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第五十九話、『束の間の休息』

『駆動要塞』編 【1/10】

 ゼータを倒し、海底都市での戦いが終わりを告げる。

 ゾルマは出血が酷く、意識を保ってられるのが不思議な状態だったが、ユシィの治癒魔法により事なきを得た。

 ティアラとソフィアはかすり傷と軽い打撲を負っていたが、何も言わなくてもユシィが治癒してくれた。


 『魔神の紋章』では治癒魔法は使えないが、ユシィには世界でたった一人しか使えない『軍姫の紋章』がある。


「大丈夫か、ソフィア?」

「うん。あたしは全然平気」

「ソフィアじゃと? うぬが我が主様が探しておった妹御か?」


 そう言えば、ユシィが旅立ったのはウェルフからソフィア発見の吉報が来る1ヶ月以上も前の話だ。

 ソフィアにはユシィのことを何度か話してはいるが、実際に二人が会うのは初めてだ。


「はい! 初めましてユシィさん!」

「そう呼んでいいのは妾に忠誠を誓った者か、妾が認めた実力者だけじゃ小娘」

「こら、ユシィ。なんで最初からメンチ切ってんだよ」

「うげ……なんじゃ急に! 初対面の相手は怯えさせるのが妾の流儀なんじゃ」

「やめろ」


 ソフィアを威嚇するユシィをチョップする。

 この二人には仲良くしてもらいたいというか、ソフィアにはユシィに怯えて欲しくない。


「まあ、うぬの妹御ならいいじゃろ」


 不服そうにしながらもユシィは物腰を柔らかくした。


「改めてルノって凄いんだね。こんな人に認められるなんて」

「まあ、僕が認めさせたんじゃないんだけどな」


 ルナがいなければ、僕はユシィに殺されていたかもしれない。


「それより、ありがとうユシィ。助かったよ」

「礼には及ばん。じゃが、何があったかは後で詳しく説明してもらうぞ。大まかには天空神殿で聞かさたのじゃが、色んなことが起こりすぎて訳が分からん!」

「まあ、そりゃそうだよな」

「久しぶりに帰ってきてやったら、ルナ姫は監禁されておるし、うぬは海底都市に向かったと言うし、果てには様子を見に来たらホムンクルスじゃ。意味が分からん」


 ルナが世界連合に捕らわれていることも、世界に終焉をもたらす《ロキ》のことも、アレスのことも、一から説明しないといけない。


「ところで、お前こんなに長い間何してたんだ? すぐに帰ってくるみたいなこと言ってなかったか?」

「ま、まあ……あれじゃ! そう! 魔大陸は広く同胞を探すのに時間がかかった上、好戦的なヤツらばかりで説得に時間がかかったんじゃ。決して、居心地が良くて帰ってくるのを忘れてたわけじゃあるまいぞ?」


