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チートゴースト  作者: 未知風
3章「王都をめぐる闘い」
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7話「決意は温めてから下すモノである」

私はアポロニアの母親の手から離れたまま放置されている魔法が使える本を拾う。


「吉田さん」


アポロニアは私に声をかけてくる。


「あぁ、そうだな。お前に返すよ」と本をアポロニアに差し出す。

「いいえ、持っていてくださいな。今回の報酬としての一つですので今後の敵に活用してもらえれば助かります。また、先ほどの武器は直すのに体力と時間がかかるのでこちらに任せてください」

「すまんな、大事にする」


彼女は微笑んでいた。しかしその微笑みには悲しさを堪えているのが分かった。


「さて、助けに行くか」とテンマ。

「どこに?」

「この城の地下だ」


私の質問ににんまりと微笑むと、彼は地下に向けて黄金の扉から部屋を出た。彼女の母親の亡き死体をそのままにして振り返ることなく私たちは彼の後ろを付いて行った。

階段を降りて一番下の階に向かう。


「こんな場所があったなんて」とアポロニアは驚く。

「あぁ、アポロニアは知らなかったな。ここはかつて俺らの正義の騎士団が管理する”地獄の境目”と名前が付けた牢屋だ」

「人を殺したりしたの?」

「当たり前だ。それでもってアポロニアたちを守れていた……と思ったのだが、あの魔王部下”ピアルゴ”が来たせいで俺の仲間は全滅。お前の父親は禁断の黒魔術に手を出してしまうは母親はあの有様だ。俺もまたこの中に入りそうになったんだが、アポロニアが隙を作ってもらったお陰で捕まえた奴らをぶっ飛ばし、何とか城の外に出たというわけだ。そして適当に歩いていたら兄貴たちに遭遇したというわけだ」

「”ピアルゴ”?」

「あぁ、二本の角が生えたムカつく仮面をかぶった黒い鬼だ」


彼は私の質問に対して、そう返答した。


「テンマ隊長?テンマ隊長じゃないっすか?」という若い男性の声が聞こえる。

「ルシア、フェニ、あと何か……」

「いや、副隊長二人の名前忘れるって何なんですか?マレとヒヅキですよ?双子ですよー?無視すんなー」と一人の女性が言う。その近くに似た顔の女性がいた。


どうやらその牢屋には四人ほど鉄越しからこちらを覗いていた。他の鉄越しにも人がたくさんいた。先ほど殺したであろう黄金の扉の前でいた執事みたいな人たちもいた。まさかとは思ったが、扉の前にいた奴らは彼女の母親が作り出した偽物だろう。

どうやら、ここにいるのはこの王都にいた市民たちがいた。アポロニアはその中にいた人を見る度に名前を呼んでいた。だが、この牢屋のどこを見ても彼女の母親はいない。


「カギはどこかしら?」と有川さん。

「奴に盗まれました」と牢屋の中の一人が言う。

「おやまあ、どこまで下衆≪げす≫なのかしら」とユキさん。

「あのう、私の指は”ゴーストキー”を使用すれば鍵にもおなります。なので皆さんが話している間にもう開けてしまいましたわ。なので皆さんにお伝えくださいな」


花咲さんは私にそう言う。さすがチートゴースト。だが、実際に触れない限り声を聞かせることも姿を見せることもできないとはな。


「扉を押してみてください」と私は言う。


牢屋にいた者たちは各自扉を押した。鈍い音とともにその隔たりは解放された。


「自由だ!!おぉ!!」などと感銘の声が鳴り響く。


一人の執事が言う。


「女王様を助けなければ!!」


その声に反応して周りの人々は「そーだ!!」と言うなり、出口に向かう。


「あのう、聞いてください!!ねえ、聞いて」とアポロニアは大声で言う。しかしここの人たちには聞こえない。


「聞けっつってんだろが!!」と出口に向けて何かが飛んできたかと思えば、大きな石が出口を塞いだ。それを見てすかさず有川さんは翼を広げて、この場にいる全員を守り抜く。


「やりすぎだが、ありがとう、花咲さん」と私が褒めると彼女は照れた。

「アポロニア」と彼女を諭す。

「みんな、落ち着いて聞いてください。母親は今回の主犯でした。いや、父親もテンマさんも陥れたのは彼女でした。そんな彼女を彼らとと共に戦って殺したのです。それでも彼女は私に対して”がんばって”と言いました。なので本日、いや、この時をもって私は王の座に就くことにします。でも私一人では何もできません。だから、手伝ってくれませんか?」


一瞬、静まり返ったが、「あぁ、もちろん」などという声が飛び交った。アポロニアは深々とお辞儀をした。私はそんなアポロニアの体を両腕で静かに抱いてやる。

アポロニアのすすり泣く涙が私の腕の中に静かに聞こえた。それと同時に柔らかくも硬い何かが当たる。私は軽くアポロニアの股間を手のひらで触れてみる。


マジか……。


「あのう、もしよろしければ宴に……と言っても軽く復興作業もありますし、早くとも一週間以降以内になりますが、王都の英雄さんたち、来てくれませんか?」

「王都の英雄さんたちか。なら、一番頑張ってくれたアポロニアに正式な王となった式を祝ってください。それが私たちの宴ですから」

「ふははは。いいでしょう、いいでしょう。ならば、明日にでもしてあげましょう。その方が英雄さんにとってもいいのでしょうから」


彼の言い終えた途端、拍手が鳴り響く。


いや、やめろって。拍手とか。俺、この城に来れなくなってもおかしくないからな。


アポロニアは頬を少し赤らめて黙っていた。ちなみに近くにいたユキさんは「最低」という言葉を連呼していた。


私たちはアポロニアと別れて客室間に執事に案内されるのだった。

次回より午前9時更新予定です。

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