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18 アカデミーへ

 三年間、無断で欠席し続けたアカデミーについに通う日が来た。


 かつて「アホ姫」だった頃にやらかした事とはいえ、胸が締め付けられるような思いだ。

 まずはそのことを両親に謝っておきたかった。


「そんなことは気にせず、学園生活を楽しんできなさい」


 二人はそう優しく送り出してくれた。


 前世の記憶が正しければ、アカデミーでは帝国に必要な人材を育てるため、様々な学問や技術、武術まで学べるはず。

 だけど、あのバルマード様が理事長だから、英雄願望を抱く生徒が多い印象だった気がする。


 新調した制服に袖を通し、馬車でアカデミーに向かう。

 初日なのでヒルダが付き添ってくれた。

 彼女が一緒だと心強い。


「お嬢様は何を学びたいとお考えですか?」

「神聖魔法を使えるようになったら、みんなの役に立てるかなって」

「神聖魔法は教会の重要な収入源ですから、たとえ貴族の子女でも奉仕を強要される場合があります。魔法なら他の属性もいかがでしょう」


 ヒルダの話によると帝国の教会には大きく二つあり、皇都を中心に活動するセバリオス教会は治療の対価を「お布施」と称して集めているらしい。


 しかもバルマード様が魔王軍を撃退して以降、その搾取がさらに酷くなったという。

 なんでも魔王討伐のために勇者を用意してたのに、バルマード様の活躍で出番を逃して逆恨みしてるらしい。


 貴族にはきちんと治療を施すくせに、裕福じゃない人には未熟な新米神官に任せて、見せかけだけの奉仕で治せないことがほとんどだなんて。

 聞いてるだけで頭がクラクラしてきた。


 せっかくローゼさんのおかげで使えるようになった魔法なのに、気軽に人前で使えないのがそんな理由だなんて残念すぎる。




 アカデミーに到着するとヒルダは私の気持ちを察したのか、まっすぐどこかへ案内してくれた。


 連れてこられたのは立派な学園長室。

 そこにいた白髭の老人がヒルダを見るなり、突然、立ち上がって近づいてくる。


「おお、ブリュンヒルド君! ついに武術の教師として我がアカデミーで教鞭を取ってくれる気になってくれたのか」

「いえ、その気はないと以前からお伝えしています。本日参りましたのは、私が仕えるスレク男爵家のエストお嬢様の件です」

「なるほど。ブリュンヒルド君はマクスミルザー理事長の右腕をやめ、スレク男爵家にお仕えしていたのだね」


 えっ、ヒルダがバルマード様の右腕ってどういうこと!?

 もしかして、すごい剣の達人なの?


「お嬢様は神聖魔法を学びたいそうです。もちろん教会と関わらない形でです。できますね、学園長」


 ヒルダの言葉に学園長が一瞬たじろいだ。

 アカデミー時代はやんちゃだったと聞いてたけど、学園長を圧倒するなんて⋯⋯。


「ハハハッ、もちろんだよブリュンヒルド君。君が武術を生徒たちに教えてくれるなら、そのくらい何とでもしよう」

「交換条件は諦めてくださいね」


 学園長は白髭を撫でながら笑いでごまかそうとしたけど、ヒルダの鋭い視線に「ウンウン」と頷くしかなかった。

 今日はヒルダに付き添ってもらって本当によかった。


 コンコンとドアがノックされ、学園長の「どうぞ」にローゼさんが入ってきた。

 制服姿がよく似合ってる彼女は、軽く会釈して話し始めた。


「失礼いたします学園長。生徒たちがヒルダを見かけたと騒いでいたもので、エストさんがこちらにいらっしゃるのではと思った次第です」


 ローゼさんは私にニコッと笑顔を向け、学園長とヒルダに向かって私を案内したいと説明した。


「ローゼお嬢様に案内していただけるなら、ご学友同士それが良いと思います」


 ヒルダが賛同すると、二人の息の合った連携に学園長は口を挟む隙もない。




 私はローゼさんと一緒に廊下へ出た。


 学園長室は城のように高い校舎の上層にあり、人の気配は少ない。

 窓からはレトレアの都が一望でき、美しい景色に目を奪われた。

 その前に立つローゼさんの姿は、つい見とれてしまうほど絵になっている。


「ローゼさんの制服姿って、凛としていて可愛いらしさもあって素敵です!」

「ありがとうございます。でもエストさんだって、とてもお似合いですよ」


 そう返してくれたローゼさんは、さらっと一冊の本を取り出すと、私に会いに来た本当の理由を話し始めた。


「アカデミーをしばらく休学されていたエストさんは、このままだと能力を映し出す魔水晶に触れることになると思いまして。そうなれば学園長を失神させかねない、エストさんの究極魔法の数々がバレてしまいます。大々的に『聖女』の再来なんてことになれば、国や教会へのご奉仕ルートが確定しそうで、何だか申し訳ない気がしますので」


 た、確かに。

 特に教会にいいように使われるのは、絶対嫌だけど。


 でも、ローゼさんがくれた魔法の本が凄すぎただけですって。


「それに奇跡のような力は秘めておいて、ここぞという場面で英雄的に披露した方が、より愉快だと思いません?」


 あれ、ローゼさん面白がってます?

 でも実際にお父上のバルマード様は帝国の大英雄だし、ローゼさんにもそういう憧れがあるのかな。


「それでこの本をお持ちしました。地味ですがお役に立つこと間違いなしです。パッと開いて、サクッと覚えちゃってくださいね!」


 ローゼさんがちょっと楽しそうに勧めてくる。

 言われるまま本を開いた。


 すると頭の中でピカーッと光が弾け、目の前に、

[ 【隠蔽スキル】を習得しました。 ]

 というメッセージが浮かぶ。


「魔法のリストを思い浮かべて、全ての魔法を隠すイメージをしてみてください」


 ローゼさんの指示通りやってみると、神聖魔法のリストに小さな鍵マークが次々と付いた。


「なんかいっぱい鍵マークが付きました」

「それで魔水晶に触れても聖女認定されることはありません。安心してくださいね。イメージすれば魔法以外も隠せますから、不都合なものは適度に隠すといいですよ」

「聖女認定って今はなんだか怖いですね。教会が結構ろくでもないって聞いた後だと、なおさらなりたくないです」

「うふふ、ろくでもないですか。でもその話は人前ではしないでくださいね」


 ローゼさんが軽く笑って忠告する。

 うかつだったと慌てて周りを見回した。


「あら、おどかすつもりではなかったのですが誤解させてしまいましたね」


 ローゼさんは学園長室を出た時点から、防音魔法を使っていると教えてくれた。

 話し声が外に漏れない魔法らしい。


「エストさんを案内したいと連れ出してしまいましたので、良かったら一通り案内させてもらえませんか?」

「はい! ローゼさんと一緒なら、なんだか楽しそうです」


 初めてのアカデミー。

 好奇心が、私の心をざわつかせる。

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