118限目「❝九尾❞の試練⑧」
「万物を統べる力よ。万象を象る理よ。迷いし魂を清め給え、救い給え」そうクシナが言の葉を天に奉納すると、光り輝く36枚の呪符が舞い降り、クシナと三傑だけではなく両親までも囲む巨大で複雑な陣を形成する。
「これは!!」ザナンが驚嘆の声を上げる。がクシナは言葉を続ける。
「符術秘奥、太極陣其の一。《輝星黄陣》!!!」地面から煌めく光の帯が天へと延びやがて一本の柱になる。
三傑達が一瞬で消滅し、周囲が真っ白な空間へとその景色を変じる。
クシナは力を使い果たしたのか、その場にへたり込んでしまう。
「まだこの術しか使えませんが、今の私には十分な❝負けない❞力です。いかがですか?父上、母上」両親からは暗い影は消え、その姿は以前の両親そのものへとか変わっていた。
「ふふ、まだ我々を❝父と母❞として扱ってくれるのだな。優しき娘よ」
「全ては幻。ですが、グレン様に、『幻術とはあくまで幻に過ぎない。でも不安や後悔など、自分の弱さを映し出す鏡でもある。己の心と向き合う勇気が一番重要なのだ』と教えて頂きました。
だからあなた達は私が❝創り出した❞ものでもあるのです。その点では私の父上、母上と言ってよいと思うのです」
「そうか。本物ではないが……、いや、そう言ってしまうのは失礼だな。
愛するクシナよ。よくぞここまで成長してくれた。この国のこと、民のことよろしく頼むぞ」
「どうか息災で。風邪など引かぬようにきちんと寝る時は暖かくするのですよ」
「父上、母上。お会いできたこと嬉しく存じます!後のことはお任せください。息災に、力強くクシナは生きていきます!」両親の姿が涙で霞む中、気丈に彼女は決意を口にする。
「ならば、私達は行くよ。クシナ、そなたの国を想う心、確かに見届けた。さらばだ」3人はお互いに笑顔で手を振る。次の瞬間クシナは元の世界に戻っていた。
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「あなた!私達を置き去りにしてどこで道草売ってるんですか?」
「パパ!もうエリーは激おこです!ぷんぷんです!」
「おいおい、久しぶりに会ったのに、随分な言いようじゃないか。パパは寂しいぞ?」どうやら久々に出会った妻クラウディアと娘エリーゼは長期間家を空けたことにおかんむりのご様子だった。魔王である俺もさすがに形無しである。
「それに、女性に囲まれて随分楽しそうじゃない」
「エリー以外の女の子連れて旅をするなんて、パパの浮気者!」
「いやいや、男もいるだろう?それに大事なのは、❝旅の仲間❞としてだ。浮気者とか言わんでくれよ……」
ちなみに俺はこれが幻術であることは初めから理解している。今まで幾度となく幻術にかけられた経験もあるし、そもそも俺は耐性があるので術が効かないのだ。
だが幻術とはいえ、愛する妻子に会える機会に巡り合った。そのため少しばかり利用させてもらおうと思っていたのだが、これではかなりの精神的ダメージをもらいそうだ。まぁ名残惜しいが仕方ない。
「できれば俺好みの幻を見せてくれるとありがたかったんだけどな。❝九尾❞よ、僅かではあるが妻と娘の姿を見ることができた。感謝する」
俺の言葉を聞くと、妻と娘はお互いの顔を見合わせ深くため息をついた。
「ここからが本番で一番楽しい場面だったのに……。とても残念です」姿かたちは妻子そのものだが、どうやらこれ以上の❝演技❞を諦めたようだ。それにしても本当に残念そうである。
そう、他の者に対してどうしていたのかは不明だが、今俺の目の前にいる二人は❝九尾❞当人であった。変化を解き小さな九尾へとその身を変化させる。
「何を企んでいたのやら。それにしてもお前、アルバレイの❝魂隷術❞を回避しているのか?どうやったんだ?」
「完全には回避できていません。先程出会った私は紛れもなく、あの忌々しい❝魂隷術❞にその身とその精神を蝕まれています。ですが、私とて幻術使いの端くれ。最後の抵抗をさせていただきました。
《分け身の術》を使い私の魂の一部を切り離すことで、魂隷術の完全支配から逃れることができました。ですが奴の術はかなり強力です。もうもたないでしょう。
あなた方が来たおかげでアルバレイに立ち向かう術を、幻術に惑わされぬ精神力を身につける試練を用意できました。まぁ、あなたには全く意味がないようですけどね」力なく笑う九尾。
「そういうことだったか。お前の心遣いは無駄にしない。その心根に敬意と感謝を。
まぁそう悲観するな。お前の憂いという霧は俺達が必ず晴らそう」
「姫の❝符術❞ですね?見事な術でした。確かにあれならば私を元に戻すことは可能でしょう。
子供達とまた静かに過ごせるのですか……。それは何よりです。ならば一刻も早く元の世界へ!
グレン、あなたの底知れぬ実力を知れて確信しました。オルヴァートのことよろしくお願いします」九尾が笑顔を取り戻すと、次の瞬間元の世界に戻っていた。




