2話「恋という病ほど恐ろしいモノはない」
私はテンマから離れ、リュックの中に入っていた紐で両手両足を絞めようとした。しかし彼はちょうど目が覚めてしまい、私に向かって言う。
「兄貴、俺、男とそういう趣味ないっす」
「は?変なこと言うなよ?昨日、自分を裏切ろうとして腹パンしただろう?ここにいるってことは逃げ出さずに俺に捕まりたいっていう意味だろ?」
「兄貴、ひとまず落ち着いてください。裏切る気はありません」
「落ち着けるか!!」
大きな声でそう言う。すると背中に柔らかいモノと胡坐をかいて座ってる私に両足で私の体を押さえ込み、両手で口を押えられる。
「んんー」
私は何も言うことができなかった。後ろを振り向けない。急に両足に重みが加わる。
「はひゅっ……あまり舌で指を舐めたり動かないでください。むふっ……くすぐったいですぅ」
後ろの者は花咲さんのようだ。彼女のせいで聞くこと以外どうしようもできない。無理矢理振り解くという手があるが、彼女を含めもう一つのテントにいる女たちの反応が怖い。しかもあの中にアポロニアがいる。彼女が少しでも嫌気を起こせば私を処理することは容易いだろう。背中に汗が流れて色々とやばそうだ。流れるなよ、流れるな、絶対に。
彼は一瞬、彼女の行為を見て話を止めていたが、そのまま話を再開した。
「兄貴を腹バンしたのは我ら正義の騎士団の一員フェニだ。彼は兄貴を気絶させて俺と共にここに運んだ。そしてその後、今現在もモンスターを討伐している。彼だけじゃない、双子の女副隊長とルシアも来ている。また、彼らを中心に王都から来た奴や先ほどの町から有志で参加に来た奴らもいる」
「んんー」
「兄貴、何言ってるか分からないっす。花咲さん解いていいよ?」
「却下」
急に彼女の声に恐怖心を抱く。
「わがままはだめだよ?それともそのまま興奮してたいのかな?
「うん、そう」
「いや、否定していいんだよ?」
急に彼女は私の首を横にして私の頬に冷えた柔らかい唇を当てる。
(何してんですか、花咲さん)
私は心の中でそう訴えかける。
「好き、大好きです……あれ?何か硬いものが足に……同感ってことかしら?」
違う、花咲さん。君が変なことするからだ。
「ねえ、開けてもいい?」
そう言いながらユキさんがテントの中に顔を覗かせる。
「最低男さん、何しているんですか?彼女を二人の男のテントに連れ込むなんて。あっ、もしかして幽霊だからいいと?やっぱり最低ですね。ねっ、有川さん?」とユキさんはまるでゴミを見る目で言う。
「えぇ、そうね?そんなことよりアポロニアもこっちに来なかったかしら?」と有川さんは棒読みで聞いてくる。
花咲さんは一瞬、有川さんの言葉に反応してびっくと一瞬だけ震えた。私の体に密着しているので分かりやすかった。
「アポロニアいないの?」と私は聞いてみる。
「えぇ。もしかしたら昨日の夜のことが原因かも……」とユキさんは口をつぐんで黙ってしまった。
有川さんが彼女の口を手で押さえ込んだからだ。
「ふーん、三人ともそこに正座で座りなさい」
私の言葉に三人の女は中に入っていく。
「じゃあ、俺は近くでアポロニアを探してくる。何かあれば全速力で戻ってくるので兄貴たちはここにいて。あっ、これ置いておきますね。使い方は書いてありますので」
「あぁ、頼む。もし魔王と対決しているという情報入手したとしてもすぐに戻って来いよ」
彼女たちを見ながら話していたが、三人はその言葉を聞いて一斉にびくっと震える。やはりこれは最悪な展開なのかもしれない。そもそもアポロニアは魔王の子どもだったはずだが、王都に母親と共に行かされたのだ。なぜなら彼女を捨てたからだろう。そしてそんな彼女を見たら魔王は彼女を殺す、もしくはそれ相当のことをやりかねない。あくまで予想であることを祈ろう。
「炊飯ジャー!!」
彼は手のひらを地面に平行にして額に当てる。そして出て行った。
彼を見送った後、私は三人に向き合う。
