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チートゴースト  作者: 未知風
最終章「約束を果たすために」
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4話「元いた世界とのリンク」

物音が静かになる。逸らしていた目をまっすぐ向ける。有川さんの翼は閉じられていた。


「あぁ、もう。戦いにくい。ユキさん、例の用意出来ますよね?」

「えぇ、メイドですから。ごめんなさい、花咲さん、例のものをお願いします」

「は?何であんたに手を貸さなきゃいけないの?メイドなら自分でやれば?」

「あーぁ、楓ちゃん、私を裸にしていいのかな?あなたが気になってるあの人を殺していいのかなぁ?ちらっ」


有川さんは花咲さんの様子を伺ってまだ話し続ける。


「そうよねぇ、楓ちゃんはすごい強いもんね。でも今ここで謝ってアレを用意してくれたらもっと好きになるかもね、あの人は?ちらっちらっ」

「ごめんなさい。私も悪かったです。では、用意します」


そう言って花咲さんはユキさんと有川さんを連れて端っこに行く。そのついでに扉の近くで倒れ伏せていたテンマがこっちに投げ飛ばされてきた。


「おかえり」

「ただいまっす、兄貴」


彼はそう言うなり、立ち上がった。そして腰にかけていた鞘から剣を取り出す。


「兄貴、俺決めたっす。師匠だろうが何だろうが関係ない。目の前にいる敵を薙ぎ払います。それが……」


彼は剣の持ち手のところの真下に触れた。すると音声が流れた。


『正義ダハハハ。あっ、正義打破?どうでもいいから笑っておけ。ダハハハ』、と目の前にいる魔王の声が流れる。


「お前、それ初めてもらった武器か?」

「なぜ分かったのですか?兄貴」

「それは……共に過ごしてきたからな」


本当は鞘にあるハートマークのシールの『初武器

』がある、なんて言えるわけがない。その時の彼の師匠への思いを踏み潰すことはしたくない。だからこそあいつを倒すのだ。

そう覚悟した時に頭痛が起きた。しかも今まで以上に。


「うがっ!!」

「兄貴?」


私を気にして彼は近寄る。そんな時、アポロニアは力を溜めた魔法を「ブラックデリート」と叫んで私たちに向ける。黒い大きな光線が私たちをめがけて飛んで来る。私は咄嗟に彼を突き放した。その動作で私の記憶は思い出された。あの時のことを。


「……くっ。この……」


目の前に有川さんの背中と赤い翼が見える。しかしその翼がみるみる消えていく。

なるほど、あの光線は消えるものだったのか。


「よいしょっと」


花咲さんは有川さんの体と二つの翼が交差された間の距離の中に入っていく。

まさかまた彼女は仲間のために消えるのか?


「花咲さん……こんな時に言うのもなんですが、君にまた会えてよかったです」と私の頬に一筋の涙がこぼれ落ちた。

「私もです。だから共に帰るべき場所に帰りましょう。それまで私は……」


花咲さんは後ろ向きでそう言うが、私を守っていた有川さんの交差した翼は解かれて話途中の花咲に黒いそれは注がれていく。


(ん?注がれてる?いや、あれは吸い込んでる!?)


徐々にその注がれてる範囲は狭っていき、彼女の顔一点……いや、あれは口元一点を集中して吸い込まれてしまった。

そして吸い込み終えた花咲さんは口に腕をゴシゴシと真横に動かすなり、そのまま私に背を向けて言う。


「あなたのそばを離れませんから」

「花咲さん、何をしたの?」

「すべて吸い込みました。だって私はただの幽霊ではございません。チートゴーストなのですから」


魔王はそんな私たちを見てアポロニアに言う。


「そんなの反則だろ。お前ら、何の能力を使った?まさかお前らホントに幽霊を?おい、アポロニアやれ!!」


そうか。そういえば魔王に初めて会った時、彼は彼女に何も触れてなかった。私がただ「見えてますよね?」と聞いてそれをまるで見えたかのように演じ切ったのだ。そして有川さんを私に託して彼女の裏切り行為として私を殺すつもりだったのだろう。


「お前、人の恨みの怖さってどんなに怖いか知ってるか?お前は人に恨みを重ね過ぎた。まず俺がこの世界に来る前にお前はある女子学生を背後から蹴っ飛ばした。まぁ、目の前で列に並びながら有川さんとガールズトークでもしていればイラつくだろう。そしてお前はそれを消したくなったのだろう。しかし予想に反して近くにいた私が彼女をホームへ戻そうとした。まぁ、余談だが近づけた際に彼女とキスをしてしまったがな。それから弾き飛ばそうとしたが、時間が足りずそのまま電車に大激突。ちょうど駅のホームの後ろ側、つまり電車の入るところにぶつかれば電車を止める時間は難しいだろ?そこまでしてまでお前がイラついていたのは分かるぜ。なぜなら、お前は指名手配犯だからな。見た目は異なるが、おそらくそこにいる彼女とテンマ……いや、天馬義和てんまよしかず君を拉致して殺害したからな。その日の家から出るニュースを見て思い出したよ。これで俺たちのそばにいたのが誰だか分かるよな?」

「まさか……あの時の女か?」

「ゴーストビッグハンド」


花咲さんは大きな手を彼にぶつける。そして声を荒らげて言う。


「えぇ、そうよ?あなたに蹴っ飛ばされた花咲楓よ」


彼はそのまま殴られそうになるが、自分の拳をあげてそれを止めた。そして彼女の大きな手は塵となって消えてしまった。


「あぁ、すべて気付かれてしまったか?胸糞わりぃ。おい、アポロニア、こいつらを殺せ」

「あのぅ、誰にご命令してんですか?魔王さん?私が嫌ってるあなたに指示を従うとでも?」


アポロニアは彼に向かってそう言った。


「無駄よ、彼女にかけた催眠も私が吸い込んじゃったから。まさかうちのお姉ちゃんまでこの世界に連れてくるとはね」

「それって誰のこと?」とユキさんは花咲さんの言葉に首を傾げて私に聞く。

「普通に考えて残っているユキさんですよ」

「私だったのか!!」


私が教えると驚いて彼女はそう呟いた。


「いや、まだだ。俺はお前らを倒してこの世界でのびのび生きてやる。ダハハハ!!」


彼はそう言うなり、自分の腕を一回噛んで自分の右手の拳と左手の手のひらを上下に合わせた。まるで取っ手のないコップに何か布を引いているかのような両手の形である。そして彼の体がみるみる大きくなる。

魔王の城が徐々に破壊されていく。


「テンマ、お前は城の近くにいる者達に外に出ろと伝えにいけ」

「でも……」

「あいつらも俺の仲間だ。だから俺を兄貴と呼ぶならあいつらを頼む」

「でも……」

「行けって言ってんだろうが!!」

「テンマさん、行きましょ?皆さん、必ず待ってますから」


彼女はテンマの手を取り、”ワープジェット”と言いながら消えた。


「それでどうするのよ、これから」とユキさん。

「すまん、何も考えてない」


地鳴りと共に静まる空気。ユキさんは「この最低男がー!!」と叫ぶ。そんな私たちの顔に向けて大きな瓦礫がこぼれ落ちてくるのだった。

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