第10章第066話 マーリア結婚前
第10章第066話 マーリア結婚前
Side:ツキシマ・レイコ
鉄道会議が成立して。赤井さんが店員を初めて。だいたい三年たちました。
ちょっと意外でしたが。私を引き抜こうとする他国からの働きかけはほとんどありませんでした。
一つ、私の知識は、教会の奉納から発展した特許システムと、ネイルコードと正教国の大学にて。保護はされつつも、誰でもアクセス出来るようになりました。
各地に総合大学的な教育と研究を行う施設が建てられ。エイゼル市は経済系、ユルガルムには工業系、正教国教都には医療系が得意な分野ですが。各国各領は挙って才能のある人たちを勉学に送り込んでいます。知識が公開されても、扱える人がいないと意味がありませんからね。
一つ。私の武力は、基本的に土木業にしか使っていません。
もちろん、理不尽な侵略や人権侵害行為があったら出張るつもりですし、そう伝えてはいますが。工事現場でレイコ・バスターを見た人々は、まず改革の波に武力で抗おうという気概が削がれますし。私がまだ軍隊に対して使用したことが無いという実績も信用になっていると思います。
鉄道輸送による兵力展開も、抑止力になっています。
一つ。私が居なくても発展と維持が可能なようにすべきだというアイズン侯爵の提言です。
まぁ私は便利です。ですが、私が居なくても今の平和と発展が続くような仕組みを作ること。私が居なくても工事開発に支障が無い機材を開発すること。私が不要とかではなく。人としての底力を赤竜神に示す。そういう目標ですね。
ロトリー国からもたらされた火薬の知識は、多くが工事利用のためと認識されています。まぁ武器としての有用性は明白なのですが、火縄銃から機関銃を連想する人はまだおらず、しばらくは単発のライフル程度でで停滞しそうです。猟や魔獣対策の役には立つでしょう。
普段は。学校での講義や学会に呼ばれたり、ネイルコードや鉄道説明会の会議に参加し。爆破したほうが手っ取り早い現場で爆破をし。うちでは子供達と遊びつつ。皆の時間のリソースがなるだけ無駄にならないように気を配る…それが私のお仕事みたいな感じですね。
『まずは自分の人生をちゃんと楽しみなさい』
リシャーフさんのお言葉。あれから頭の中をリピートしています。
私は、生き急いでいるのでしょうか…
…前世の私は、トラックに轢かれたとかの突然死では無く、告知後もそれなりに時間は残ってましたからね。それまでの人生を振り返って、あれをやりたいここにも行っておきたいと、妙に焦ったのを覚えています。今はそのときの気分に似ていますね。
ただ…今回余命宣告されたのはこの星の人々であり、文明そのものの寿命です。私以外の全てに対して。…それって私が死ぬのと大差無いように思えてしまいます。
いえ…生まれた以上、死を迎えるのは必然です。宣告された…というより、明確に認識させられたというべきでしょうか。今居る人たちが…私を残して皆いなくなってしまうということを。
今はただ。やることがある。必要とされてる…と思います。
居場所と使命がある。
『まずは自分の人生をちゃんと楽しみなさい』
ほんとに至言です。
皆が…どこまで手が届くかは解りませんが、皆が自分の人生を楽しめるように。そのために自分の人生を楽しみます。この星での生活を楽しみます。
来週にはマーリアちゃんとクラウヤート様の結婚式が行われます。
貴族街の教会にて。上皇陛下と今上陛下、さらに正教国からはリシャーフさんを招いて、盛大に式を執り行います。それこそ、エイゼル市を上げてのお祝いです。
王都の神殿と正教国には、後日報告と承認の為に出向きます。この辺は戴冠式と同じような手順ですね。
リシャーフさんも、マーリアちゃんの実兄のアトヤックさんと結婚しましたので、リシャーフさんはマーリアちゃんの義姉となります。さらにアイズン侯爵家と聖女が縁戚で。アイズン侯爵家はユルガルム辺境候家と縁戚ですし、ユルガルム辺境候家とネイルコード王家にも類縁がありまして。結果、今回の婚姻で正教国とネイルコードが縁戚となった…というような関係となります。ちと回りくどくも感じますが、まぁ貴族はこういう縁を重視する物です。
