砂漠からの帰還
翌朝、ナディアは王族への報告に向かった。
数々の不正の証拠を持って。
カリムの不正取引の記録。
遺跡への無断侵入と制御装置の持ち出し。
複製品の販売記録。
王族の担当者が証拠を確認し「これは重大な違反だ」と言った。
「商権の剥奪と、不正取引での逮捕になります」
粛々と手続きが進んだ。
カリムが連行される直前、僕のそばを通りかかった。
「借りは返したで、兄ちゃん」
それだけ言って、連行されていった。
笑顔だった。
その時は言葉の意味がわからなかった。
手続きが終わった後、ナディアから「ありがとうございました」と言われた。
「ナディアさんの不正の件はどうなりましたか」
「……特に何も」
「そうですか」
「証拠が、なかったようで」
少し間があった。
「そうですか」
カリムが言っていた「借りは返した」の意味はこれか。
連行される前に、証拠を処分したのだろう。
悪人なりの、義理の見せ方だった。
「よかったですね」
「……はい」
ナディアが「これからどうするか、まだわかりません」と言った。
「あてはありますか」
「……ないです」
その時、ジャミルが割って入った。
「行くところないんだったら、うちに来ないか?」
ナディアが「……秘書ですか?」と言った。
「まあそんなとこだ。お前は頭がいいし、一人じゃ心細い」
「給料は」
「カリムよりいいぞ」
「……考えます」
ゼナが「ナディア、いい就職先じゃん」と言った。
「生きやすそう」
「そうですかね」
「ジャミルさん、気のいい兄ちゃんぽいし」
ジャミルが「照れるな」と言った。
「別に褒めてないですよ」とゼナが返した。
がくっとコケるジャミル。
その後、出発の前に全員で食事をした。
ジャミルが一番高級な店に連れて行ってくれた。
「せめて飯くらいは奢らせてくれ」
「ありがとうございます」
「お前たちが来なかったら街が吹っ飛んでた。それを思えば安いもんだ」
「そうですかね」
「そうだよ」
さすが街一番の店だけあって食事が美味しい。
ゼナが「この街、死にやすいセンサーが最初から全部振り切れてたけど」と言った。
「そうでしたね」
「でも、来てよかった気がする」
「良い出会いもありましたからね」
「うん。ジャミルさんがいたし、ナディアもいたし」
「死にやすかったですが」
「物理的に!!でも精神的には死にやすくなかった」
「珍しいですね」
「珍しいよ、デュフフ」
「デュフフは私のですよ」とソフィアが言った。
「感染ったんだよ」
ヴェインが「……ご飯が美味しい」と言った。
「いつもそれだね」
「いつも美味しい」
ジャミルが「また来いよ」と言った。
「機会があれば」
「きっと、あるさ」
ナディアが「……またお会いできますか」と言った。
「会えますよ」
「本当ですか」
「本当です。次はもう少し涼しい時期に」
「デュフフ」とソフィアが笑った。
「それなら嬉しいです」とナディアが言った。
「やり直せますよ」
ナディアが「……はい」と言った。
今度は迷いがなかった。
港に向かい、帰り支度をしていると、ヴェインが「……暑かった」と言った。
「それだけですか」
「……問題なかった。暑さ以外は」
「暑さが一番印象に残ったんですね」
「……うるさい」
ゼナが「ヴェイン、薄着似合ってたよ」と言った。
「うるさい」
「本当に」
「うるさい」
「戻ったら鎧着るの?」
「当然だ」
「もったいない」
「うるさい」
ソフィアが「デュフフ……船に乗れば涼しくなりますよね」と言った。
「なりますよ」
「デュフフ、楽しみです」
「暑さ以外はよかったですか」
「デュフフ、研究したいものがたくさんありました」
「帰ってからルカさんと一緒に」
「デュフフ、そうします」
船に乗ると、風が涼しかった。
「助かります」とソフィアが言った。
「デュフフが元気になりましたね」
「デュフフ、完全復活です」
「よかったです」
ゼナが「あの神器、買いに来たいな」と言った。
「また来ましょう」
「死にやすくないといいけど」
「次はもう少し穏やかな依頼だといいですね」
「そんな依頼ある?」
「……どうでしょう」
「根拠のない希望だ」
「そうかもしれませんね」
ヴェインが「……涼しい」と言った。
「よかったですね」
「……問題ない」
穏やかだった。
そのままうとうとしていた時だった。
アリアからの通信が入った。
「大変です。レインさんから緊急の連絡が来ています」
「繋いでください」
レインが「ソータさん、急いで帰ってください」と言った。
「どうしたんですか?」
「緊急事態です」
声が緊張していた。
「各地の古代システムが、一斉に動き出しています」
全員が目を覚ました。
「一斉に、ですか」
「はい。アストリア周辺の遺跡だけではありません。各国から同様の報告が来ています」
「原因はわかりますか」
「わかりません。でも」
「でも」
「同時に、ということは」
「誰かが意図的に動かしている」
「……そう思っています」
ゼナが「死にやすいセンサーが、ここまで反応したことはない」と言った。
「距離があるのに」
「それだけ、ということだよ」
「そうですね」
ソフィアが「デュフフ……」と言った。
元気なデュフフではなかった。
「急いで帰ります」とレインに伝えた。
「お願いします」
通信が切れた。
船の上に沈黙が落ちた。
夜、甲板に出た。
夜空には星が瞬いている。
各地の古代システムが一斉に動き出した。
おそらく、誰かが意図的に動かしている――
「なんとかします」
小さく言った。
根拠は、まだなかった。
でも。
ここまでなんとかなってきた。
今日も、なんとかなったことだし――
明日も、なんとかできるはずだ。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
面白い!と感じた方は高評価ブックマーク感想等お願い致します。
作者のモチベーションにつながります。
次回も見て頂けると嬉しいです!




