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49 喝采

「レオさんの指導ってほんとすごいよね。あんな風にみんなを引っ張るなんて」


 私も笑顔でうなずきながら答える。


「うん、オリビアさんの情熱もすごいよ。二人で劇を支えてる感じがするよね」


 ウィル君がちょっと身を乗り出して続けた。


「ミハイルさんのやられっぷりも最高だったし、セシリアさんとソフィアさんの掛け合いも楽しかったよ。みんな頑張ってたよね」


 私も思い出しながら「うん」って返す。


「そうだよね。最初は緊張したけど、みんなのおかげで楽しくなってきたよ」


 気づけば、ウィル君との会話が劇の前よりずっと打ち解けてて。

 こんな自然に話せるようになったなんて、ちょっと不思議な気分だ。


 ウィル君が少し照れくさそうに笑って、私の方にそっと近づいてきた。


「エストさんの戦乙女、かっこいいですよ。黒髪の戦乙女って呼ばれてるヒルダより、僕はエストさんの戦乙女の方が好きだなぁ。本番でも頼りにしてるからねっ」


 顔が熱くなって、咄嗟にこう返す。


「ありがとう。私もウィル君のお姫様役、楽しみにしてるよ」


 そう言った瞬間、ウィル君がじっと私を見つめてくる。

 近くで見ると、ウィル君の濃い青色の瞳がまるで深い海みたいだ。


「僕はエストさんのお姫様姿が見たい。そう言ったら、二人だけの時にあの素敵なドレスを着てくれますか?」


 えっ、二人だけの時って⋯⋯?

 ウィル君の頬が薄く紅を帯びてて、その可憐さに一瞬見とれてしまい、返事が遅れる。


「あ、はい! 私なんかで良ければ、いつでも着ますよ!」


 そう応えた私の顔は、きっと恥ずかしさで真っ赤になってる。

 ウィル君がニコッと笑って、柔らかい声で続けた。


「そう言ってもらえて嬉しいよ。じゃあ、あのドレスじゃない、もっと特別なドレスを着たエストさんを、いつか見られるように僕、頑張りますね」

「どんなドレスが良いのか分からないけど、その時はいろいろ着てみるね!」


 ウィル君が席に戻って、優しい顔で微笑んだ。

 その笑顔に何だか特別なものを感じたけど、それが何なのか分からなくて。


「特別なドレスって何だろう?」って頭に浮かんだ瞬間、ローゼさんがクスッと笑って、誤魔化すようにカップを手に持った。

 その様子に、聞こうと思ったけどタイミングを逃しちゃって。


 ふと気づくと、ローゼさんはいつの間にかいなくなってて、私とウィル君だけがサロンに残されてた。


 サロンの窓から差し込む光がウィル君の優しい顔を照らしてて、私はちょっと見とれていた。

 その光の中で、ウィル君の髪がふわっと揺れて、まるで絵本の王子様みたいだった。




 本番当日、皇都の大劇場は満席で、アカデミーの生徒や貴族たちで埋め尽くされている。


 アカデミーが借り切った豪華な会場に、バルマード様まで観に来ていて、私は緊張で手が震えてきた。

 客席のざわめきが聞こえてきて、胸がざわついて仕方ない。

 レオさんが落ち着いた様子で声をかけてきた。


「準備はいいかい、みんな?」


 私は慌てて、勢いよく返す。


「はいっ!」


 幕が上がる前、舞台裏でオリビアさんが静かにつぶやく。


「これで演劇部が救われます」


 その瞳に宿る燃えるような情熱に、私は思わず息を呑んだ。

 幕が上がると、レオさんのバルマード様が堂々と宣言した。


「我が剣は正義のために!」


 私が戦乙女として導くシーン。

 セリフを噛まないか心配だったけど、思い切り高らかに叫んだ。


「聖剣を手に持つ者よ、天の意志を果たせ!」


 観客が「おお!」と声を上げてくれて、私のテンションが一気に上がる。

 声が会場に響き渡り、レオさんの熱演に呑まれるように、まるで自分が天から遣わされた存在みたいに感じられた。


 セシリアさんの村娘が叫んだ。


「助けてください、英雄様!」


 ソフィアさんの森の精霊が優しく返す。


「自然があなたを導きます」


 生徒たちから温かい笑いがこぼれた。


 そして、ローゼさんの魔女が登場すると、会場が一瞬で静まり返った。

 黒いマントがバサリと翻り、彼女が低く響く声で言い放つ。


「我が呪いは解けぬ!」


 剣を構えたその姿に、生徒たちが息を呑むのが聞こえた。

 セシリアさんが目を輝かせて叫んだ。


「なんて美しい魔女ですの!」


 ソフィアさんが感嘆の声を漏らす。


「うわぁ、すごいね!」


 オリビアさんが舞台袖でうっとりつぶやく。


「完璧です」


 私は、ローゼさんの貫禄ある佇まいに目を奪われるけど、そんな彼女の迫真の演技にこたえたくなる。

 ローゼさんが剣を手に私を睨みつけ、鋭い声が響き渡る。


「貴様如きに、邪魔はさせん!」


 私は全身に力を込めて応じた。


「天の意志に従い、汝を討つ!」


 剣を高く振り上げ、彼女と刃を交える瞬間、会場が息を呑んだ。

 ローゼさんが剣を軽やかに操り、私は負けじと渾身の一撃を繰り出した。

 キンッと金属音が響き、彼女が一歩後退。


 私はすかさず前に出て剣を振り下ろす!