ロトリー国からも参列して貰えます。もちろんアライさんです。
東の大陸から戻ってきたアライさんも、正式に大使格に昇格です。昇進はめでたいのですが、家の方にはあまり来られなくなって、子供達はちょっとさみしそうです。
「マーリアママ、クラウヤートさま、おめでとうございます」
「「「おめでとう」」」
「ひゃー。おめてとうこさいますっ!」
「クルッククックーッ!」
結婚を控えて。マーリアとクラウヤートが揃ってカーラさんのお墓参りしたあと。皆で食事会です。結婚式の前祝いですね。
別にこれでお別れでもないし、同じ街の中だからしょっちゅう寄るとは思うけど。この家から嫁ぐ、やはりこれは節目です。
ランドゥーク商会の面々に、ファルリード亭の面々も従業員にお店を任せて参加です。王都にいたモーラちゃんに、アライさんも参加してくれました。
この家の面々が全員勢揃いは久しぶりかも。
並んだのは、カヤンさんの料理ですからね。おいしくないわけがありません。
子供達も大はしゃぎです。賑やかに食事会は進んでいきます…
皆がお腹いっぱいになって。
お酒が入ったアイリさんとミオンさんが、夫操縦術なんて話でマーリアちゃんと盛り上がる段になると。タロウさんカヤンさんはクラウヤート様に奥さんの尻に敷かれない…敷かれつつもいかに威厳を保つかなんて話を、こそこそと始めたり。
そんな中も、子供達はマーリアちゃんやアライさんとべったりです。
子供達が眠たげになってくる頃にはお開きとなり。クラウヤート様は、明日午前に会議があるとかで貴族街に馬車で帰りますが。マーリアちゃんは今夜は泊まることになりました。
子供達はみなマーリアちゃんと寝たがり。今夜は私も一緒に寝ることになりました。
この家では、子供達がよく一緒に寝たがりますからね。一人部屋でもキングサイズのベットです。
さらにマーリアちゃんの部屋では、ベットと壁の間ではセレブロさんが寝そべり、今夜はフェンちゃんも一緒で。みっしりとケモノベットが併設されております。
三歳のタカシ君が、私とマーリアちゃんの間で一緒にベットへ。残りの子達はもふもふベットの方へ。
薄暗くした部屋で。天井を見上げつつ。
「ネイルコードに来てから九年か…なんかあっという間って気がするわ」
「懐かしいわね、前のファルリード亭。マーリアちゃんが乗り込んできたのは」
火災に遭う前のファルリード亭にマーリアちゃんが殴り込みに来たんでしたね。
「最初に会ったときのマーリアちゃん。"あなたが魔女ツキシマ・レイコね!"だっけ」
「あははは。懐かしいわね」
私がエルセニムに間接的に悪さをしているとダーコラで吹き込まれて。セレブロさんに乗って単身殴り込んできたのでした。
「…レイコママとマーリアママ…けんかしていたの?」
私たちの間で眠たそうに話を聞いていたタカシ君。
「ん~、そうね。最初は喧嘩だったわね。すぐに仲良しになったけどね」
「なかよし…よかった…すぅ…」
タカシ君、寝ちゃったようです。
「ふふふ。…レイコ、私ね、赤竜神様のお店に行ってみたのよ。東の大陸でも会ったけど、普通に接客していてびっくりしたわ」
「びっくりするわよね。店員姿、似合っているし…」
「うん…たまには人の生活に溶け込みたいとか、そんな感じのことを仰っていたわ」
そのための部分人格とか言ってましたね。
「彼と…いろいろ話をしたのね」
「たくさんの文明のこととかも聞いたわよ。レイコのことも多少は聞いてきたわ。ほら、陛下と侯爵とお義姉さんとも話をしたんでしょ?」
大きく息を吐くマーリアちゃん。
「規模が大きすぎて、想像しきれないけど。レイコもいつか、あそこに加わることになるのね。帝国のレイコ…さんが飛び立ったように」
「…どれだけ先のことになるか解らないけどね…」
星間に広がるメンターのネットワーク。億単位の星々と、京単位の人々…
「なんか気が遠くなるくらいの話よね」
「…私自身、ピンときていないけど。まだまだずっとずっと先の話よ?」
万年単位の先…その日ができるだけ先になることを祈っていますが…
「…レイコ…私も一緒に行ってあげようか?」




