追放した彼らのその後
さて、回復術士を追い出した方だが。
彼らはそこにまったく問題を見いだしていなかった。
それどころか、
「あの野郎、勝手に抜けやがって!」
自分が出て行けと言ったことを忘れてる始末である。
「本当に。
辛抱が足りない」
重装戦士も続く。
命をかける忠誠と忍耐を子供の頃からたたき込まれてきただけある。
どんな苦難も気にせずにいろという教え通りの発言をした。
「まあ、あんなのいなくてもいいだろ」
「問題ない」
盗賊と女魔術師も続く。
彼らにとって、特に活躍もしなかった回復術士などいないも同然。
盗賊は、いたぶってからかって楽しむ玩具がなくなったのが不服だが。
女魔術師は回復術士の存在をまったく気にもしていない。
「当然です!」
怒り心頭の女神官が語気荒く賛同する。
仲を取り持とうとしたのに、顔面に拳をたたき込まれたのだ。
そうもなるだろう。
その際に鼻も歯も折れた。
それらは治療魔法でなおったが。
怒りまで消えるわけではない。
もっとも、そういう出しゃばりが回復術士の怒りを買ったのだが。
それにはまったく気づいてない。
「まあ、いなくなってくれて助かるけどよ」
リーダーは吐き捨てる。
「せめてもっと殊勝な態度をとれってんだ」
それが彼の言い分であった。
リーダーからすれば、回復術士は邪魔な存在だったのだ。
「やる事なすこと、とにかくケチをつけやがって」
それがリーダーの偽らざる気持ちだった。
彼からすれば、真っ先に魔物に突っ込んでいくのは当然。
そうして先手必勝で敵を倒し、損害を出さないうちに決着をつける。
そのつもりでいた。
なのに、回復術士はそれが危ないと止めていた。
それがリーダーには気に入らない。
これには逃げることをよしとしない重装戦士も。
攻撃が大好きな女魔術師も賛同していた。
そうした多数の意見を、調和の証と考えていた女神官も異を唱えない。
常に危ない橋を渡って生きてきた、人生そのものが博打だった盗賊もだ。
「あいつは根性がない」
「さっさと倒せばいいのに」
「度胸のないクズなんだよ」
重装戦士、女魔術師、盗賊がリーダーに続く。
彼らにしても、慎重さに価値を見いだしてない。
勇猛果敢であることが第一の騎士の教え。
とにかく派手な攻撃がしたい女魔術師。
運良く人生をかけた博打に勝ち続けてきた盗賊。
そんな彼らにとって、安全性の確保など二の次だった。
女神官はそこまで攻撃的ではないのだが。
しかし、戦闘方法や生存術について詳しいわけではない。
だから周りの意見に流されていた。
また、拳を叩きつけられた恨みもある。
それもあって回復術士への不満も持った。
調和だとかみんな仲良くが標語の女神の信徒にあるまじき事だが。
「まあいい。
これで邪魔者は消えた。
これからは、思い通りにやっていこう」
リーダーの言葉に、一同は晴れやかな表情で頷いた。
それから彼らは、宣言通りに行動していった。
迷宮の更に奥へと向かい、より強い敵と戦っていく。
まさに破竹の勢い。
自分たちの実力も考えずに進む。
今までは回復術士が止めていたのだが。
その歯止めも、もう存在しない。
彼らはリーダーの望むまま先へと進んでいく。
「すっげー!」
リーダーは大声をあげる。
「今まで来たことがない所まで潜ったぞ」
「おう。
それでも、まだまだやれるな」
「ちょろいちょろい」
重装戦士と盗賊もリーダーに追従する。
彼らは回復術士が今まで入り込もうとしなかった所まで進んでいた。
「まあ、このあたりなら問題は無いしな」
盗賊が笑いながら言う。
「適正レベルの範囲だし」
「まったくだ。
なんであいつは止めてたんだか」
重装戦士は首をかしげる。
どうしても回復術士の考えが分からなかったからだ。
迷宮には適正レベルという指標がある。
どのレベルならどこまで潜入しても大丈夫というものだ。
これは、探索者のこれまでの行動から割り出されたものだ。
迷宮探索の基準として広く知られている。
その指標に従うならば、リーダー達は今回やって来た所まで来てもおかしくはない。
それだけのレベルに到達している。
なのに回復術士はそれを止めていた。
その理由が未だに分かってない。
(そういえば)
こんな時になって思い出す。
その説明をしていた事があったと。
(いや、あれは)
よくよく思い出してみると、そうでもないのが分かる。
回復術士は適正レベルよりも低いところを巡ろうと提案していた。
その理由を聞こうとしたのは確かだ。
だが、それは話し始めたところでリーダーに遮られた。
一緒にいた盗賊と二人で。
「適正レベルは適正レベルだろ。
それに従って何が悪いってんだ!」
「危険は当たり前だろ。
そこに挑まないでどうしろってんだ」
確か、そんな事を言っていたのを重装戦士は思い出した。
そしてその後は、回復術士の言うことなど聞かず。
何か言おうとすれば、その都度リーダーと盗賊が遮った。
リーダーは猪突猛進な性格から。
盗賊は危険に挑むのが当然という実体験から。
慎重に行こうとする回復術士の言い分を退けていた。
だが、ここに来て重装戦士はふと思う。
あの時、何を言おうとしたのか?
