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47 演劇

 今ではすっかり仲良くなった、セシリアさんとソフィアさんに呼ばれて、私は生徒会室にいた。

 セシリアさんがドンと胸を張る。


「私たち、新たに『庶務』として就任いたしました」


 ⋯⋯なるほど。

 今まで、レオさんとウィル君が苦し紛れに作った『盛り上げ役員』っていう謎の役職だったもんね。


「そのお祝いも兼ねて、今、皇都で一番流行ってるカフェから、いろんなお菓子とコーヒーを取り寄せましたわ」


 おお⋯⋯、私がデザインした服を着たメイドさんたちが、次々とテーブルに品々を並べて、静かに帰って行く。

 ふわりと揺れるスカートの裾や丁寧な動き。

 自分のやったことがこうやって形になってるのを見ると、ちょっと不思議な気分だ。


 キャラメルミルフィーユや、バニラ、ミックスベリー&チョコチップのアイスクリーム、香り高いコーヒーが並ぶ様子は、まるで小さなカフェのカウンターみたい。


 レオさんの顔がパッと明るくなる。


「おお、これがエストさんのカフェの品々ですね! どれも美味しそうですし、コーヒーの香りもバルマード様が淹れてくれるものと、全く遜色ありませんね」

「ええ、レオさん。僕は甘くしたアイスコーヒーと、バニラのアイスクリームがおすすめです」


 ウィル君は、私が公爵家で作ったのを食べてるからね。


 セシリアさんとソフィアさんが驚きの声を揃えた。


「えーっ、あのカフェはエストさんが経営しているのですか!」


 私は慌てて説明する。


「あ、バルマード様と一緒にやらせていただいてます。今度、良かったらぜひお店の方にもいらしてくださいね! アカデミーがお休みの日は私もよくお店に出てますので」


 ミハイルさんが目を丸くして感心する。


「おお! 絶品なので使用人に買いに行かせてましたが、エストさんがやっていたこととは。これはぜひ、俺も行かせてもらいますよ」


 みんなでテーブルを囲み、和やかにいただき始めた。

 セシリアさんがキャラメルミルフィーユを手に持って頬張り、パリッとした食感に目を細める。

 ソフィアさんもミックスベリー&チョコチップのアイスクリームをスプーンで味わいながら、ベリーの甘酸っぱさに笑顔を見せる。


 ウィル君はハチミツたっぷりのアイスコーヒーをゆっくり飲んで、その甘そうな匂いがこっちまで漂ってきそうだ。

 私もコーヒーの香りに癒されながら、ミルフィーユをかじると、サクサクした生地と濃厚なキャラメルの味にうっとり。


 レオさんが満足そうに語った。


「ローベント君やオーランド君が、留学から生徒会に戻った時には、ぜひ教えてやりたいですね。このアイスクリームは最高です」


 セシリアさんが驚いて聞き返す。


「えっ、ローベント兄様やオーランド公子まで生徒会役員だったのです?」


 私も内心、びっくりだ。

 攻略対象人気ランキングの第三位をミハイルさんと争う、ローベント公子やオーランド公子まで、生徒会にいたなんて。


 ローベント公子のクールな雰囲気やオーランド公子の優雅な物腰が、ここに戻って来ると想像しただけで、一段と生徒会がまぶしくなりそうだ。


 ウィル君がアイスを口に運びながら補足した。


「ローベントさんが総務で、オーランドさんが会計ですよ」


 すると、ドアが静かに開いて、見知らぬ女の子が堂々と入ってきた。

 落ち着いた声で彼女が告げる。


「レオクス生徒会長、ご協力をお願いいたします。演劇部の劇を成功させたいのです!」


 その立ち振る舞いがまるで舞台女優みたいで、私は一瞬、目を丸くした。


 誰だろう、この子? 演劇部ってことはわかるけど、こんな落ち着いた雰囲気で助けを求めるなんて、身も心も演劇に染まりきってるのね。


「去年、多くの先輩方が卒業してしまい、今では役者が足りず⋯⋯。演劇部始まって以来、初めて舞台に穴を開けてしまう事態は避けたいのです!」


 動じない物言いには本物の情熱が宿ってるし、声が微かに上ずったところに、彼女の本気が垣間見える。

 彼女の物怖じしない眼差しを見てると、私も何か力になりたいって気持ちが湧いてくる。


 すると彼女が大胆に打ち明けた。


「正直、新入部員を増やすには派手な劇が必要⋯⋯。特に可憐な美しさを持つウィル様が、貴族のお姫様を演じれば観客をグッと引き込めると思うのです! 私はそんな華やかな劇を、未来の演芸部員たちに魅せたい。私の願望も大いに混ざっていますけど、観たいと思わせる劇にしたいのです」


 ストレートに言っちゃうし!

 その正直さ、私にも少し分けて欲しいくらいだよ。


 セシリアさんが目を輝かせて賛同した。


「ウィル君のお姫様、素敵すぎますわ!」


 ソフィアさんも嬉しそうに付け加える。


「うん、絶対最高に決まっていますっ!」


 私は見てみたいという下心を抑えつつ、ウィル君の意見を聞いてみる。


「ウィル君は、それで本当に大丈夫?」


 内心、どんな姿になるのか期待してる自分がいるけど、断ってもいいんだからね!

 そう思いながらも、ウィル君の柔らかなルビー色の髪がドレスに映えたら素敵だろうなって想像する。


 ウィル君は少し戸惑った顔をしたけど、私の声に照れながら答えた。


「演劇部の為になるなら、僕も頑張ってみるよ」


 彼女が満足そうに微笑んだ。

 自分の思い描いたシチュエーションが実現して、悦に入ってるみたい。


 レオさんが穏やかに返す。


「オリビア君だね。詳しく聞かせてくれ」

「はい、ありがとうございます」


 レオさんがその熱意に微笑んでるのが、私にも伝わってくる。

 ふと、レオさんがこっちを見て提案してきた。


「エストさんなら、彼女の力になれる気がします」


 私に振られるとか、焦りますって!

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逆宝塚?!歌舞伎?!
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