夢の中は潜水艦で
「着いたー!」
歩く事20分弱、本当良く此処までたどり着いたと思うよ。
次に外を出るときは水かさをもっと増しておこ。
尋常じゃあないよ、暑さが。
この世界でも温暖化とかが進んでいたりするのかな。
でも科学はそんなに発展していないよね。
「此処がシエスカさんの部屋ですねー」
「案内ありがと、シャール」
木造建築でとても落ち着いた雰囲気だ。
夏に来て良かったと思う。
目の前に広がる青い海と白い浜辺。
あー、ずっとこの部屋で引きこもりたい。
「この後は晩御飯までは特に何も予定がないのでゆっくりしていってください」
「分かったわ」
「それでは、ごゆっくりー」
ただの案内役のはずがこの旅館の従業員みたい。
そもそも何故シャールはこの旅館に詳しいんだろう。
見取り図でもあるのか、あるいは以前に来た事があるのか。
ま、今はそんな事どうでも良いか。
「えっと……ベットは……あれね」
一人用にしてはあまりにも広い旅館のような部屋。
その隅っこに柔らかそうなベットが一つ上品に置かれていた。
触ってみてるとふわふわ。
これは所謂、太陽の香りと言う奴だろう。
良い匂いが部屋を良い具合に包み込んでいる。
照明も天井の電球だけで充分まかなえる。
常夜灯も寝るには丁度いい明るさだ。
床はマットが敷き詰められている。
感触はふかふか。
「晩御飯まで予定なし……か」
となれば話は早い。
私はその格好のままベットへダイビング。
ふかふかのベットが小さい私を包み込んだ。
「このまま……寝ちゃっても良いよね……」
私はベットの甘い誘惑に負け、そのまま深い深い夢の世界へ。
気分は最高だ。
本当は布団を被れば行儀が良いのかも知れないが、今の私は疲れきっている。
私を起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる。
ーーーーーーーーーー
一面真っ暗な何もない世界。
夢の中だから当たり前と言えば当たり前だ。
でも、何処からか奇妙な音が聞こえてくる。
ピーン……ピーン……と言う小さくて耳を劈くような音。
だがどうせ夢の中。
そんな細かい事は気にしなくても良いだろう。
「ソナー探知、敵との距離870、本艦の深度560」
全く持って聞きなれない男の声がしっかりと聞こえた。
おかしい、此処は旅館の一室のはず。
ソナー? 何それおいしいの?
「良し、各部雷撃戦用意! 魚雷室! 右修正プラス4」
「了解しました! 1分で終わらせます!」
旅館なのに魚雷。
中々物騒な事を口走っているな此処のオーナーは。
いや、店員さんか?
何人もの声が耳元で聞こえる。
いや、これは夢だ。
夢に違いない。
足の感触、充満した変な匂い、ピーンと響く小さな音。
夢の世界で私の六感が敏感に発動するはずがない。
ほらみろ、身体を動かそうと思っても動かせない……動かせる?
「魚雷発射! テッー!」
「打ち方、始め!」
「テッー!」
前の方から何かが飛び出す音が聞こえた。
2回ほど間違いえなく。
「次弾装填用意!」
「次弾用意! 急げッ!」
緊迫した空気が周囲を包み込む。
聞こえるのは船が軋む音と何かの音波だけ。
後、たまに波の音が聞こえる程度。
「本艦の魚雷、2本中1本命中! しかし不発弾に終わった模様!」
「修正マイナス3度、速度30に固定!」
さっきの軋む音は命中音のようだ。
……命中?
「テッー!」
「打ち方始め!」
「テッー!」
さらにもう4回、前の方から何かが打ち出された。
きっと大きな船をも沈める事が出来る兵器。
魚雷だ。
そうなると今、私がいるこの場所はその潜水艦の船内と言う事になる。
いや、何でだよ。
私はついさっきふかふかのベットに包まれていたはずだよ。
こんなカレー臭が酷く、揺れも激しい気味の悪いところに足を踏み入れた覚えはないよ。
「命中ッ! 沈んでいきます!」
「海面にて異常音発生中! やりました! 立て続けにもう一隻もやりました!」
船内に歓喜の声が響き渡る。
今度こそ本当に命中させ敵? を沈めたらしい。
「もう一隻と言う事は随伴していた駆逐艦か……」
「あるいは通り抜けた先に何かが居た……と言う事ですな」
「いずれにせよ敵空母を沈めたのは確実だな」
「はい」
自信満々に答える副長ぽいっ人。
いやおっさん。
髭が素晴しいほどまでに伸びきっている。
何か肖像画に出てきそうな感じだ。
「撃沈判定1、命中3、空母1撃沈、駆逐艦1大破!」
船の中を歓喜に満ちた声で放送が伝わる。
夢のはずなのに熱気がはっきりと伝わってきた。
もしかして私、本当にこの胡散臭い船の中にいるのか。
この臭くて居心地の悪い船の中に。
だとしたら最悪だ。
悪い夢なら早くさめて欲しい。
「良し! 潜望鏡深度まで浮上! 戦果を確認する!」
「浮上、メインタンクブロー! アップトリム5!」
号令とともに足元が一緒に浮いていくような感覚を覚えた。
浮上しているのか。
「潜望鏡上げェい!」
「潜望鏡上がります!」
艦長のような人が所謂、潜水艦の目、潜望鏡の中をじっくりと覗く。
彼の目には一体どのような光景が広がっているのだろう。
煙だろうか。
「確かに……」
そう言うと艦長は潜望鏡を下げて次の指示を出した。
「これより帰路に着く! 艦首を右へ向けよ!」
丁度その時、タイミングよくソナーの音を聞いていた人が報告を加える。
「艦長ッ! 本艦を追尾する艦あり! 数、3!」
「そのうちの一隻、間もなく本艦の頭上を通過!」
「頭上だと!?」
「爆雷を投下しました! 数……10! 命中します!」
……そこから先はよく覚えていない。
でも気分は最悪だった。
命中した後、破裂した箇所から水が溢れこんできた。
破損に耐えられなくなった潜水艦はついに、沈没した。
爆発と同時に、私は……。
目が覚めた。
「シエスカさん! 起きてください! 晩御飯ですよ!」
「……お、おはよう」
「おはようてっ……もう夜ですよ?」




