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天使の思い出に~私はニセモノの公爵令嬢~  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売


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いつもお読みいただきありがとうございます!

次回で本編完結です。

 弟はそこそこ顔が広くなったらしい。

 学園での同級生だった貴族たちに挨拶をし、ペネロペを紹介してくれる。

 さらにそこから年上の貴族にも挨拶をしていく。


「姉さんって社交界出てない設定なのに、やっぱり慣れているよね」

「年食って緊張しなくなっただけよ」

「十代で年食った、はないでしょ。あ、あの方ともう一度話してきてもいいかな?」

「私はここで食べているから」


 メロディの身代わりではないせいか、将来が決まっていないのに今日の夜会は気が楽だ。

 必死に覚えた貴族の名前もなぜかまだ頭に残っている。


 これほど夜会が気楽なのは、メロディ・オルグレンの名前を背負っていないからか。それともペネロペ・ドーソンがただの子爵令嬢で取るに足らない存在だからだろうか。

 ペネロペのことを見る参加者の視線も優しいものばかりだ。やっぱり、これは後者が理由だろう。取るに足らない貧乏子爵家の令嬢が頑張って社交界に出て来たからこんな雰囲気なのだ。


 メロディの時は病弱だったのよねという同情に似た視線もあったが、基本的にすべての視線が厳しかった。


 弟は家を継いで、このような夜会にも頑張って出ていくこともあるだろう。子爵家だから高位貴族との絡みはそこまでないとは思う。

 ペネロペがランズロー子爵令息と結婚していたらきっとこんなのが日常なんだろう。


 メロディが出たくて一度も出られなかった夜会。

 ペネロペは飲み物を片手にぼんやりと会場を眺めた。

 裕福なシンプソン伯爵家なだけあって、花瓶一つ、花一つとってもこだわりが見える。


 憧れの学校生活も楽しんで、将来は決まっていないがもう借金はないから死ぬ気で働かなくてもいい。結婚もよほどでない限り強制されない。

 これは紛れもなく、ペネロペが望んでいた生活のはずだ。それなのにこの味気無さ、つまらなさは何だろうか。

 夢から覚めたつもりが、まだ夢の中にいるのだろうか。


 これではメロディの方が一生懸命生きていた。

 それにメロディといた時の方が、ペネロペも真剣に生きていた。毎日、きちんと生きている気がした。今は一日をこなしているだけだ。


 戻って来た弟に断ってから化粧室に向かう。

 会場から出ると、廊下は少し涼しかった。人が多いと熱気も籠っている。


 化粧室に行ってからすぐに会場に戻る気になれず、シンプソン伯爵邸の庭園を少し歩くことにした。

 オルグレン公爵邸ほどではないが、ドーソン子爵家とは比べようもないほど広くよく手入れされた庭園である。

 クチナシの花だろうか、良い香りが漂ってくる。


 さすがシンプソン伯爵家の夜会といったところだろうか。

 王宮の夜会では庭でいかがわしいことをしている人々がいると聞いたことがあったのだが、この夜会ではいない。明かりが多いからだろうか。


 静かな庭を歩いて、夜会の話し声がどんどん遠くなる。


 ふと見上げると、月も星も綺麗に出ていた。


メロディはどうしているだろうか。

 唐突にそんなことを考えた。

 メロディ、レックス第二王子は王太子になっちゃったよ。新しい婚約者と一年後に結婚というお話だって。

 ねぇ、メロディ。私にはよく分からない。

 きっとあなたなら、どこかでレックス王子いや王太子を見ていて祝福するだろう。

 私はできるだろうか。


 シンプソン伯爵邸の庭で、ペネロペはバルコニーでメロディに向かってした時の様に男性のお辞儀をした。障害物が周囲にないのを確認して、男性のステップをゆっくり踏む。

 音楽は聞こえてこないから頭の中でリズムを取るしかない。


 ねぇ、メロディ。

 私は役目を終えてオルグレン公爵邸を出てから自由になったはずなのに。どうしてずっと私の心には雨が降っているのだろう。


 メロディは自由になれた? うまく呼吸できるようになった? 息切れせずに思い切りダンスを踊れるようになった?


 草に引っかかりかけて足元を気にした。

 綺麗な靴には短い草がたくさんついてしまっている。まるで今のペネロペみたいだ。


 ふっと笑いかけて、急に手を掴まれた。

 驚いて顔を上げる。男性ものの夜会服が見えた。さらに視線を上げる。

 思いのほか近くにあったのは、夜に溶ける黒髪と金色に近い色の目。泣きたくなるくらい懐かしい色だった。


 右手はぐっと握られており、左手は彼の背中に誘導された。

 そのままペネロペは男性パートを、公爵は女性パートをなぜか踊り続ける。


 ペネロペは何か言おうと思った。でも口から何も出てこない。

 公爵も何も言わずによろけかけたペネロペの手を引っ張ってダンスを続けさせた。途中でやめないのはいかにも公爵らしい。


 最後まで踊って、二人は止まった。

 ペネロペは彼の背中から手を離したのに、無表情を貫く公爵は右手も左手も離そうとしない。


「お前がいなくなって、すべてが味気ない」


 挨拶でもしようかと思っていたペネロペにそんな言葉が降って来た。


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