2話「この町のために」
私たちは九0七号室に案内される。
「ごゆっくり」
ユメさんはそう言って外に出て行った。遠くまで見える町、その町にところどころ建物が崩壊して行く。そして人を斬る黒い服を着た輩がたまに見える。
「むごいことをするわね」と有川さん。
「あら、これは何かしら?」
ユキさんはリュックから液体の入ったボトルなどを取り出して私に聞いてくる。
「……」
先ほどの頭の痛みは何だったのか。私はそれを追求していた。
「あら、どうしたの?頭痛いの?」
「いや、何か思い出したらような気がして……」
私がユキさんに伝えると、花咲さんは何か嬉しそうにこちらを見たが膨れっ面に戻ってしまった。
どうやら、あの電車の事故に何かあったらしい。
「どうやら、これ私の母が私にくれた応急処置道具らしいわ。説明書までビッシリある」
「なるほど。よし、戦闘準備を始めよう」
「その前にこの紫色の液体をみんな飲んで」
見る限りやばそうな液体が瓶の中に入っている。
「それ、飲んで平気なの?」
「それは……ぐすんっ……私がダメイドだから?ひぐっ」
ユキさんは泣き声混じりに言う。何か私が彼女を泣かしたみたいで嫌だな、この状況。
「あっ、私は平気だったわよ?」
いつの間にか飲み終えている花咲さんはそう言う。
「お前の場合、幽霊だから参考にならん」
彼女の握っていた瓶に急にヒビが入る。彼女を怒らせてしまったようだ。
しかし彼女は誰かの呻き声で顔の表情が一変する。
「うっ……」
有川さんだった。彼女は近くにあった瓶を飲むなり、その場で呻き声を漏らして倒れ込んだ。
「なっちゃん!?」
彼女は床に頭を付けて目を開けたまま、こちらを見ている。羽は天井に向けてピーンと立っていた。ん?羽根の色がおかしい。
「……つい……あつい」
有川さんはそう言っている。
「これ、まずいんじゃないの?」
「いや、大丈夫よ?って夏川さん、違うの飲んじゃってる!!オレンジの飲んだわね?」
「どうなるんだよ?吐かせろ」
「胸を揉めば大丈夫かしら?」
「何言ってんだよ、ダメイド」
そんな時、システムメッセージが記される。
『WARNING!WARNING!WARNING!』
赤字でそれが記される。
「花咲さん、どうすれば?」
「私のこと、大好きって言ってくれますか?」
「こんなときに冗談言うな」
「真剣です」
私はとにかく今、一番解決できる方法であるそれを言う。
「花咲さん、大好きです」
「下で言って欲しかったけどいいわ……じゃ、さよなら」
へ?
花咲さんは彼女の体に入ってしまった。そしてゆっくり立ち上がる有川さん。その体でそのまま窓に歩いて行く。鍵を開けベランダに行く。
彼女の羽は灰色ではなく、美しい炎の羽の形になった。
「うわーん」と有川さんは大号泣をする。
「痛かったのかしら?」とユキさん。
「WARNINGってそういうことか。火事で騒がられると困るもんな……あれ?でも俺らなんで助かったんだ?」
彼女は首を振って私たちに涙をこぼしながら言う。
「違うの。大切な誰かが私の中に入ってきてなんか切なくて……でも誰だか思い出せなくて。あっ、ちなみにこの翼、炎オンオフ出来ます。オレンジの翼になりました」
「実は私も先ほどから誰かいたような気がしてたんですよね?でもここにいるのは三人ですし。パーティーにもそう表示されてますから」
確かに彼女の言う通りそう表示されている。そういえば私は一度死んだんだっけ?
「まぁ、いいや。とにかくこれを飲もう」
私は紫色の液体を口にした。体が回復して力がみなぎってきた。なにかいたはずで記憶が曖昧になっていく中で私たちはこの町のために今、部屋を出て行くのだった。
次回より午後五時更新予定です。




