイケメンが!
「家と聞いていたが、こんなに大きな屋敷だったとは。レオクス皇子には、重ねて礼を言わなければ」
その声って、ヒゲおやじだったグランハルトさん!?
まるでバルマード様みたいに、若返ってカッコ良くなってる。
「アンリエットさんを意識して、若くしたつもりです?」
「っ、皇子と行動を共にするから身なりを整えただけだ。会わないうちに、すっかり性格が変わったな」
そりゃ、別人みたいなものだから。
アホ姫として一緒に過ごした日々はしっかり覚えてるけど。
広間でさっそく食事が始まると、子供たちに笑顔が広がる。
「エストねーちゃん、こんなご馳走があるなら先に言ってよ!」とアラン。
ミレットも「とっても美味しい!」と喜ぶ。
立派なお屋敷でも、子供たちが無邪気にフォークを動かす姿が愛らしい。
アンリエットさんとグランハルトさんは、子供たちが落ち着くのを見届け、レオさんの元へ。
私たちも呼ばれた。
落ち着いた部屋で、レオさんが話し始める。
「子供たちの遊び相手も兼ねて、ここに数名、使用人を置こうと思っています」
アンリエットさんが慌てる。
「そこまでしていただかなくても、私一人で何とかなります。アランやミレットも、手伝ってくれますし。ここに住まわせてもらうだけで十分です」
「私はアンリエットさんにも感謝してるんです。ここに慣れた人たちに子供たちが懐いていけば、あなたもご自分の時間を持てるのでは? それに、こちらにも考えがあるのです」
レオさんの言葉に、ミハイルさんが続ける。
「なるほど、皇室の奉仕事業ですね。皇都の中心に孤児院を開くことで、貴族たちに模範を示すわけですか。私も父に、そのような話を提案しようと思います」
その話にローゼさんが微笑んだ。
「そんな善意の輪が広がると良いですね。アンリエットさんも、これからは自分の人生を始めるべきだと、レオさんは伝えたかったのですね」
「え、ええ。まだお若いのですから、メイドたちに任せるのも良いと思います」とレオさん。
ローゼさんに乗せられた感じが可愛い。
私もアンリエットさんには、乙女の時間を楽しんでほしい。
「では、ここに慣れるまではそのようにお願いします。あの、私にできることがありましたら、何でもおっしゃってくださいね」
その控えめな声に、アンリエットさんの気持ちが伝わってくる。
「その気持ちだけでもありがたいです。さあ、我々もそろそろお昼にしましょう」
メイドさんたちが運んできた料理には、ポテトグラタンやフライドポテトが並べられてて、なんだかほっこりする。
グランハルトさんがフライドポテトを一口かじり、「クセになる旨さだ」と呟く。
アンリエットさんも「これは美味しいわ」と目を輝かせ、ポテトグラタンにフォークを入れる。
ウィル君が満足げに答える。
「僕も初めて食べた時、じゃがいもがこんなに美味しいなんて驚きました」
アンリエットさんが目を丸くしてテーブルを見つめた。
「これが、あのじゃがいもですか!? こんなにいろいろ使えるなら食事がもっと豊かになりますね!」
子供たちの食糧問題に悩んでいたアンリエットさんの笑顔に、じゃがいもの可能性が光る。
私も久しぶりのポテトグラタンがとっても美味しくて、じゃがいもがみんなを幸せにする光景を想像してしまう。
そんな和やかな空気の中、ふと見ると、アランとミレットがメイドさんの後ろから顔を覗かせている。
手に何か隠しているみたい。
「二人とも、どうしたの?」と聞くと、ローゼさんが優しく微笑み、「こっそり教えてね」と目線を合わせて耳打ちされる。
ローゼさんの目がキラッと輝き、「まあ、素敵! 早くみんなでいらっしゃい!」と子供たちを促す。
「ローゼさん、なんですか?」と気になって仕方ない私に、ローゼさんが「うふふ、待っていてくださいね」と意味深に目を細める。
子供たちが戻ってくるのを待ちながら、ポテトグラタンをもう一口。
アランとミレットが子供たちを連れて戻ってきた。
後ろで何か隠しているみたいで、何だか楽しみ。
ローゼさんが立ち上がり、子供たちの前で膝をついた。
「みんな、ありがとうね」
アランがローゼさんの頭に花冠をそっと載せる。
色とりどりの野花が、ローゼさんの白い髪に映えて、まるで聖女のよう。
思わず息を呑むほど尊い光景に、誰もが目を奪われた。
「これ、前の教会を出る前にみんなで作ったんだ。ローゼねーちゃんに、新しいお家をありがとうって」