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蒸気機関車

 この世界に来て、初めて本格的な旅行を堪能しているのかも知れない。

 私は今、学園を出て汽車の車内で揺られている。

 この世界にも汽車はあったのね。

 写真だけなら見た事のある汽車。

 そしてこのタイプはシャールいわく『SL』と言うタイプ。


 蒸気機関と言う機関で動く汽車の事を指して、乗り心地は最高。

 魔法で制御されているんじゃあないだろうかと思うほどである。

 私自身、汽車に乗るのは生まれて初めて。

 前世では普通の電車を利用していたけれど、たまにはこんな雰囲気もアリかも知れない。


 今回の旅行は私とシャール。

 そして複数名の同じクラスの女子生徒だ。

 引率の先生はいない。

 一人は居ても良いかも知れないけど、此処は何せ異世界。

 私がいた世界とは全くの別物。


 魔法もあればそこそこの科学もある。

 学園もあれば先生だって普通に居る。

 高層マンションはないけどおしゃれな店ならある。


 そんな世界。


「何しているの?」

「あっ、いや。別に……軽いメモを取っていただけだよ、シャール」

「シエスカさんてっメモを取るタイプだっけ?」

「今日は特別な日だからね。こうやって記録を気分で取っているのよ」

「成程」


 気分なのは確かだ。

 私は今、メモを取っている。

 メモと言う名の記録帳だ。


 メモ帳自身のサイズは市販で売って良そうな小さくて持ちやすい便利なやつ。

 ペンはシャーペンではなくて羽着きの筆。

 此処はいかにも異世界ぽい雰囲気だ。

 ただしサイズは小さめ。

 書きやすさを追求した究極の羽着き筆。

 今日初めて使ってみたらとても書きやすかった。


 でも、私はシャーペン派かな。


「目的地まで後、どのぐらいかしら」

「大体後2時間ちょっとと言った感じですかね」

「一応蒸気機関ですが、魔法による補佐も入っているのでそんなに速度は出ないのです」

「詳しいのね、シャールは」

「いえいえ、少しだけ科学について自主勉をしたまでです」


 後2時間か。

 確か目的地は白い浜辺の海。

 シャールの家の領地からは随分と離れているけど治安はとても良いらしい。

 予約しているホテルと言うか旅館も良いらしい。

 公式サイトなんてこの世界にはないからどんな感じかは分からないけど。


 予定は二泊三日。

 最初の一日は海で思いっきり楽しむらしい。

 大体二時間から三時間のコース。

 その浜辺は穴場スポットらしく実質、私達が貸しきっているような状態。


 二日目は船に乗って海を楽しもうと言う物。

 港じゃあなくてそのまま浜辺で良いと言う事らしいけど、一体ど言う事なんだろう。

 普通、船てっ港から出る物なんじゃあないかな。


「にしても暇ね」


 船や電車もそうだけど、こう言う揺られている時てっ何をすれば良いのかしら。

 前世ではスマホとかを弄っていたのだけれど。

 この世界にはまだインターネットはない。

 ネットがなければスマホも、パソコンもない。

 ただし、新聞はある模様。


 仕方ない、新聞でも読もうかしら。


「暇なら寝るのも良いですよ、心地よい振動に揺られながら」

「それ良いわね。よし、それに乗ったわ」

「はい。目的地に着いたら起こしますね!」

「よろしくね」


 私は目覚ましをシャールに任せ、そのまま眠りに着く事にした。

 丁度良い振動。

 バスなんかではついつい寝てしまう私だが、これは直ぐに寝てしまいそうだ。

 あっ、段々と眠たくなって……。


~~~~~~~~


「シエ……シエスカさん……シエスカさん! 起きて下さい!」


 う、う~ん。もう着いたの?

 二時間てっ寝てしまうと本当にあっと言う間ね。

 何時も夜寝るときなんかは良く寝たと言う実感があるのに。

 もっと寝たかったな。


「おはよう……」

「おはようてっ、もうお昼ですよ」

「アハハ……もうそんな時間なのね」


 車内の時計を見ると確かにお昼時だ。

 時刻は12時前。

 確かこの後は汽車を降りて昼食だったかしら。


「では、これから今回の宿泊先へ行きたいと思います!」


 シャールがまるで引率の先生のようだ。

 五人近くの集団を纏め上げている。

 気合入ってるな。


「では、出発しましょー」


 こうして、私はこの田舎のわりにはそこそこ立派な駅を後にした。

 木造建築で二階建て。

 一階はお土産屋、二階は展望デッキ。

 ガラス張りの綺麗な場所だ。

 人手はそこそこ。


 中々名の知れた観光スポットらしい。

 旅行ずれのお客さんがとくに目立った。


「暑い……」


 駅を後にして十数分。

 私は暑さにうなされていた。

 一応水筒はあるが何時尽きるか分からない。

 結構な頻度で飲んでいます。

 旅館で水とかもらえないかな。


 異世界だから自動販売機なんてあるはずがない。

 日本円もございません。

 自動販売機のありがたさが良く分かった一日になりそうだ。


「海の水でも飲んでやろうかしら」

「シエスカさん、海水は飲んではいけませんよ」

「うぅ……水……水……」


 一番最後尾についてしまった。

 これではまるで私が足手まとい。

 何時か挽回してやる。

 私だって能力はあるんだ。


「引きこもりのシエスカにはこの暑さは厳しいかしら」

「うるさいわね……水……」

「水……居る……?」

「うぅ……気持ちだけにしておくわ」


 少し鼻で笑って嘲笑ったのは同じクラスの女子。

 ステラ・ケーリ。

 家はそこそこのお金持ちで少しだけ彼女の家が負担したのだとか。

 やっぱりお金持ちの世界は良く分からないわ。


 水をあげようとしてくれた心優しい少女。

 ハンス・エヴァ。

 運動神経は悪いが成績は優秀。

 性格から私とは直ぐに仲良くなった。

 しかし、私が足手まといになってはならない。


 この水筒だけで、旅館までたどり着いてやる。

 意地でも。

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