61 引っ越し
あれから、すぐにアカデミーに復帰したレオさんは、生徒会室で私を見つけると、突然その話を切り出した。
「アンリエットさんの孤児院を皇都に移すことになったんです」
「え、本当ですか!?」
驚きのあまり声が上ずる。
「グランハルトさんが私の護衛を申し出てくれまして。恩人でもありますし、それで屋敷の一つを孤児院にすることにしたんです」
レオさんの笑顔がいつもよりまぶしくて、まるで光が弾けるみたい。
前ならこの「プリンススマイル」に心を奪われていたけど、今は少し冷静に見られる。
少しは成長したのかな? と、そう思った瞬間、ローゼさんが耳元で囁いた。
「エストさん、レベル上げの成果が出ていますね」
穏やかな目線で、ローゼさんがレオさんに向き直る。
「子供たちのために、皇室の財産をありがとうございます」
「そんな、ローゼさん。こちらとしてもありがたい申し出だったんですよ。彼のような得難い剣士が、皇室の味方になってくれるのは心強い限りです」
グランハルトさんが、ちゃんとした仕事に就けて良かった。
アンリエットさんのヒモになっちゃうんじゃないかと、内心ちょっと心配だったから。
「ウィル君が子供たちを迎えに行ってくれたおかげで、私は屋敷の手配に専念できました」
これから、アランやミレットたちがどんな場所で暮らすのか、考えると胸が温かくなる。
きっと喜んでくれるよね。
「これから屋敷の方に行ってみますか? そろそろ出迎えの準備もできていると思いますよ」
⋯⋯気持ちが顔に出てたのかな。
「ローゼさんも行きますよね?」
「そうですね。これから通うことになりますし、どんな場所か気になります」
すると、ミハイルさんが生徒会室に入ってきて、一緒に屋敷へ向かうことになった。
「うわーっ、すごく立派なお屋敷ですね!」
白亜の豪邸は、まるでおとぎ話のお城。
メイドさんたちが出迎えてくれる中、私がデザインした服を着ているのに気づいて嬉しくなる。
ミハイルさんが辺りを見渡し、「庭があるなら、子供たちにも良さそうです」と言う。
公爵家の彼には、こんな素敵なお屋敷も普通なのかな。
そんな中、一番目を輝かせていたのがローゼさんだった。
「まあ、こんな素敵なお屋敷が、あの子たちの家になるなんて。想像しただけでも嬉しくなってしまいます」
ローゼさんの予想以上の反応に、レオさんは少し頬を赤く染める。
「ローゼさんにそう言ってもらえると、私も本当に良かったと思います」
レオさんの眼差しには優しさが溢れていて、あの子たちの未来をちゃんと思ってくれているのが伝わってきた。
「この部屋のレイアウトを変えてみたんです」
広い部屋に入ると、大きなテーブルに白いクロスが敷かれていて、みんなでご飯を食べるのにぴったりな雰囲気。
レオさんが合図すると、メイドさんたちがテキパキ動き出した。
「お腹を空かせていてはいけないと、子供たちの食事を準備させています。長旅ですから、タイミングが合えばいいのですが」
ローゼさんが珍しく人前でご機嫌で、まるで春の花がそっと開くみたい。
ミハイルさんが、そんなローゼさんに目を奪われる。
「アカデミー1の美姫とは思っていましたが、今のローゼさんは、まさに天使のようです」
「それは褒めすぎですよ、ミハイルさん。私はここを駆け回る子供たちを想って、浮かれているだけなんですから」
こんな笑顔をアカデミーで見せてたら、ローゼさんファンクラブができて大変そう。
ローゼさんって、よそでは普段あまり感情を出さないんだよね。
公爵家に求婚者が殺到するのを警戒してるのかも。
ヒルダが騒がれすぎて、公爵家を辞めたのを教訓にしてるのかな⋯⋯。
その時、ローゼさんがいたずらっぽく耳元で囁く。
「うふっ。心の声、だだ漏れでしたよ」
「うわっ!」って思った瞬間、馬のいななきが聞こえてきた。
レオさんが音の方へ振り返り、「さあ、子供たちを出迎えましょう」 と表に向かう。
お屋敷の入り口では、ウィル君が子供たちを促してるけど、初めての皇都やお屋敷に落ち着かない様子。
アンリエットさんも、ちょっと戸惑ってる。
そこに私とローゼさんが出て行くと、アランがローゼさんに、ミレットが私に勢いよく抱きついてきた。
「エストねーちゃん、人が多くてびっくり! 家もすっごく大きいし、綺麗!」
目を輝かせるミレットの頭を撫でてあげると、アランが続ける。
「引っ越すって聞いてたけど、こんな大きなお家なんて聞いてなかった!」
アランはローゼさんにスリスリ。
やっぱり男の子って、綺麗なお姉さんが好きなのね。
「ねえアラン、みんなに新しいお家に入るように言ってくれる?」
ローゼさんのお願いに、アランが得意げにうなずく。
「まかせろ、ローゼねーちゃん! おいみんな、さっさと中に入ろうぜ!」
ミレットも「ほら、早いもん順だよ。私が一番いい部屋、とっちゃうからね!」と続き、子供たちが競うように中へ駆けていく。
「転ばないようにね!」と声をかけると、ローゼさんが慣れた手つきで転びそうな子をサッと支える。
レオさんとミハイルさんが、彼女の姿に感心する。




