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■72 この展開何処かで見たような?

でもちょっと違う。

 私は今日も今日とて〈WOL〉にログインし、〈ライフ〉を堪能していた。

 で、今日は私一人である。

 と言うのも皆んな用事があるかららしい。

 つまり暇人になったのは私だけで、私はそんな“暇”の中を一人歩んでいた。


「うーん、こうして一人で街を歩くのも久々な気がするなー」


 あっさりとした言葉を吐く。

 〈リムルト〉の街並みは依然として変わらない。というか、最近私達が街にまで足を運んでこなかったせいだろう。

 ここ数日は色んな場所に行って、モンスターと戦ってレベル上げやら何やらをしていた。

 そのおかげで私のレベルも少し上がった。


 今のレベルは35。

 ジャイアントアースワームと対峙したことで、レベルが上がったのだ。そのおかげかステータスもかなり上がっていた。

 それもこれもタイガーの手助けのおかげでもある。

 だけど、あっさりギルドへの勧誘を断られてしまったのは少々だった。


「うーん、どうにかしてまた会えないかなー」


 多分あの森に行けばまた会えるんだろうけど、またウザがられて、最悪追い返される可能性だってある。

 せめてこの間のお礼だけでもしたいんだけどなー。

 そう思いながら適当に歩いていると、普段は通らない少し横道に逸れた道に入っていた。


「あれ、私またこっち来てる」


 とりあえず大通りに戻ろうと思いながら散策していると、ふと見覚えのある顔があった。

 それはとある建物の中で、如何やら喫茶店のようだった。

 私はその姿を見つけると、お店の中に入る。


「アレって、もしかして……」


 そう呟きながらお店の中に入ると、昔ながらのチリンチリンと綺麗な金属の音色が響く。

 私はこの音が嫌いじゃない。風情があってよかった。


「いらっしゃいませ!一名様ですか?」

「はい」

「ではこちらの席にご案内しますね」

「あっ、すみません。その、知り合いがいるので」

「そうですか。では後でご注文の方をお伺いさせていただきますね」


 そう言ってウエイトレスのNPCは厨房の方に戻ってしまう。

 お店の中は結構いい感じで、少し暗めの照明に大きな窓。それからサイフォンの姿もカウンターの奥にある。

 何だろ。やっぱり良いムードのお店だ。

 しかもお客の姿もそんなに多くなく、隠れ家的なテイストが窺えた。結構気に入ったのは言うまでもない。


「って、そんなことよりも!」


 私はトコトコトコと見知った客のいる席に向かう。

 そこは窓際の席で、さっき見た限りではコーヒーを飲んでいたように見えた。

 私の見たのが正しければ彼女はまだいるはずだ。


「やっぱりいた」

「ん?またお前か」

「うん。またお前だよ」


 私はそこにいた相手に話しかけた。

 それは当然のことながらタイガーで、彼女は私の姿を見ると怪訝そうな顔をするわけでもなく単調に応えるのだ。


「ここ座るよ」

「はっ?他にも席はあるてるだろ」

「私はタイガーの話がしたいんだよ!ね、いいでしょ?」


 そう尋ねるとタイガーは渋々それを受け入れた。


「ただし、俺は頼んだものが来るまでの間だからな」

「うん。いいよ」


 私は大きく頷く。

 すると誰かがこちらに歩いて来る音がした。さっきのNPCだ。


「お客様、ご注文の品はお決まりでしょうか?」

「えっと、じゃあエスプレッソで」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 ウエイトレスの女性は伝票を取ると、再び厨房の方に行ってしまう。

 その後だ。最初に口を開いたのはタイガーだった。


「お前エスプレッソ飲むのか?」

「うん。駄目かな?」

「いや、駄目じゃねぇけど。あんな良いサイフォンがあるのにか」

「どゆこと?」


 私は首を傾げた。

 するとタイガーは少しだけ教えてくれた。


「今俺の飲んでるのは普通のブラックだ。けどエスプレッソはサイフォンとかみたいな道具じゃなく、別の道具を使って圧力を加えながら作る。だから、量もそれだけ少ないし抽出率も変わるんだよ」

