第10章第060話 神様とお茶会その三
第10章第060話 神様とお茶会その三
Side:ツキシマ・レイコ
この"星"の文明はどの程度持つのか?
赤井さんとの会談、明るい話になるかと思ったら。いきなり侯爵からの核心です。
まぁ、目の前にいるのは彼らからすれば神です。私からすれば限界は想像できるけど、皆からすればまさに創造神。…これから人はどうすべきなのか、どうなるのか。聞きたいのも当然ではあるのですが。
自分は後どれだけ生きられるのか? あたりの問いかけをしないあたりさすが為政者…聖人としての貫禄もあるくらいですね。
それでも。
エイゼル市とネイルコードはわしが育てた! と言う権利があるくらいのアイズン侯爵です。
育て上げた当事者だからこそ。この街この国がどれくらい続くのか。今わかるものなら、自分のことよりも知りたいということでしょう。
考え込むような赤井さん…ですが。この程度のデータがさらっと出てこない訳がありません。なにかいろいろ思案しているんでしょうね。
たっぷり一分ほど考えた後、
「…そうですね。平均で言えば、一万年行かないほどですね」
「…一万年ですか。長いのか短いのか、なんともですな」
地球で言えば、紀元前一万年ほどから農耕が始まったとされてます。
一万年は、長いと言えば長いですが。逆に言えば、私が死んだ時代にはとうに滅んでいることが多い…ということですね。
地球の歴史を見れば、核兵器でにらみ合ったりやら環境破壊やら。産業革命後にすぐに滅んでいた可能性は高かったのは事実だと思いますが。
「レイコ君。さすがにいきなり原始人の状態で放り出したりはしないからね。地球よりは下駄履かせているよ」
私が何に疑問を持ったのか、赤井さんにはすぐにわかったようです。
人をその星に送り出したときには、とりあえず生きていけるように基本的な文明は与えているということですか。
リシャーフさんが「ゲタ?」って言ってますが。今はスルーします。
「一万年はあくまで平均です。文明の初期…この大陸で言うのならあと数百年ほどくらい、比較的短い期間で滅びる文明が多くあって。その段階を超えられさえすれば、後はさらに万年単位で長続きする…という傾向ですか」
短命か、それを乗り越えれば長命へ。そういうことですか。
「初期に滅んだのは…原因は戦争ですかな?」
「それも多かったですが。国家間の生存競争として他国が豊かになれば飲み込まれますから。焦燥から自然環境を無視した開発を続けた結果、生存維持のためのコストに耐えられなくなったというのも多かったです」
「ユルガルムの鉱山でも、鉱毒の処理とか始めているけど。もっと積極的な処理方法も開発しないとね」
「じゃな」
鉱山から出る水。石炭の脱硫。今はせいぜい貯めておくくらいしか出来ないですからね。
「その段階を超えさせるための手段として、レイコ殿を…ということですか?」
「単にレイコ君を送り込んだだけなら、ゆりかごコースだけど。…まぁ自滅できるくらいの文明まで到達できた星をそのまま滅亡させるのはもったいない…といいうのが大きいかな。そこまで育ったのなら、長生きさせたいのが親心だから」
私は、人類の文明のカンフル剤…いえ、抗がん剤ですかね?
「この星で最初に送ったのは、帝国の魔女と呼ばれたレイコだね。彼女を東の大陸に遣わせたのは想定より早かったのだけど。理由はラクーン達の存在です」
「でもそれは、ロトリー国が成る前…ですよね?」
うなずく赤井さん。
東の帝国がある時代には、まだラクーン達はその南の大陸に住んでいて。件の災厄の後、東の帝国の跡地に築いた国がロトリーです。
それよりも前から南の大陸で国としてはあったようですが。各地を転々としていた遊牧民みたいな生活だったようです。
「数千万年もあれれば、"人"以外の生物からも知性が生まれても珍しくは無い…と言いたいけど。やはり文明を持つところまで進歩できるのは稀少でね。こういう言い方をするのは不快だろうが、人類よりよほど彼らは貴重だ」
自滅してきた人の社会の数や、試行のバリエーションを増やしたいとなると。人以外の文明の価値は高いのでしょう。
「他には、昆虫とか水棲生物とか。意思疎通の能力をもつまでに至った生物はいるけど。昆虫では価値観の共有が全く出来ないし。水棲生物では文明を得ることは出来なかったね」
昆虫というと思い出すのが、あの蟻。あれらはやはりかなり進歩した生物だったんですね。…人と共存は出来なさそうですか。
「ラクーン達だけど。懸念したのは、彼らが人と接触したときに何が起きるか…」
当時、ラクーン達は南大陸の魔獣に生存領域を圧迫されつつあり、北上してきました。帝国と接触するのは時間の問題だったでしょう。
「南の大陸の魔獣を排除してラクーンを留めるとかは考えられなかったのですか?」
陛下が質問します。
「魔獣を間引く程度はしましたが。ただ、魔獣の存在が彼らを進化させたのも事実なのです。すべてを排除するつもりはありませんでした」
他の"人"の星でもやっていた、最初は環境を整える程度の干渉で止める…という赤井さんの方針ですね。
「鉄器、騎乗、船、軍隊。魔獣に対抗できるだけの文明を築いて、北の大陸へ移り住む。そこまではいいのですが…」
わかりますか?と手を広げる赤井さん。
「レイコ殿に聞いた帝国の歴史を考えると。まずそこで間違いなく戦争、どころか獲物として狩られる可能性すらありますな」
「…まずろくなことにはならないじゃろうな」
陛下と侯爵はため息をつきます。
「あんなにかわいいのに共存しないなんて…」
リシャーフさん。アライさんはかわいいけど。戦士達は熊と言った方がいいですよ、彼らは。
「早急に…といっても数百年単位の話だけど。帝国を比較的温厚な国として早々に治める必要が出てきました。」
「それを成したのが、帝国のレイコなのね」
私に頷く赤井さん。
「神の御座の星の爆発は、本当に直前になって警告するのが精一杯だった。玲子君には悪いことしたよ」
「…向こうのレイコは、ちゃんと理解していますよ」
誰かのせいにはしないでしょう。自分のことですから分かります。
「それでもね…辛さは分かるから。ロトリー国の建国から今の状態までを考えると、結果として人と平和的に関係を築けたのだから…皮肉だね」
帝国がほぼ全滅し、"人"が大陸を忌避することで、ラクーン達が平和的に東の大陸を独占してロトリー国を建てることが出来た。
赤井さんは、目的は達成できたとはいえ。後味悪かったでしょうね。
「生きる以上、滅びもまた必然ということですな」
なんか悟ったようなアイズン侯爵です。
「わしらに出来ることは。せめて今を生きるもの達がよりよき人生を過ごして貰えるよう、計ることくらいか」
陛下も。
「…それでも。いつかこの星の文明が滅んだとしても。赤竜神様、あなたたちが覚えていてくださる。そのことは確実に私の救いとなりました」
「…そうですね。…メンターは、文明を看取る者でもあるのです」