どんな理由があったのか?
それがなぜか気になった。
(とはいえ)
それでも思う。
今更だと。
それに、重装戦士も特に気になってるわけではない。
所詮は覚悟のない者の言い訳…………そう考えていた。
ただ、弱者の戯言にしてもどんな言い分けをするのか、それに興味が少しわいただけである。
「だから、あいつの事なんか口にすんなよ。
気分が悪くなる」
リーダーがそう言えば、そこで忘れていく。
その程度の事でしかなかった。
ただ、かつて回復術士が言おうとしていたこと。
彼が適正レベルをあえて無視していた理由。
それは、
「適正レベルは、あくまで先に進んだ者達から作られたもの」
これが理由だった。
「先に進んでる人たちは、もともと優れた人ばかりだ。
そんな人たちを基にした適正レベルはあてにならない」
何かしら優れてるから生き残れた。
生き残って迷宮の奥へと挑んでいけた。
そんな者達と、他の一般的な探索者を同列に扱う事は出来ない。
土台が違いすぎる。
それが証拠に、回復術士が調べた所、別の真実が浮かび上がる。
生還した探索者の行動。
どのレベルでどの階層まで進んだのか。
そして、帰還しなかった探索者の数はどれくらいなのか。
それらを調べてみると、より現実の沿った数値が出てきた。
それによると────
適正レベルとされてるレベルで挑んだ場合、たいていの探索者が命を落としている。
その逆に、適正レベルよりも高いレベルで挑んでる者達はほぼ帰還を果たしている。
適正レベルといいながら、そのレベルで挑んだ場合には未帰還になってる者が多いのだ。
また、帰還してる者達もたんにレベルだけで生き残ったわけではない事が分かる。
事前に入念な準備をしていたり。
レベルという能力だけに頼らない、効率的な戦い方を考えていたり。
戦闘以外での行動などにも細心の注意を払っていたり。
とにかく生き残るために必死になっていた。
それこそ慎重に慎重を重ねていた。
勢いだけで飛び出したりはしない。
迷宮に挑むにあたり、様々な事を調べてこれらが分かった。
だから回復術士は適正レベルよりも高いレベルになるまで奥に行くことを拒んだ。
行くにしても、生き残れる方法を常に考えていた。
可能な限りの準備はしていた。
一緒に行っていた者達は、その事には気づいてなかったが。
また、実際に回復術士の準備と用意で危機を乗り切ったり、未然に防いでいたりしたのだが。
その事にもまったく気づいてない。
何はともあれ回復術士は、適正レベルだけで危険をはかっていなかった。
参考にはしても、自分たちには用いない────そう心がけていた。
適正レベルについても、それをそのまま自分たちに当てはめなかった。
最前線にいる者達に比べて、自分たちは2割3割は劣る。
あるいは、もっと差があるものと考えていた。
そう考えて適正レベルを使っていた。
大雑把に、適正レベルの2割か3割増しのレベル。
その位になってからその場に向かおうとしていた。
だが、それを知る機会はもうない。
リーダー達が回復術士のところに今一度会いに行けばともかく。
そんなつもりは彼らには毛頭ない。
例え会いに行ったとしても、回復術士が相手にしたかどうか。
既に愛想を尽かした相手にまともな対応をするわけもない。
そんな彼らは適正レベルをもとに迷宮に挑んでいく。
さすがにそれを超える所にまで向かうほど無謀ではない。
彼らは彼らなりに安全策をとっている。
その安全策がまったく機能していないのが問題だった。
なにより、それに気づいてないのが致命的だった。
迷宮において、その失敗は最悪の事態に直結する。
今まさに彼らは、そこに飛び込もうとしていた。
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