「そうなんだ。詳しいね、タイガー」

「まあな」


 タイガーはそう言いながらカップに口をつける。

 えらく楽しそうだ。

 私はそんなタイガーに尋ねた。


「ねえねえタイガー!」

「なんだよ」

「タイガーはさ、料理好き?」

「なんでそんなこと聞くんだよ」


 もっともな質問だ。

 だけど私は素直に答える。


「だってタイガー楽しそうだったもん。それに普通の人ならそんなこと気にしないでしょ?」

「あっ!」

「図星ってこと?」


 煽るように問う。

 するとタイガーはわかりやすくテンパっていた。


「べ、別にそんなわけねぇし!私は……じゃなかった。俺は、料理とか……」

「私も料理はするよ。簡単なものだけどね」

「そうなのか!」

「うん。得意ってわけじゃないけど、楽しいよ」

「そうだよね。あっ、本とか読むの好き?私はね、ファンタジーものが大好きなんだ!」

「私も本読むよ。ファンタジー系のラノベなら何回か読んだことあるけど」

「十分だよ!あー、やっぱり同年代っぽいこと話すといいなー」

「そうだね。後、キャラブレブレだよ」

「あっ!」


 タイガーは今更気づいたみたいだった。

 顔を赤らめている。やっぱりキャラ付けしてやってるんだ。

 多分だけど、その理由はなんとなくわかった。


「もしかしてタイガーって人付き合いとか苦手だったりするの?」

「はあっ!?」

「あっ、ごめんね。なんとなくそう思っただけだから。変なこと聞いてごめんね」


 私は手をプルプル振りながら謝る。

 しかしタイガーはしばし黙り込む。

 少しの間と沈黙が明けた後、タイガーは口にした。


「そうだよ。俺は学校でも教室の隅っこでひっそりしてるような奴だ」

「学校?じゃあ学生なんだ、私もそうだよ」

「ふん。お前は違うだろ。その性格だ。友達も多いんだろ」

「ま、まあちょっとだけね」


 ここはしっかりと話す。

 ここで誤魔化しても仕方ないからだ。


「俺はそんな奴いない。臆病だからな。誰とも話そうとしない。代わりに、俺が変な目で見られることもない。適度な距離感を俺は保ってる。だから俺は他の奴とはつるまねえんだ。俺がいると場を壊す。距離感が近すぎて、空気をメチャクチャにする気しかしねえ」

「考えすぎだよ」

「そうだとしても怖いんだよ。俺は……私は臆病なんだ!」


 タイガーは本音を呟く。

 それを知った私は特に何かを言える立場ではない。だけど、そんな彼女に一言。


「だったら私と友達になろ」

「えっ!?」


 タイガーは伏せていた顔を上げる。

 私は真剣だ。


「学校とか学年は違うかもだけど、私は距離感がどうとかで嫌いになったりはしないよ。だって私の方からグイグイお節介焼いたり焼かれたりしてるんだからね!」

「そ、それはそんなに堂々と言わなくても良いと思うぞ。むしろウザい」

「だろうね。でも、それがわかってるからやってるんだよ!私、そう言う誤魔化しキャラじゃないから」


 ニコニコ笑顔で答えた。

 側から見ればヤバい奴と思われるかもしれない。けど、ちなっちもスノーもKatanaもそんな私と一緒にいてくれる。

 仕方なくなのかはわからないけど、私には少なくともそんな気はしなかった。だからこそ、タイガーとも仲良くなれる予感がビシバシ感じるのだ。

 そんな話を聞いたタイガーは再び俯く。

 しかしさっきとは違う。それは何故か。タイガーはピクピクと肩を動かして笑っていたからだ。


「タイガー?」

「変わってるよ。ホントに」

「えっ?」


 よく聞き取れなかった。

 だけどタイガーはバッ!と顔を上げ、笑顔で答える。


「いいぜ、友達にはなってやる!」

「ホントに!」

「ああ。だけど、ギルドには入らねえ」

「えっ!?」


 思っていた反応と違う。

 困惑する私に対し、タイガーは告げた。


「俺をリアルで見つけてみろよ。そしたら仲間になってやる」

「ホントに?」

「ああ。俺の名前は西大河(にしたいが)。まあどうせ無理だろうからな」

「西大河……いいの名前なんて言っても?」

「お前なら問題ねえだろ。それに今、この喫茶店には俺達以外誰もいねえ。だからいいんだよ」

「そっか」


 確かに私達以外誰もいなかった。

 だから私もタイガーに名前を言う。


「じゃあ私も本名言うよ。私は神藤愛佳。よろしくね」

「ああ」


 とりあえず約束は取り付けた。

 後は、タイガーをリアルで見つけるだけ。だけど焦ることはない。だから今は……


「お待たせしました。こちらがエスプレッソになります」

「あ、ありがとうございます」


 如何やら私の頼んだエスプレッソが来たらしい。

 それから別のトレイの上には何やら美味しそうなパフェが乗っていた。


「それからこちらが当店自慢のコーヒーゼリーパフェになります」

「おっしゃぁー!」


 如何やらタイガーが頼んでいたものらしい。

 へぇーこんなのあったんだ。知らなかった。メニュー表見ておけばよかった。

 と考えていると、そのあまりの重さからかウエイトレスのNPCの動きに異変が起きた。

 ぐらついている。体勢が崩れたのだ。


「うわぁ!」


 その拍子にトレイが落ちる。

 それはすなわちタイガーの頼んだメニューも落ちる……かと思いきや。


「よっと!」


 タイガーは落ちる前にパフェとトレイを一緒に受け止めていた。

 何という早技と体幹だ。普通の人にはあんな芸当普通出来ない。あれ?普通二回言ってない?まあいっか。


「す、すみません。お客様!お怪我の方はございませんか?」

「大丈夫だ。それより、ちゃんと両手で持った方がいいぞ。渡すときは一度テーブルに置いてからの方が効率もいいし、気を張らなくてもいいからな」

「申し訳ございませんでした!すぐに新しいものに……」

「いいって。それよりも、そっちは大丈夫なのか?」

「は、はい」

「じゃあよし。もういいから」

「本当に申し訳ございませんでした!」


 ウエイトレスのNPCは再び厨房の方にお戻っていく。

 タイガーの手際の良さを目の当たりにしながら、彼女はコーヒーゼリーパフェを美味しそうに頬張っていた。


 




 

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