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(2)長いトンネル 手紙

信行は 「トンネルを抜けたら手紙を読もう・・・」と思った。

 信行は翌週も石打スキー場に滑りに行った。いつもの食堂でウエアに着替え、ゲレンデに出た。その日の雪質は、上越地方独特の湿雪だった。2~3本滑ったあと、食堂に戻り、預けているバックから湿雪用のワックス取り出し、スキー板に直接塗り込んだ。

板を履き、左右のスキー板を上下に動かしながら滑り具合を確認した。ゲレンデに出て滑ると、塗る前に比べ滑走性に格段の差があった。


信行が熱心にスキーを練習しているのには理由があった。それはSAJのバッジテスト1級を受けるからだ。

作シーズン何回か受けたのだが、合格出来なかった。その事が悔しくて、今シーズン、頑張って練習をしていた。

不整地種目は毎回合格点を出すのだが、ロングターン種目に点が出ず、受けるたびに不合格だった。2月の終わりにバッジテストを受ける予定だったので、熱心に石打スキー場に通っていたのだ。


 今回もリフトの終わりまで滑り、いつもの様に食堂で着替え身支度を整え、石打の駅に向かう途中の肉屋に寄った。肉屋は中年の夫婦が経営していた。


旦那は、無口だが誠実で真面目な人だった。おばさんは、真逆の性格で、明るくお喋りだった。信行が店の中に入りコロッケを注文すると

「直ぐに揚げるから少し待ってね」

と言うと、手際よくコロッケを油の中に投入した。

 

 その間、信行が外を見ていると、スキー板を担いだ2人の女性が駅の方に歩いて行く。その中の片方の女性が信行が店内にいる事を見つけ、信行を見つめた。その女性は、先週、新潟行きの列車から信行に向かって小さく手を振った女性だった。

 

熱々のコロッケの袋を持ちながら、信行はいつもの様に駅の待合室で食べるか、悩んだ。その理由は、先週、先ほどの女性に待合室でコロッケを食べて居る様子を見られ、笑われたからだ。


笑われたと感じたのは、信行の被害妄想的考えなのだが、駅の待合室で無神経にコロッケを食べているのは、少し常識が無いと思った。結論として駅の待合室で食べず、今日は、列車の席で食べようと思った。


 キップを購入して待合室に行くと、先ほどの女性がベンチに座り連れの女性と楽しそうにお喋りをしていた。信行は、少し離れたベンチに座り、列車の到着を待った。しばらくして列車の到着を知らせるアナウンスが放送された。待合室で待っている人達は、荷物を持ち、改札口に向かった。


 改札口に並び、駅員に乗車キップを見せ、ホームに入った。先週と同じ時間帯だったので、新潟行きの列車が先に到着し、すぐに出発した。そして、先週と同じように信行が列車を見ていると、先ほどの女性も列車の中から信行を見ていた。

 

信行と目が合うと、女性は、信行に向かって、先週と同じ様に少し微笑みながら、小さく手を振った。先週と違ったのは、信行も照れながらではあるが、手を振り返した。

信行は・・・

「来週も会えるかな・・・」

とつぶやいた。


 翌週も信行は、石打スキー場に滑りに行った。リフトが終わるまで滑り、食堂で着替え、石打駅向かう途中の肉屋に寄ると、店のおばさんが

「美人の女の子から手紙を預かっているよ」

とニヤニヤした表情で言った。


信行には、手紙をくれる様な女性が思い当たらないので

「僕にですか?」


 聞き返すと、毎週コロッケをスキー帰りに買いに来る若い男性に渡して下さいとハッキリ言ったよ。そんな男性は田中さんしか居ないからね。と笑った。


 狐に化かされた気分で手紙とコロッケを受け取り、石打駅に向かった。待合室を見ると、あの女性は居なかった。また会えると期待していたので、ガッカリしたが、次の瞬間。

「もしかしてあの女性からの手紙?」


 そして、手紙をポケットから取り出し、封を開け、読もうと思ったが、躊躇ちゅうちょした。

その理由は、肉屋のおばさんが誰かと間違って手渡したのではないかと考えたからだ。

やがて、信行が乗った列車は、長いトンネルに入った。

「トンネルを抜けたら読もう・・・」


窓から列車の進行方向をみると、暗闇の先に淡い光がぼんやり見えて来た・・・・


続く・・・



 

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