「それでアポロニアが魔王へ行っただろう展開になったのはどうしてかなぁ?」
私がそう言うと彼女たちは驚いた表情をしている。
「あんたが原因なんだからあんたが言いなさいよー」とユキさん。
「はぁ?それじゃあ、ユキさんは悪くないわけ?」と花咲さん。
「えぇ、そうよ?何か文句でもおあり?ぺっ」
「あるわよ?責任逃れさん?はぁ、メイド姿なのにどうしてつば吐くなんてお仕置きがなってないですね?私がしつけてあげましょうか?」
花咲さんは彼女の髪の毛を引っ張る。
「痛っ。幽霊のくせに成仏しないでいるから恋しちゃうんだよ。あんたなんて煙と同類なのよ、バーカ」
「は?何よ?」
二人はお互い髪を引っ張り合って涙目になってる。そしてはっとした表情で端っこにいる有川さんに言う。
「あんたも何か言いなさいよ?」と同時に有川さんを見る。
「あなたたちみたいなのとケンカするよりも私は冷静に話した方がいいですから。お構いなくどうぞお好きに」
「何よ、むかつく!!」とユキさん。
「あの子からやった方がいいかしら。羽を千切るとかなんなら全裸にさせます?」と花咲さん。
こいつらはまったく。けど、花咲さんとユキさんってこんなに仲悪かったっけ?好き好き状態だったのはいつの頃だったか……。あぁ、何となく見えてしまった。この喧嘩の原因が。
有川さんは羽を広げて私と二人だけで話せるように空間を作る。
「先に言っておきますが、あなたが原因です。できればとばっちり食らったので謝ってもらいたいんですけど?」
「何かまだわからないけど、ごめんなさい」
「はぁ……まっ、いいでしょう。まずは昨日の夜、アポロニアさんと花咲さんがあなたのことを思って二人で話してたのです。そして花咲さんが【もしあなたが魔王を一人で倒せるなら彼はあなたのことをもっと好きになるわよ?できなければ私のものになるわ、だってそれが運命なのですから】と。それでアポロニアさんはほんの少し前に魔王へ行ったのだと思います。そしてなぜユキさんが彼女と喧嘩をしたのか?それはあなたに嫉妬をしたからでしょう。たとえ今こんな状況でもユキさんは幽霊である花咲さんのことが好きでしょうから」
話し終えてから、彼女は自分の翼を折りたたみ始めた。そこには水に濡れて電気か何かに痺れている二人が重なって横たわっていた。
「有川さん?」
「あぁ、これは彼女たちの自業自得です。私の翼の炎を消すために水をかけたり雷を降らしたりなんて愚かなことをするのですから。オンオフできるというのに。さて、彼女たちに首輪をつけてあげましょうか?」
有川さんはにやにやしながら彼女たちの腹に紐を一回転通してから結び、そのまま手にも一回転巻いて首に一回転回して結んで紐を垂らしている。それが二体完成する。それらを背中合わせにしてくっつける。水に濡れたせいで下着がうっすら見えてきそうだ。
「さぁ、この危なっかしい羊どもに傷跡を付けましょう?ぐふふ」
「有川さん、出会った当初から君のこと悪魔か天使か分からなくなるんですけど」
「私の羽は灰色……今はオレンジでしたね。まっ、それに関してはこの際どちらでもいいですから」
話すこともなくなった私たちはテントの外に出た。
「なんだよ、これ?」
そこにあったのはモンスターが消滅していく光と共にたくさんの骨が散らばっていた。明らかにその骨の種類は人間みたいなのが多かった。
「兄貴ー!!」
テンマは走ってちょうど近くまで来たところのようだ。
「兄貴、大変なんだ。アポロニアが……」
「あぁ、分かってる。お前ら、テント片付けるぞ。そして出発だ」
「あとフェニからの伝言で『ここら辺は全てお任せください、なので皆さんは先に行ってください』だとよぅ」
私たちはテントをしまった。有川さんは微笑みながら二本の紐を手にしている。そして私は一枚の紙を取り出す。そして一言叫ぶ。
”ワープジェット”、と。
本日18時にもう一話更新予定です。




