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第1話 追放の日

「狂戦士ソニー、お前をパーティから追放する。これについてはお前以外のパーティメンバー全員の承諾を得ている」


 勇者クライドは冷たい目で俺を見据えて、そう言った。

 心臓が早鐘を打ち、全身の血が冷たくなる。

 そんな、何故、俺が。

 やっとのことで口に出した疑問に、クライドは間髪入れず答える。


「お前が猟奇的殺人鬼だからだ」


 俺が、猟奇的、殺人鬼だと?


「何を……何を根拠に、そんなひどいことを……?」


 クライドは錯乱しているに違いない。何の根拠もなしに、ずっと一緒に戦ってきた仲間を、よりによって猟奇的殺人鬼呼ばわりするだなんて。


「……この前も、パーティで訪れた村の住人を10人も殺しただろう」


 クライドは相変わらず冷たい目をして、呆れたような、侮蔑するような顔で俺を見ている。

 この言いぐさには俺もたまらず、反論することにした。


「俺が殺したのはたったの7人だ……!」


「同じだ!」


 クライドが理不尽に俺を責める。人の命は地球より重い。7人と10人では3人分もの命の重みが違うのだ。

 クライドは、3人もの人の命の重さをわかっていないのか?


「それに、殺したのには理由があるんだ!」


 クライドに、理由もなく人を殺したなどと誤解されては困る。俺は釈明することにした。


「どんな理由だ。言ってみろ」


 まるで犯罪者を尋問するかのように、質問というよりも命令するような態度。

 とにかく、クライドが促すままに俺は話し始めた。


「あの村に……ある親子がいたんだ。父親と娘。娘はまだ十五、六だったろうか。

 金持ちの男がその娘に目をつけたけれど、そでにされたらしくてな。そいつが仲間を雇ったんだ。

 あいつら、大勢で……4人で寄ってたかってその親子を脅して、痛めつけようとしていたんだ。だから俺は……」


 そう、俺が人を殺したのには理由があったのだ。


「でも君はその親子も殺しただろう」


「それは、もののついでというやつだ。娘は美しかったし、むらむらと殺したくなってしまったんだ」


「さらに無関係の通行人も殺した」


「それは、たまたま目についたから」


「しかも俺たちが到着したとき、お前は何か食っていたよな。あれは何だ?」


「それはまあ、そんなことはいいじゃないか」


 クライドはこれ見よがしにため息をつき、頭でも痛いかのようにひたいに手をついて瞑目めいもくした。

 そしてまた、別の話を持ち出してきた。


「お前はたまに、魔法使いエリザベートの脚を肉料理の本と見比べているな」


「誤解だよクライド!性的な意図は一切ない」


 エリザベートは客観的に見て妖艶な美女ではある。しかし俺は彼女を性的な目で見たことは一度もない。

 パーティメンバーをそんな邪な目で見ているなどと、クライドに誤解してほしくはなかった。


「生命の危険を感じている、と言っているんだ!」


 クライドが声を荒げる。

 単に本と見比べただけで、ひどい言われようだ。まるで俺が猟奇的殺人鬼ででもあるかのような言いぐさ。


「狂戦士なんて……パーティに入れるべきではなかった」


 クライドの言葉に引っかかりを覚え、俺は訂正を申し出た。


「クライド、それは偏見だよ。職業差別というものだ。狂戦士全員が殺人鬼なわけではない」


 俺は勇者一行の一員。正義の味方だ。

 そうである以上、それが勇者の言葉であっても、差別を放置するわけにはいかなかった。俺なりの正義感というやつだ。


「じゃあお前個人の問題だよ!それと……これは今まで聞けなかったんだが、お前の服装はどうして、そう……そんな風なんだ?この前ギルドで他の狂戦士にも会ったんだが……狂戦士って普通は革鎧とかじゃないのか」


 俺の服装のどこがおかしいというのか。

 ゆったりとした衣類は動きやすく休みやすい。袖や裾を絞ってあるのも動きやすさのため。狂戦士にピッタリだ。

 布製の帽子も、スピードを殺さずに最低限の防御を担ってくれる。狂戦士にピッタリだ。

 衣類についたカラフルなストライプや、帽子の先が二つに割れて先端にポンポンがついていること、俺の顔面が白塗りで口には大きく紅が引いてあり、目元に黒く縦線が入っているのは、まあ単なるファッションだ。


「その格好って遊び人とかがするやつじゃないのか……?この前戦った魔族の戦士も、お前がまさかりを構えたときにめちゃくちゃ驚いて、ちょっとヒいていたじゃないか」


 たしかにあの魔族の戦士の驚きようはすごかった。なんならちょっと「ヒッ」て声が出ていた。心外なことだ。

 俺は俺の好きな服を着ているだけだ。悪いことしてないよ。


「いや、もうファッションについてはいい。とにかく、お前は追放だ……というか、もう官憲を呼んである。自首してくれ、ソニー」


 仮にも勇者ともあろうものが、仲間に向かって、なんという言いぐさだ!

 官憲を呼んであるだと?!それじゃあ……


「官憲も殺さなきゃいけないじゃあないか……」


 俺のポツリとした呟きに、クライドが目を剥いた。


「……お前は……悪魔だ。……そんな……嬉しそうな顔で……」


 それが、俺の聞いた勇者クライドの最後の言葉だった。

 その日、一人の勇者と、五人の官憲が死んだ。

 勇者の首から上は発見されなかったらしい。恐ろしいことだ。


 俺はクライドの頬を撫でながら、今後のことに思いを馳せる。

 魔法使いエリザベート、僧侶のエド、戦士のアルバート、武闘家のルーカス。

 残る勇者一行は四人。彼らにも、挨拶が必要だろう。

 ともあれ、今夜はご馳走だ。

 久しぶりに手に入った新鮮な()()に、俺は舌鼓を打った。

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