(1) 駅の待合室 出会い
関東地方に寒気が覆いかぶさり、信行の頬に冷たい風が刺さる。信行は、上野発長岡駅のホームで、23時発の石打行の夜行列車を待っていた。
やがて上野駅始発の夜行列車がホームにゆっくり滑り込んで来た。機械的にドアーが開いたので、スキーの板と鞄を抱えながら列車に乗り込んだ。
乗り込んだ自由席には、信行と同じ様にスキーを抱えた若者が大勢乗り込んだ。幸運な事に席を確保出来た。
席に座ると、座席の下側から暖房の熱が心地よく、冷え切った足を温めた。暫らくすると、夜行列車はゆっくり動きだした。
結露で曇った窓ガラスを指の先で擦り、外の風景が見える様にした。都会のネオンが途切れ始めると、真っ暗な空間が広がる様になって来た。
その頃には、再び結露で窓ガラスが曇り始め、外の景色を遮断した。先ほどまでザワザワしていた車内の客も目を閉じ、浅い眠りに入って行く。
列車は高崎を過ぎ、緩い上り坂を軽快に上り、やがて、長いトンネルを抜けた。信行は「トンネルを抜けると雪国だった」と云う川端康成が書いた小説の一説を呟きなら、今日の練習はどの様な事をしようかな?と心が躍って居た。
やがて、列車は石打に到着した。信行はいつもの様に、寂れた商店街を抜け、石打スキー場前の食堂に入った。食堂のオヤジはにこやかな表情になり、毎週熱心だね!!と手を振りながら信行を迎えた。
信行はいつもの様に奥の部屋に入り、スキーウエアに着替えると、急いで外に出た。
スキー板を担ぎながら、ゲレンデにリフトに向かうと、スキー靴が踏んだ雪が「キュッ!キュッ!」と軽い音を出した。今日のゲレンデは最高の雪質だ。信行は、目の前に広がるゲレンデを見上げながら、心が躍った。
その日信行は、検定を受けるための練習課題だったコブ斜面を一日中滑った。その日は、雪質が良かったので、いつもよりコブ斜面を軽やかに滑れた。
「この調子で滑れれば、合格点は確実だ・・・」
だがリフト終了近くなると気温が下がり、コブ斜面も硬くなり始め、手こずる様になって来た。
「ここが僕の課題だ!!」
条件が変わると同じように滑れないスキー技術しか持ち合わせていない自分が情けなく、信行は落ち込んだ。
リフトが終わったので、荷物を預けている食堂に戻り、着替えをして、駅に向かった。信行の楽しみは、スキー場から駅に向かう途中の肉屋で売っている揚げたてのコロッケを買って、駅の待合室で缶ビールを呑み、つまみに、コロッケを食べて、帰りの列車の到着を待つ事だった。
待合室でのベンチで、コロッケを食べ、ビールを呑んでいると、信行と少し離れたベンチに座る2人連れの女性の一人が、信行を観察する様に見ていた。信行と目が合うと。
「クッスっ!」
その女性が笑った。女性に笑われたので、恥ずかしくなり、残りのコロッケをザックの中に収め、残りのビールを飲み干した。
その時、待合室に列車の到着のアナウンスが流れた。信行は、改札を通り、上りのホームに向かった。ホームにスキー板とバックを置き、向かいのホームを見ると先ほど笑った女性が連れの女性と話をしていた。スキー板を横に置いていたので、信行と同じ様に滑りに来ていたのだ。
上りの列車より早く、新潟行きの列車が到着した。新潟方面行の列車が先に出発したので、信行が列車を見送ると、先ほどの女性が信行をを見ていた。信行と目が合うと、女性は、信行に向かって、少し微笑みながら、小さく手を振った。
やがて、上りの列車が到着したので、信行は列車に乗った。列車は長いトンネルに入り、そしてトンネルを抜けた。トンネルを抜けると景色は森林に変わっていた。変わった風景を見ながら、湿気で曇った窓ガラスに指で「?」マークを書いた。
「あの娘とどこかで会ったような?またスキー場で会えるだろうか?」
続く・・・・
(注、この物語は、フェクションであり、名前等の名称は、作者の創作により書かれています。万が一、実在したり、現存したりした場合、ご連絡頂ければ、速やかに対処いたします。尚、地名等は、リアル性を持たせる為に実在の駅名、土地名を使用していますのでご了承ください)