 流れるように自白する阿呆魔帝。

 なんで魔法に関すること以外はこうも馬鹿なんだ。


「ふーん。そっか、チヤホヤされるのが嬉しくて、帰ってくるの忘れてたんだ」

「だって仕方ないじゃろ! 妾は魔族にとって、神のように崇める対象じゃったんだから! うぬらとの生活が長く忘れておった……妾はすごいんじゃ、と」

「…………」

「ええい! その目をやめい! もっと妾を褒め讃えよ! もっと妾を丁重に扱うのじゃ!」


 地団駄を踏んで暴れ回る幼女。

 確かに僕は、ユシィのことをポンコツとして雑に扱っていた節はある。

 それに魔法に関して何でもできすぎて、半ば便利屋みたいに頼み事してたもんな。


「ごめんって。ユシィが超すごい世界最強の天才魔法使いだと言うのは僕が一番分かってるから」

「そ、そうかの? なんじゃ、そうならもっと早くに言え。うぬは照れ屋さんじゃな」


 あと、こうやって適当に煽てればいいって思ってるし。


 ルナがいない今、僕たちの中で最強はユシィだ。

 これからパンドラや世界連合と渡り合っていく上で、ユシィは一番の戦力となる。


『なあ、オマエが本当にユシィサマが言ってたご主人様なのか?』


 ずっと上空でこちらの様子を伺っていた魔族たちの内、一人の女の子が僕に話しかけてきた。

 褐色の肌と禍々しい角、漆黒の翼と悪魔の尻尾。いかにも魔族といった女の子だ。


「えっと……ユシィがどんな風に僕を説明したのかは知らないけど、残念ながらこれが僕だよ」

「ユシィサマはオマエを面白い男と言ったんだ。オレはオマエがそうだと思えないゾ」


 面白い男か。ユシィがそう言うのは確かに珍しい気もする。


「そうよそうよ。あんたがユシィちゃんの言うご主人様だなんて信じられないんですケド」

「それに関しては同意だ。ただの人族ではないか」

「あたしたちのことよりぃ、気をかけてるからぁ、それは生意気?って感じぃ」


 続々と地上に降りてくる魔族たち。

 どうやらユシィを尊敬するあまり、僕を疎ましく思っているらしい。

 にしても、全18人の魔族。その中で異彩を放つ7人がいる。


「そやつらは妾が選んだの直属の部下。『七災魔皇』じゃ。妾に忠誠を誓っておるから、うぬに危害は加えんよ」

「本当に魔大陸で何があったんだんだよ……」


 ユシィが改めてすごい存在なんだと思い知らされる。

 多種族と仲良くしてもいいって言う魔族を連れてきてくれと頼んだが、どうやら判断基準はユシィに忠誠を誓っているかどうからしい。


「オレは絶対にオマエを認めないゾ!」


 そんな他愛のない会話をしていると、ゾルマとティネアが神妙そうな面付きで話しかけてきた。


「ルノア。俺たちは一度、アトランティスに戻ろうと思う。奴が消滅し、凍らされた住民たちがどうなったのかを見に行きたい」

「そうだな。僕もついていっていいか?」

「頼む。元よりそのつもりだ」


 魔法は術士が死ねば、大抵は効果が消えるものだ。

 しかし、30年も凍り続けている以上、確信はない。


「なら、妾もついて行く。その凍らされた住民とやらに興味がある」


 その提案にゾルマは顔を顰める。

 魔族に対して良いイメージを持つ種族は少ない。


「安心してくれ。ユシィは信用できるし、馬鹿だけど魔法に関してなら右に出る者はいないから」


 馬鹿だと揶揄されたことに気づかず胸を張るユシィ。

 こんなに頼りがいのある仲間はいない。



 それからゾルマとティネア、ユシィと僕、そして置いてくる訳にもいかなかったソフィアとともに海底都市に戻った。

 ゼータに効果を刈り取られた海中探索の魔道具は、ユシィがあっという間に直してくれた。


 海神の祠は崩壊し、内部は氷漬けになっている。

 それで嫌な予感はしたが、住民の氷は溶けてはいなかった。


「やはり……戻ってきてはくれないのか」

「お兄ちゃん……」


 諦めと絶望が渦巻いた。

 抱いた希望が打ち砕かれたとき、心は簡単に折れてしまう。

 重苦しい空気の中、空気を読めない奴が一人。


「面白い魔法じゃな! 魔法で作りだした氷が、永遠に解けないようになっておる」

「おい、ユシィ……」

「じゃが、妾にかかればこんな魔法は無効化できる。忘れたのかの? 妾は魔法陣は消せんが、発動後の魔法は打ち消せる」


 そう言うと、ユシィを中心に魔力の波が広がった。

 これは、ゼータとの戦闘で見せた無詠唱魔術『魔法妨害(マジック・キャンセラー)』だ。


「氷が……溶けていく」


 凄まじい勢いで氷が解け、街中の氷像が人の姿へと変わっていく。

 これが、世界最強の魔法使いの実力。


 開放された人たちを支え、ゾルマはその温もりを感じた。


「生きてる……皆、生きているぞ!」

「安心せえ。あの魔法は人を殺さん。氷像が壊れていない限り、皆無事じゃろう」


 壊れていなければ。もしゾルマが氷像を安全な場所で管理していなければ、全員無事なんて奇跡なんて起こらなかっただろう。


「ルノア。俺たちは後始末があるため、暫くはここに残る。そして全ての後始末を終えれば、お前とともに戦おう」

「分かった。僕たちは一度天空神殿に戻るよ。その後で必ず迎えに来る。今の約束忘れんなよ」

「ああ。約束しよう」


 ゾルマと固い握手を結び、ユシィが描いた転移魔法陣を使って、僕たちは天空神殿へと帰還した。



〜〜~



 同時刻、バロア王国。

 一足先に向かった神殿騎士団は、駆動要塞の調査に難航していた。

 『牙』の戦闘員で構成された一番隊の隊長ラーファと副隊長のアップは、大量の調査資料に頭を抱える。


「これだけ調べても、都市伝説や単なる噂に至るまで駆動要塞に関する情報がないとなると、やはりこの国には駆動要塞はないのかもしれませんわね」

「ルノア様の予測が外れたということですか?」

「いえ。たった今本部から、ルノア様とソフィア様が海底都市の調査を遂行して無事に帰還なされたと連絡がありましたわ。その際に例のホムンクルスとの戦闘もあったと」

「それは良かったです! しかしそうなると困りましたね。ルノア様が仰るには、駆動要塞はかなりの大きさだそうですが……」


 ラーファは地図に描かれた座標を確認して眉を顰める。

  この国にはそれらしい物体はおろか、巨大な建築物ですらそう見られない。

 移動する巨大な要塞だなんて、一度でも確認されれば伝承や噂くらいにはなっていはずだと踏んでいた。


 しかし、それらしい報告は一切上がってこない。


「それで、例の『彼』は何か動きはあったかしら?」

「今も尚、二番隊が監視を続けているそうですが、依然目立った動きはないとレイナさんが」

「そうですか。あまり接近しすぎず、身の危険を感じたらすぐに逃げるようにお伝えくださいまし」


 二番隊は、戦闘能力のない天族で構成されている。

 そのため尾行や情報収集など隠密行動に徹している。

 隊長はレイナ。神殿内部の調査隊を率いていた実績を買われ、二番隊の隊長を任された。



「何か、嫌な予感がしますわね」



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