■97 魔法の兆しを感じて
二話目。
それは私とスノーの二人で戦っていた時だった。
その日、私とスノーは鬱蒼とした森の中で変なモンスターと戦っていた。
「シュシャァー!」
「スノー、コレなに!」
私は叫んだ。
今対峙しているモンスターは蛇だった。だけど頭にピンク色をした五枚の花弁を生やしていは。体の色は上からだと紫。下側は白いのだ。
しかも巨大で赤い舌を伸ばして好戦的。
明らかに毒蛇だ。
「カタバミコブラー」
「はい?」
「カタバミコブラー。ムラサキカタバミと言う花とコブラを併せたコブラ型のモンスターだ」
「知らない花なんどけど、ソレ」
「私もあまりこの手の話題には明るくない。だがこの色合い、来るぞマナ!」
「えっ!?」
その瞬間、私に向けて紫色の何かが噴射された。
ドクノコの時と似ている。コレは毒だ。でもそれなら私には効かない。
すぐさま〈麒麟の星雫〉を抜刀し、構える。
しかしスノーはさらに続ける。
「違う。この毒は無害だ!
「えっ!?」
しかし遅かった。
私は紫色の液体に触れた。しかし毒のエフェクトは発生しない。確かに無害ならそうもだけど、私は元々状態異常を阻害出来るから関係ない。
そう安堵した矢先、私の頭上を覆うように黒い影が落ちた。
「カタバミコブラーは目眩しをして相手の注意を削ぎ、その間に攻撃してくるんだ!」
スノーはそう叫ぶ。
しかし遅かった。
私は五枚の花弁に包まれてダメージを食らう。
「ぐはっ!」
しかし何とかすんでのところで【雷歩】を使いその場から脱した。
だけどHPはごっそりと削られる。
しかも見ればカタバミコブラーのHPが回復しているではないか。これはもしかして……
「回復系?」
「そうだ。だからこそ早期決着をつけるしかない」
スノーは大鎌を構えてそう呟く。
確かにこのまま長く戦っていたら結局こっちの体力を削り尽くされて死んでしまう。
アイテムの消費も考えると尚更だ。
私はゴクリと唾を飲む。早急と言われても私にはそんなに攻撃的なスキルはない。スノーみたいに相手の動きを封じるような魔法も攻撃に使える魔法もないのだ。
故に私が致命傷を与えるにはまともにやり合うしかなかった。
(こんな時に魔法があれば……)
今までも何度もそう思った瞬間がある。
だけどこればっかりは全くと言っていいほど叶わなかった。
決定打がないままチクチク攻撃を続ける。
途中スノーが魔法で足止めしてくれてたけど、それでも私の攻撃力は普通なのでたかが知れている。
「こうなったら私の《ナイト・デスサイザー》でやるしかないか」
流石にジリ貧だ。
このままじゃ本当にやられかねない。
「こうなったら!」
「なにをする気だマナ?」
「【雷歩】使って接近する!」
私は【雷歩】を使った。
超高速で移動し、カタバミコブラーに近づく。
しかし接近した途端挙動を変えた。カタバミコブラーの花弁が全て散り、その瞬間私の目の前で不思議なことが起こった。
花弁が落ち、束になった。
そうしたら急にもう一体カタバミコブラーが姿を現したのだ。何の前触れもなく唐突にだ。
「ふ、増えたっ!」
「マズイな。カタバミコブラーの【分身】だ」
「【分身】?」
そんな能力があったんだ。知らなかった。
でも如何しよう。これで数がおんなじになっちゃった。スノーも苦い顔をしている。
「逃げるぞマナ」
「えっ!?」
「このまま戦っても埒が明かない。数の利も並ばれた。地の利もない。作戦も通用しない相手にこれ以上時間を割くのも癪だ」
「そうだけど。でも、向こうは逃してくれそうにないよ?」
確かにスノーの言う通りだ。
このまままともに戦っても太刀打ち出来ない。
レベル差はあるものの、それだけでは勝てないのは自分でもよくわかっている。
埒が明かないとかじゃなくてジリ貧すぎる。せめて何か強烈な一撃があればいいんだけど、そんな技はちなっちやKatanaと違って私達にはない。
チクチクタイプの悪いところだ。
「マナ、【雷歩】はまだ使えるか!」
「うん。できるよ」
「よし。私が動きを止める。その間に離脱だ」
「わ、わかった」
私は小さく高速で頷き返した。
しかしスノーが攻撃に転じるより早く、カタバミコブラーは動きでした。
口から毒液を発射する。
私達を狙ったのではない。背後を狙ったのだ。つまり……
「退路を断たれたか」
「そ、そんなー」
私はともかくとしてもスノーはあの毒液の上をまともに歩けない。
となると、退路は完全に断たれたことになる。だったら如何する。決まっている。それまで時間稼ぎをして毒の効果が切れるのを待つ。もしくはここで倒してしまう。
その二つしかない。そんな二者択一に迫られ、私はスノーに答えた。
「倒そうよスノー!」
「本気か」
「うん。こんなところで負けてられないよ!」
私は大きく頷いた。
するとスノーも大鎌を構える。
「いいだろう」
「よーし!じゃあ行くよ!」
「その前にマナ。一つアドバイスだ。本体を叩け。いいな」
「本体?」
「ああ。奴の花弁が作り出した分身は無視しろ。本体を叩けば分身も消えるからな」
「わかったよ。じゃあ、行くよ!」
私はスノーのアドバイスを聞いて飛び出した。
【雷歩】と〈雷光の長靴〉の効果を併せ、突撃する。
花弁が作り出した分身は【コットンガード】で撹乱する。
ボファ!
【コットンガード】で作った偽物が分身に壊される。
でもこれで時間が稼げた。
私はちょうど〈雷光の長靴〉な効果が切れる瞬間、腰から〈波状の白星〉を抜刀した。
「食らえ!」
私は〈波状の白星〉を振り波状攻撃を起こす。
それにしても敵を一体に絞ると動きやすくていい。
私は〈麒麟の星雫〉と〈波状の白星〉を二刀流で振るい続けた。その結果、カタバミコブラーのHPは半分近く削れていた。
「このまま一気に!」
「《シャドウ・バインド》!」
スノーはカタバミコブラーの動きを制限する。
本体は花弁が全て落ちてしまっているのでわかりやすい。
でもこの魔法を使うってことはスノーの方は……
「スノー!」
「構うな」
スノーは大鎌の柄の部分で攻撃を受け止めていた。
でもあれじゃあそう長くは持たない。こっちも早く決着を受けないと。
「あーでもやっぱりスノーもほっとけない!」
私は〈波状の白星〉を分身体に投げつけた。
カタバミコブラーの動きが若干鈍る。その瞬間を見逃さず、私は〈麒麟の星雫〉を両手に持ち替えた。
そして……
「これでおしまい!」
私は突撃しながら斬りかかる。
その瞬間、若干刀身が輝いていた。
「あれは!」
「たぁー!」
私はそんなこと一切気にせずカタバミコブラーを斬る。
縛られて動けない相手だ。私でも簡単に倒せた。
一気にHPが削れ、大幅にダメージを負う。その結果、分身体は消滅。つまり本体は倒されたのだ。
「はぁはぁ。スノーやったよ!」
「ああそうだな。今のは……」
スノーは何か悟っていた。
顎に手を当てて考え込む。私は尋ねた。しかしスノーは何も教えてくれなかった。私には何でかさっぱりだったがスルッとカタバミコブラーを斬りつけられたことが少し不思議ではあったのだ。
まあこの時の私はなーんにも気にしていないのでした。