 ローゼさんが膝をつき、静かに囁いた。


「素晴らしいですよ、エストさん」


 その言葉に私の胸が熱くなり、全身に力がみなぎってきた。

 彼女の優雅な剣さばきに、私ももっと輝こうって気持ちがあふれ出す。

 観客が一気に拍手と歓声を上げて、私とローゼさんの戦いが会場を熱狂の渦に巻き込んだ。


 そして、ウィル君のお姫様のシーンで幕が上がると、会場が爆発した!


 白いドレスをまとった彼が静かに横たわり、舞台を渡る風にドレスの裾がふわりと舞う。

 そのあまりの美しさに、女子生徒たちが一斉に叫んだ。


「ウィル様ーっ!」

「可憐すぎますわっ!」


 男子生徒まで立ち上がってどよめく。


「すげえ! やばいって!」


 セシリアさんが両手を握り潰しそうに叫んだ。


「ウィル君、素敵すぎますっ!」


 ソフィアさんが目を丸くして震える声で。


「はい、ドキドキが止まりません!」


 オリビアさんが舞台袖で満足そうに笑う。


「これぞ舞台の華です」


 私もウィル君の姿に目を奪われた。

 風に揺れるドレスの裾と穏やかな表情が、まるで天使が舞い降りたみたい。

 会場中が彼の美しさに釘付けで、私もドキドキしてくる。


 そこにレオさんが祈るように訴えた。


「どうか目を覚ましてくれ、お願いだ!」


 キスしたふりで近づくと、突然、バルマード様が立ち上がった。


「レイラーッ!」


 会場が一瞬静まり、彼が照れ笑いで頭をかいた。


「あ、いや、すまなかったね」


 会場全体が大爆笑。

 私も笑っちゃったけど、ウィル君の可憐な姿がレイラ夫人に似てたから、バルマード様が一瞬混乱しちゃったのかなって。

 なんだかお茶目で素敵だなって思った。


 フィナーレでレオさんが剣を掲げると、総立ちの拍手が鳴り響いた。

 終演後、拍手がしばらく鳴り止まなかった。


 バルマード様は一瞬、複雑な表情を浮かべたけど、すぐにいつもの笑顔に戻り、私たちや演劇部の頑張りを「いやはや、見事だったよ!」と褒めて、拍手を惜しまなかった。


 オリビアさんが目を輝かせる。


「部員、絶対増えますよね!」


 レオさんが満足げに褒めてくれた。


「エストさん、ありがとう! これも、あなたの熱演あってこそでしょう」


 ウィル君がニコッと微笑む。


「戦乙女の勇姿、とても素敵でした」

「ウィル君の登場で、全部持っていかれたけどね」

「レオさんだって、最後までエストさんと二人で目立ってたじゃないですか」


 ローゼさんが優しくうなずく。


「二人で練習した甲斐がありましたね。素晴らしかったですよ、エストさん」


 みんなだってすごかった。

 レオさんの頼もしさ、ウィル君の可憐さ、ローゼさんの格好良さだって、今回の劇を最高にしてくれたんだ。


 そこにミハイルさんが勢いよく入ってきた。


「俺のやられっぷり、どうだった?」


 私は笑顔で即答する。


「最高でした!」


 みんなで顔を見合わせて、くすくす笑い合った。

 ミハイルさんの得意げな表情がまた面白くて、会場に響いた拍手がまだ耳に残ってるみたいだ。


 上手くいって本当に良かったって、心からそう思う。

 みんなの頑張りが一つになって、こんな素敵な舞台になったんだもの。




 その後、公爵家に戻った時、偶然、バルマード様が夫人の肖像画の前で呟いてる場面に出くわした。


「私はあんなこと、やった覚えがないんだ。レイラ、誤解なんだ。私が君以外とキスなんて、できるわけないじゃないか」


 静かな部屋に響くその声は、どこか切なくて、でも深い愛に満ちてた。

 肖像画を見つめるバルマード様の横顔は、劇中の威勢ある姿とは違って、ただ一途に、愛する人を想う表情に見えた。


 その姿に胸がジーンと温かくなって、思わず立ち止まったまま見入ってしまったんだ。

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演劇話ってやっぱり楽しい。 >好き勝手に脚色して、原型がほぼ残ってないらしい。 あるある。 絶叫バルマート様、漢だ。
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