(3) 待ち合わせ
長いトンネルを抜けると景色が森林に変った・・・・
信行は、薄いピンク色の封筒をバックから取り出したが、開封するか迷っていた。
その理由は、自分宛てではなく、間違いの可能性もあるからだった。いつまでも悩んでいてもしかたがないので、意を決して開封することにした。封を切った。
中の手紙を取り出し、目を通した。手紙の内容は・・・・・
「突然お手紙を差し上げる失礼をお許し下さい。先週、新潟行列車の中から手を振りました者です。覚えていらしゃるでしょうか?
本当は直接お渡しすればよいのですが、もし受け取ってもらえなかった事を考えると、直接お渡しする勇気がでませんでした。この手紙を差し上げた用件なのですが、スキーを教えて頂けませんでしょうか?誠に身勝手なお願いですが、よいお返事をお待ちしています。・・・・西郷久美子」
手紙を読み、信行は驚くと同時に嬉しく思った。家に戻るとその日のうちに返事を書いた。
「拝啓、西郷久美子さま お手紙本当にありがとうございました。思いがけないお誘いに心躍る思いです。もちろん、ぜひ一緒に滑りましょう。今週末の日曜日に石打スキー場に行きますので、都合が宜しければ、第一ゲレンデ前の丸山食堂で9時頃お待ちしております・・・田中信行」
翌日の朝一番に投函した。
待ち合わせ当日、信行が丸山食堂の中に入ると、ストーブの前に女性が座っていた。女性は、信行に気が付くと、慌てて立ち上がり、信行に向かって頭を下げた。
信行が・・・
「西郷さんですか?」
「はい、今日は無理なお願いをして申し訳ないです。ご迷惑でしたか?」
恐縮した表情で言った。
「いえ・・・手紙を頂いて嬉しかったです。早速滑りに行きましょうか。着替えをしますので・・・」
信行は少し慌てて奥の部屋に入り、着替えをした。久美子はすでにスキーウエアだった。
二人はリフトに乗った。信行は久美子に
「手紙に書かれていた住所は、長岡市でしたが長岡は、新潟市の方ですか?」
「そうですけど、長岡は、新潟市の手前です」
信行は、有名な浦佐スキー場が在る近くですか?と聞くと、浦佐と新潟市の中間ぐらいかしら・・・と答えた。
「ぢゃ~ぁ、スキーがお上手なのでは?」
その問いかけに久美子は、都会の方は、雪国に住んでいる人が全て、スキーが上手だと思っているみたいですが、スキーをしない人の方が多数ですし、私みたいに下手なスキーヤーの方が多いのです。その証拠を今お見せします。と笑った。
リフトを降り、先に信行が滑り、それに続いて久美子が滑った。信行が滑りながら後ろを振り向くと、久美子が言った通り、初級者より少し上手なくらいの足前だった。
下で待つ信行の横で止まった久美子は・・・
「ねっ!言った通り下手でしょ」
無邪気に笑った。信行は、無邪気に笑う久美子を見て、心がざわついた。
続く