素晴らしき単独行動
回復術士は自らに回復術を施していく。
もちろん、それは体力を戻し、怪我や病気を散らすものではない。
それらの応用になる術を用いていく。
すなわち、身体強化。
回復術は、生命に関わる魔法だ。
それは霊魂などの根源にもつながっていく。
また、その過程でどうしても肉体や精神にも作用する術を得ていく。
それらは使い方次第で、肉体の強化などに用いる事も出来る。
また、回復や治療に用いる魔力。
それの使い方を少し変える事で、身にまとう鎧や武器にもなっていく。
単なる筋力強化にとどまらない。
魔力という外装をまとうのだ。
これにより、素手であっても金属製の武器に匹敵する威力を得る事が出来る。
その力を使い、出現する敵を倒していく。
迷宮内部にいる魔物を、見つけては葬り去っていく。
魔物を見つけるのにも回復術の応用を用いていく。
本来は救助対象を見つけるためのものだ。
生命力を探知して所在地を探す手段も回復術士は身につけている。
それを応用して、救助者ではなく敵を見つけるために用いていく。
そうする事で、効率的に魔物を倒していけるようになる。
迷うことなく迷宮内を進み、敵を見つけて撃破していく。
魔力を込めた拳を振るい、蹴りを放つ。
金属製の武器並に硬い魔力をまとい。
オリンピック選手以上に強化された肉体で放っていく。
その一撃は、熟練の戦士並の動きであった。
また、自ら戦わねばならない場合も想定していた。
その為に、他のパーティメンバーが知らないところで修行にも励んでいた。
それこそ武術の指南所に通い続けるほどに。
普段持ってる武器にあわせて、棒術や杖術を。
また、武器がない場合を想定して、既に体術を。
それらも戦闘で駆使していく。
こうして回復術士は単独で活動を続けていく。
危うげなど何もない。
それだけの能力を彼は発揮していた。
もちろん、これにも欠点はある。
魔力を使うので、消耗が激しい。
武器を使い防具をまとう戦士とはそこが違う。
例え魔力による強化をしなくても戦える戦士。
彼らは武器や防具で能力を常時底上げしてるようなものだ。
対して回復術士は、魔法を使わねば戦士並に戦えない。
その為、継続して戦う事が出来ない。
魔力が切れればそこで終わりだ。
戦闘継続能力がない。
それが回復術士の持つ問題だった。
それもあって、どうしても行動に制限がついてしまう。
魔力の切れ目が命の終わり。
そんな事実と常に向き合わねばならない。
それでも、稼ぎは確保出来る。
比較的弱い魔物から得られる報酬はそう大きくはない。
だが、数をこなす事が出来る。
その数のおかげで生活費に困る事は無い。
何なら蓄えも作れるほどだ。
それを難なくこなせるだけの強さを回復術士は持っていた。
それに。
「中抜きがないのはいいなあ……」
しみじみとそう思う。
なにせ今までは難癖をつけられて、分け前を減らされていた。
それが無くなり、稼ぎは全て回復術士だけのものになる。
手取りは単純に増えた。
余談であるが。
なぜ回復術士の分け前が減ったのか?
実に単純な話だ。
他の者達が強くなり、そうそう怪我を負うこともなくなっていたからだ。
そうなると求められる支援は、専ら能力強化などになる。
それは女神官が受け持っており、回復術士の出番はあまりなかった。
単純な能力強化などでは、回復術士は女神官ほどではなかった。
擁護するなら、回復術士の支援だって、そう劣ったものではない。
単純にこの方面で女神官の方が優れていただけである。
それでも怪我をする事もあったのだが。
その都度、怪我や状態をなおす際に、「遅い!」「何やってる!」などの罵声を浴びせられた。
怪我をする事も減っていたリーダーや重装戦士にとって、受けた傷などさっさとなおしてもらいたいもの。
それを瞬時にやってくれない回復術士など無能に見えたのだろう。
そんな彼らは現実が見えてない。
怪我した瞬間になおすなど、まず不可能だという事を。
なまじ強くなって回復の必要性が薄れた。
無理や無茶な突進をしていても、今までは何とかなった。
無茶な突撃をしても、大抵の魔物を瞬時に倒す事が出来た。
それが出来なければ、即座に逃げ出した。
そうして怪我などはあまり受けずに済んでいた。
それはそれで素晴らしい。
しかし、だからといって万が一の事を考えないのは無茶である。
考えがなさ過ぎる。
無謀が勇気だと思ってる愚かさがにじみ出ている。
そんな連中と縁が切れて、回復術士は幸せになった。
パーティの隅っこで傍観していなくて良い。
たまの出番で罵倒を叩きつけられる事もない。
無謀なリーダーに引っ張られて、無茶な戦闘をしかけないでも良い。
その他、周りの連中に引きずり回されて面倒に巻き込まれる事もない。
「いいなあ、これ」
単独行動の今、回復術士は最高の気分を味わっていた。
「このまま一人でいいや」
そう決心できるほどに。
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