表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の思い出に~私はニセモノの公爵令嬢~  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/20

13

いつもお読みいただきありがとうございます!

 取り調べなどを受け数日たったが、メロディには会えなかった。

 ペネロペが取り調べを受けている間に熱が一度下がったようなのだが、またぶり返したらしい。


 折れそうなほど細い腕、透き通りそうなほどの白い肌。こんなに長い間、メロディが体調不良だった時はあるのだろうか。

 これまでは小姑公爵に隠されていただけで、ずっと会えていなかっただけなのだし。


 取り調べによる緊張からの気疲れで、ペネロペはベッドに横になった。取り調べ担当の騎士たちはとても丁寧で優しく、ペネロペを怯えさせることはなかったが下手なことを動揺して口走らないように注意した。

 魔術契約書を交わしているから、メロディの身代わりの件などは話せないが口外できない様子がどんな風になるか分からないため、うっかり騎士に見られて何か勘ぐられるのも怖かった。


 私は借金返済のお金のためにメロディ・オルグレンの身代わりを引き受けただけだ。

 危険があるとも聞いていたし、実際に危険な目に二度遭った。

 私はもう十分にやった。


 夜会でも第一王子に襲われかけたことを隠してメロディの名誉を守ったし、今回だって第二王子を庇ってメロディの名誉を上げたはず。

 疲れた。

 こんな殺し合いまでする王位争いの世界が現実にあるなんて知らなかった。


 ただただ、恐ろしかった。ペネロペは弟に嫉妬はしても殺そうなんて思ったことはない。

 思わず震えて枕を抱きしめる。


 高位貴族も王族もこれが普通なのか。第二王子の様子を見て、ペネロペは王族になんて絶対になれないと思った。殺されかけても平気そうな顔をしなければいけないなんて絶対に無理だ。

 あの時、馬車の中で死がそこまで迫っていた。

 扉を無作法にガチャガチャさせる音は突然やってきた死の案内人のようだった。


 あんなに死を間近に感じたのは初めてだ。

 そこでふと気づく。

 今、メロディもこんな感覚なのではないだろうか。

 ぶり返す高熱で朦朧としながら、死の足音を聞いているのではないだろうか。そもそもメロディは病弱で、何度も死を感じることがあったのかもしれない。


「死ぬのは、怖いよね……」


 今まで、死なんて全く身近ではなく考えたこともなかった。祖父母が亡くなった時だって、大して何も思わなかった。祖父なんて借金を遺した張本人だから余計に。ペネロペは祖父の尻拭いをしているのだ。


 でも、あの馬車の中でペネロペはしっかり死を感じた。


「こんなことをしてる場合じゃなかった」


 ベッドから勢いよく起き上がると、使用人を呼ぶベルを鳴らす。実家ではこんなことしたことをする前に自分で動いていたが、ここでは慣れてきたものだ。


「着替えを手伝ってほしいの。そして、公爵様に伝言をお願い」


 男性用の服なんて持っていないし、公爵のだってサイズは合わない。乗馬用に用意されたズボンとブラウスを着るしかなかった。髪の毛を高い位置で結って帽子の中に押し込む。


 小姑公爵に許可を貰ってからあの部屋を開けてもらい、久しぶりにバルコニーに飛び移る。


 窓をノックしてしばらくすると、メロディに付き添っていた医者がカーテンを開けてくれた。うつるかもしれないからと、入室は許されなかった。

 窓はしっかり閉まっているが、メロディがベッドに背を預けたままこちらを見て驚いたのが見える。夢かと疑うかのように彼女は目をこすっている。


 ペネロペは笑いそうになりながら、ぎゅっと真面目な顔を作って男性の様にお辞儀をした。胸に手を当てて片足を下げて頭を垂れる。


 そしてメロディに向かって窓に隔てられていたが、手のひらを差し出した。

 男性がダンスに誘うように。


 メロディは夜会で踊ってみたいと言った。正確にはレックス王子と踊りたいという意味だったが。でも、ペネロペは彼女に勝手に一方的に約束したのだ。

 ペネロペが男性側を踊るから練習しようと。


 ペネロペはレックス王子と死ぬのは絶対にごめんだった。それなら、一人で死ぬ方がマシだ。一人で死ぬのもすごくすごく怖かったけれど。

 あんな、穏やかで優しそうな顔をしながら人を人とも思っていない王子。でも、メロディはそんな王子が好きなのだ。婚約を結んだ子供の頃からずっと。利用されていても、会えなくても。


 もしも明日、死んでしまうなら。

 たとえ乗馬服でも、どんなに情けなくだらしないステップでも、メロディにラストダンスを贈ろう。医者はついていても、一人で病気と闘う彼女のために。だって、一人で死んでいくのは怖いから。


 これを神様が見ていて同情してくれたらいいのに。

 貧乏で健康なペネロペとお金持ちなのに病弱なメロディを。


 メロディは意味が分かったらしく弱弱しく笑って、布団の中から手を出してペネロペの方に伸ばす。


 ペネロペは心の中でしっかりその手を握った。レックス王子に代わって。


 覚えきれていないステップの出来はきっと酷いものだっただろう。

 でも、ペネロペは星空の下で精一杯やりきった。メロディは途中から目を閉じていた。きっとレックス王子と踊る夢でも見ているんだろう。


 やっぱり、最初に見て感じたことは正しかった。

 メロディはペネロペにとっての天使だった。


 頭の中はお金のことばかりで、女に生まれたことを悔やんで男を呪って、嫉妬にまみれたペネロペがこんな風に誰かを想えるなんて知らなかったんだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