:16話捕捉説明回
:16話捕捉説明回
お疲れ様です。熊吉です。
イリス=オリヴィエ戦記の第16話、これまでにない長さとなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
当初のプロットではもっとスリムだったんですが、熊吉が書きたいと思ったことを全部突っ込んだのでこんなに長くなってしまいました。
14話で反省したはずなんですが、またやってしまいました。
多分、これからも熊吉はこんな感じだと思います。
16話のおまけとして、本当は沈頭鋲関連のお話をしようかと思っていたのですが、それはやめて、16話の裏でどんな風に戦争が動いていたのかを補足説明させていただくことにしました。
沈頭鋲ですが、文章だけより図のついた書籍の方が断然分かり易いので、もし興味のある読者様がいらっしゃれば、一般に販売されている書籍の方をぜひご覧いただければと思います。
以下、本話の捕捉説明となります。
まず、16話全体ですが、モチーフとなっているのはWW2中に行われた日本本土防空戦です。
史実では日本はこの戦いに敗北し、多くの都市が焼け野原となり、軍民問わず多数の犠牲者が出た凄惨な戦いの1つとなってしまいました。
しかし、その敗因は、一般に広く流布されている様な、日本側の装備する機材の不備(高度10000メートルで戦えなかったや、そもそもレーダーが無かったなど)ではなく、もっといろいろ複雑な要因が絡まったものであります。
そういうところを調べて見たりするととても面白いと思ったので、今回、そういった話をいろいろと取り入れてみる事にしました。
(ちなみに、実際にはB29は高高度爆撃でもせいぜい高度8000とかでやっていたそうで、高度10000メートルで爆撃というのはほとんどやっていなかったそうです。これは、日本上空に存在したジェット気流による影響で、そこまで高度を取ると機体が流されて爆撃が困難になるからだそうです。王国にはジェット気流は無いので、物語上の盛り上がりも加味して高度10000メートルからの爆撃と、ちょっと盛っています。あと、日本にもレーダーを使用した防空網はありました。欧米に比べると性能に劣るのは事実ですが……)
日本本土防空戦ですが、熊吉の認識によると、だいたい以下の様な流れになります。
1 中国大陸方面からB29による九州を主目標とした攻撃
→中国奥地からB29を運用するには兵站上の問題があり、攻撃の規模や頻度が不足。また、迎撃のための縦深が大きく取れたため日本軍側の反撃も効果的だったため、戦果は少なかった
2 サイパン占領後、そこを根拠地として、日本の重要産業施設に対して戦略爆撃を実施
→海路で直接補給が実施できるため、兵站の問題が解決しB29による攻撃は大規模化。また、迎撃のための防御縦深が少ないため、日本側の迎撃も不調に終わる
3 日本側の重要な産業施設に被弾
→日本の航空機用エンジン生産の4割以上を担っていた工場などが被弾、日本側の継戦能力が大きく低下
4 戦略爆撃の拡大
→都市部を対象とした無差別爆撃へ
こういった史実の流れを元に、ここがこうだったらどうなったか、こんなものがあればああなるだろうと、いろいろと話を膨らませて書いたのが本話になります。
日本側の迎撃もできるだけは行われていた様ですが、同時並行して進められていたフィリピン戦、沖縄戦に主力を振り向けていたため本土防空のための戦力は最初から最後まで十分なものではなく、それも、日本側の迎撃を封殺するために米機動部隊が実施した航空撃滅戦によって大損害を受けてからは戦力が不足し、本土決戦に備えて戦力の温存が優先され満足に活動することができなくなり、本土防空戦に敗北していくというのが史実の流れである様です。
補足説明ということですので、ここで、主人公視点ではどうしても分かりにくくなってしまう連邦側の動きについてご説明いたします。
1 王国からの反撃の恐れが無い島にグランドシタデル部隊を配備、王国の軍需生産の要である「新工場」を狙って戦略爆撃を開始
→高高度からの爆撃であるために命中率が良くなく(史実でも高高度からの爆撃はあんまり命中率が良くなかったそうです)、当初は高高度侵入に手を焼いていた王立軍側が体制を整え強力な反撃を実施し、連邦側に大きな被害が生じて作戦継続が困難に
→連邦、作戦の変更を余儀なくされる
2 王国からの反撃が少ないと思われる夜間爆撃を開始
→夜間であるため狙いをちゃんと付けた爆撃は実施困難で、低い命中率を補うためと1度の爆撃効果を増大させるために爆弾搭載量を増加。王国に厭戦感情を生じさせるためもあって無差別爆撃を実施
→王国側は夜間に効果的な迎撃を実施できず(史実の日本やドイツでは、複座の双発戦闘機などが夜戦として活躍しましたが、王国はそういった機体を持っていなかったので)苦戦
3 王国の全力の反撃が成果を上げる
→夜間でも王国側が効果的な迎撃を実施して来る様になり、戦略爆撃を実施して得られる効果よりも、損害のリスクの方が大きくなったために連邦は作戦を中止、グランドシタデルの王国への投入を停止する
という感じになっています。
主人公は「勝った」という実感を持てずにいますが、連邦側は王国の反撃を受けて「作戦を継続できない」と判断してグランドシタデルの投入を中止しているため、実質的に王国の勝利と言って差し支えない流れとなっています。
戦略爆撃は大規模な反復攻撃を前提とするので、出撃の度に1割とか2割の損害を受けている様では、継続するのが困難となって来るため、王国側の迎撃によって連邦側は作戦の中止と戦力の転用を決断することになりました。
いわゆる「転進」です。
連邦は膨大な戦力を投入しながら、その意図を達成することはできませんでした。
王国側が勝利できた要因ですが、
1 防御縦深が十分にあり、効果的な迎撃が実施できたこと(ロイ・シャルルⅧなどを即席の防空レーダーとして活用し対空監視網を前進、早期にグランドシタデルの侵入を探知できるようにしたことにより、迎撃のための時間的な猶予を確保することができた)
2 王国側が防空のために十分な戦力を投入できたこと(王国はたまたまグランドシタデルの攻撃目標となった地域に第1航空師団などの戦力(他に防空旅団などが複数)がおり、史実の日本の様に他に同時進行している戦線を抱えていなかったために、迎撃に全力を充てることができた)
3 連邦側の攻撃目標となったクレール市、タシチェルヌ市の間が100キロ程度しかなく、戦力を集中できた(これでも2か所に防衛のための戦力を分散せざるを得ないということですが、史実の日本では東京などの関東から名古屋、大阪などの関西まで、守るべき範囲がずっと幅広かった)
4 グランドシタデルの航路上に王国の島嶼が途切れることなく連続して存在し、それらに設置された対空監視哨や防空レーダーなどで連邦軍機の観測が容易だったため、連邦側の針路を正確に把握し迎撃することができた
5 王国では、平時から航空機の安全な飛行のために地上からの管制、誘導を重視しており、そのための体制を作り訓練をしていたため、効果的に迎撃機の誘導を行うことができた
などがあります。
この他にも、夜戦には不向きではあるものの、高速・大火力のベルランD型など、有力な戦闘機があったことが王国の勝因となりました。
王国は少なくない被害を受けてしまいましたが、連邦による攻撃を耐えきることができました。
以上で、補足説明は終わりとなります。
もしよろしければ、イリス=オリヴィエ戦記に最後までお付き合いいただけますと幸いです。