第1章第033話 六六住宅
第1章第033話 六六住宅
・Side:アイリ・エマント
初夏なので。木の窓は閉めずに簾が網戸のように貼られているので。外が明るくなってくると日が透けて差し込んで来ます。宿屋の他の人たちも、日が昇る前から活動を始めたようで。宿泊客を起こすサービスで、順番にドアを叩いている音がします。
まだスースーと寝ているレイコちゃんとレッドさんを起こさないようにベットから出て、簾の貼られた窓を開ける。 部屋は、一階の通りに面しているところだから、既に行き来する馬車も見える。
なにげに、ファルリード亭に泊まるのは初めてだったりする。まぁ、ここから歩いて行けるところに住んでいるのだから当たり前だけど。
さて。レイコちゃんを起こさないと。
一階の各部屋の入り口は、カーラおばあさんのいるカウンターから見えるので。盗難の心配はさほど無いと思うけど。彼女のリュックは持っていった方がいいかな。宿で借りた寝間着から着替えたレイコちゃんと一緒に食堂に行きます。
他の宿泊客は日が昇ったら動き出すので、もうこの時間だと食堂も結構空いているので、昨晩と同じ席についた。
朝食は規定のセットが出される。まぁ、魚の炒め物のサンドイッチにスープだ。それを頼んで食べていると、タロウさんとエカテリンさんがやってきた。
「おれ、朝飯まだなんだよ。モーラちゃん、こっちにもセットちょうだい。サンドだけ1つ追加で」
「今朝急にこっち行けっって言われてね、私もまだなんだよ。こっちには丸ごと2セットおくれ」
エカテリンさん、朝から健啖ですね。それだけ食べてそのプロポーションは、うらやましいです。
エカテリンさんがここに来るとは聞いていなかったけど。レイコちゃん案件だからというのは見当がついた。案の定、今朝に臨時派遣が決まったそうだ。
ボアを単身で狩れるレイコちゃんとレッドちゃんに護衛が必要かな?とは思ったけど。余計なトラブルを避けるためには、騎士の護衛がついている。すなわちアイズン伯爵が計らっていると知らしめるのが必要なんだそうな。
「うーん、四人か。私はまだ六六に帰っていないのでまずそちらにと、あと教会にも顔出しておきたいんだけど、みんないい?」
「おまかせします」
「そういや、崖崩れで帰参が十日伸びたんだっけな。皆たぶん心配してるぞ」
「護衛はついて行くのみ。問題ないぜ」
道がてら、六六についてレイコちゃんに説明した。
スラムを撤去した時、住人を収容するために、安く早く作れる住宅が考案され。木材の産地で壁板やら屋根やら床やら部品を大量に作って輸送、現地では壁を四角く組み立てて、その上に屋根を乗せればできあがり。
その方法でもって、六人住める部屋が六つの長屋を建築。さらにそれを六棟で一区画。六区画で一町という感じで、どんどん広げていったんだそうな。
もちろん、全室に六人押し込んでいるわけじゃにいし。六部屋のうち五部屋に住んで一部屋は共同スペースにしたり。そのへんは余裕と共に変化していったそうな。住人は、一町で八百人前後かな?
片親の親子とか老人とか、そういうのを上手いこと混ぜて、親が働いている間の子供の面倒を見てもらったり。炊事をまとめてやることで時間や費用の節約や省力や。子供達にはお小遣いで洗濯を頼んだり等、六六の中で互助ができるような仕組みができていて。スラム街と違って治安は急激に良くなったそうだ。
流石に初期の六六は安普請過ぎるけど。今は柱も立てて床板や天井だって貼られていて。内壁を綺麗に整えればなかなかに良い感じの部屋になる。
私は、そんな六六に一部屋を借りて一人で住んでいる。六人用の部屋よりはちょっと狭いが。それでも個室なのはありがたい。ここに入るまでずっと大部屋だったからね。
私の部屋にある六六入っていくと、井戸端会議をしていた奥さん方が駆け寄ってきた。
「ちょっとちょっとアイリちゃん。無事だっのね? もう、心配したわよ」
「ギルト近くで働いている人に崖崩れだって聞いたけど、? 大丈夫だったの?」
「ユルガムルにいるときに崖崩れの一報が入って、そこで一週間ほど足止め食って、遠回りで戻ることになったので遅れましたけど。大丈夫でした」
「えー。キャラバンが崖崩れに巻き込まれたって話が出てたわよ。しかもキャラバンの人たちが生死不明だって」
うわー。なんか大事になってます。
出張からの帰参予定は決まっていたけど。遅れた理由なんてそうそう伝わらないからね。
「ああ、俺も昨日帰ったときに、近所の人に驚かれたなぁ… ギルドとか伯爵家の方には、きちんと連絡行っていたようだけど。変な噂になってしまっているな」
タロウも心配されたようね。ギルドに帰ったときには騒ぎになっていなかったので、知らされるべき人には知らされているようだけど。流石に一人暮らしの近所まだは対象外か。
「あら、この子はどちらの子? あら、背中のは犬…でもないわね。何かしら?」
おばちゃん達は、私とレッドさんに気がついた。
「レイコと申します。この子はレッドさん。いろいろ訳あってギルドでお世話になってます」
「…あたし、そう言えば今朝、キャラバンがドラゴンに襲われたって噂を聞いたんだけど…」
なんかいろいろ噂に尾鰭付いていますね。みながレッドさんに注目します。
レッドさん、翼は畳んでいますが。犬には見えない顔に角は隠していない。そもそも赤いし。まぁ分りますよね。
「クー」
「赤竜様が飛んでいるのを見ましたけど。襲われてなんていないですよ」
「赤竜様、本当にいるんだねぇ。私のおばあちゃんが子供のころに遠くを飛んでいるのを見たって言っていたけど…」
「クー?」
「…こんなに小さくてかわいいって話は聞いたことないねぇ…」
ここで、騎士装備のエカテリンさんが居るのにも気がついたようですね
うーん。レイコちゃんについては喋るなとは言われていないけど、積極的に風潮するのは論外だよね、どうしよう…と思っていたら。私が困った顔をしたのを見た奥さんの一人が、気を利かせてくれて話を合わせてくれた。
「ああ、はいはいはいはい。なんか訳ありみたいね。訳あり扱いでいいのよね? 騎士様が付いているってことは、そういうことでいいのよね?アイリちゃん」
「それでお願いします!」
「私らの街の伯爵様は、いろいろ"持っている"と思っていたけど。今度は赤竜神さまかい。まぁ伯爵様が承知なら、むやみに騒ぐこともないんだろうね。」
「はい。それで大丈夫かなと。私は今日はこれから用事があるので、その辺いろいろはまた今度ね」
「はいよ。気をつけて行っておいで」
奥さん達とは、手を振って別れた。訳ありで済ませてしまう奥さん達凄い。
ともかく。まずは自室に旅の荷物を放り込んで、すぐに戻った。部屋の換気は、頼んでおいた隣の奥さんがしてくれたようです。あとでお土産持っていこう。




