第3章第013話 ロイドさんと再会
第3章第013話 ロイドさんと再会
・Side:ツキシマ・レイコ
日本だと十一月くらいの季節。夜はすっかり冷えるようになりました。
私達の馬車は、行軍している兵隊達や輜重部隊の馬車の列を追い越していきます。馬車が並列で通れるだけの街道が整備されているのが凄いですね。
昔の地球なら、敵軍の侵攻を助けることなるとこういう街道整備は嫌がることもあった…と聞きますが。ここでは、その街道の整備が十全に役立っています。
…と思ってましたけど。街道の状態が良かったのもバッセンベル領までで。バッセンベル領の領境の街から目的地の国境までは、あまり良い道とは言い難く。
それでも、道中それぞれの宿営地で一旦部隊を溜めて、出発時間を部隊毎で細かく設定することで、効率よく進ませようとしているようです。
エイゼル市を出てから、初日、二日目と、街や村で宿泊できましたが、三日目は野営です。ただ、ここが軍の臨時駐屯地のようですね。最前線の後ろの拠点となるようです。
街道脇の林やら平原が大きく切り開かれて、馬車留やらテントやらが並んでいます。おお、ここだけで数千人はいるんじゃないかな? こんな大規模な野営になるとは。
六六の建物も並んでいますね。部隊の本部だったり、幹部の宿舎のようで。私たちもここに泊まることになりました。
キャラバンでのような野営準備も必要なく、しばらく時間が出来たので。野営陣地をエカテリンさんと一緒にふらふらと散歩してみますが。
ん? 偶然にも、いつぞや王都に行く途中で剣の手ほどきを受けたロイドさんがいました。
「こんにちは! いつぞやは剣の訓練、ありがとうございました!」
駆け寄って声をかけてみます。
「おお、あのときの嬢ちゃん…ってレイコ様かっ。その節は失礼いたしましたっ!」
一緒にいた兵達にも、直立不動で挨拶された。
「様はやめてくださいって」
…うーん、またこのやり取りですね。
エカテリンさんが"ちゃん"で良いじゃん…というところまでがセットですが。ここもまた"殿"で落ち着きました。
「レイコ殿、武器を履かれるようになったんですね?」
件のレイコ・ナックルナイフです。
「タクマンで作って貰ったんですよ」
と、ナイフを見せました。サイズに似合わない分厚さと重さに驚いています。
「なるほど… 一応刃はある。ってこれを刃と言って良いのかはともかく。…これは、斬るとか刺すとかでは無く、相手の攻撃をいなすための武器ですね」
ただ頑丈であれと、切れ味とかは考えていないですからね。
「レイコちゃんらしいよね。でも、実際にはあまり手加減もしていないような…」
エカテリンさんも、私の戦闘を何度か目撃していますが。
「直接命を奪ってまではいないでしょ。…まぁ悪人は再起不能にして、生きて後悔してもらいましょうってことです」
「そりゃまたきびしいね。でも同感だ」
再起不能ってところにロイドさんがビビってますね。 …わたしに人を殺すまでの覚悟が全然無いってのもあるんですけど。
宿営地には、臨時の訓練場もあるようですので。試しにロイドさんと対戦してみることにしました。
ただ、木製ナックルナイフなんてものはないので、私は実剣のナックルナイフを使います。まぁ、殆ど斬れないのなら問題なしということになりました。
レイコ・ナックルナイフ、初めて使います。いつぞやと同じく試合形式ですが。一度試してみたいと思っていたところです。
「「よろしくお願いします!」」
まずは挨拶ですよね。
「覚えてくれていたんだな」
とロイドさんがうれしそう。
試合開始です。
木剣を前に構えて退治するロイドさん。私の背が低いので、やりにくそうですが。まずは上段からの袈裟斬りを狙ってきます。
降ってきた剣を、ナックルの拳の部分で止めます。もし素手だったなら、これで戦闘不能判定で一本取られますが。ナックルなので、この防御は有効です。
ロイドさん、上下右左と、様々な方向から剣を振ってきますが。ナックルでの受けで的確に防げています。
ナックルナイフ自体が結構重たいので、移動も振り回すとそれなりに反動が還ってきますが。今回は靴もグリップ強化タイプで、スリップ耐性はかなり改善されています。良い感じですね。
しばらく木剣をはじいていると、ロイドさんの息が上がってきたようです。
「…降参々々。一本取れる気がしないよ」
「ありがとうございました!」
ナックルナイフでの初めての組合でしたが。実戦なら剣をたたき折ることも出来そうですね。良い感触です。
ロイドさん、今度はエカテリンさんに組合いを申し込んでますが。
なんだかんだでエカテリンさんも騎士です。よく、護衛対象となる女性貴族に配慮しただけの人事だと言われているそうですが。そもそも弱ければ護衛職には就けません。エカテリンさん、けっこう出来ますよ。
「「よろしくお願いします!」」
当たり前の話ですが。素振りのように相手を狙って剣を振り下ろしたところで、相手だって斬られたくないので抵抗します。武装していいれば剣で受けますし。剣で反らす、体を避ける。カウンターを狙う。様々な対処をします。
うーん。エカテリンさんの足裁きが、凄く勉強になります。普段は重心を常に滑らせて相手の剣戟をいなし。いざ攻撃!というときには体重を乗せて踏ん張れる位置に足がある。
同時に相手の足運びを観察して邪魔をし。隙あらば相手の足を引っかけようとする。
こりゃ、ともかくグリップを確保しようとしている私の足運びなんかはその場でドタバタしているのと変わりないですね。ボクサーがなぜ縄跳びをするのか分ったように思います。
…ただ、私の体重で剣戟を受け止めるとなると、やはり地面との接触が大切なのですよ。
鉄を仕込んで重たくしたベストなんかを着たら、有利になるかも? これは良いアイデアかも! エイゼル市に戻ったら試してみたいですね。敵前でゴトっと脱いだら、私が弱くなるベストですけどね。
おっと。エカテリンさんがロッドさんの剣を右下からすくい上げるように絡めて飛ばしました。エカテリンさんの勝ちです。
私なら、手首を叩いちゃうかな。刀身を掴んで引っ張っても良いし。って…そんな考えじゃ上達しないよね。
「「ありがとうございました」」
挨拶して終わりです。
「技量面もまだまだだけど、もっと剣を振れるように体を鍛えるのが先かな。先にレイコちゃんとやっていたから疲れていたんだろうけど、それでもその辺は実戦での言い訳にはならないからね。あと右下、あんたから見て左下か、そこからの攻撃に弱すぎる。見えてないだろ? 自分の構えで死界を作っちゃ本末転倒だ。その辺は意識して訓練した方が良いかもな」
神妙な顔つきでエカテリンさんのアドバイスを聞いているロイドさん。
「…流石、騎士様なだけはありますね。自分、もうちょっとやれるかと思ってたんですけど。正直、あなたが女性だからとちょっと舐めてました」
「うふふ。騎士のゴルゲットは伊達じゃ無いって事だな。まぁ女だからこそ、そこらの男より強くないと舐められるからね」
ニヤッと笑うエカテリンさん、イケメンです!
ロイドさんの方が背は高いし、体重もありそうですが。肩で息しているロイドさんに、平然としているエカテリンさん。エカテリンさんさすがです。
ロイドさんはこの後、エカテリンさんを食事に誘っていましたが。宿営地じゃレストランというわけにも行かず、今は一応私の護衛ですからね。
…まぁエイゼルに戻ってから誘ってあげて下さい。




