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*慎重に狡猾に

 アザムは助手席に、サムウェルは後部座席に腰を落とす。シートベルトを締めて車はゆっくりと動き出した。

「場所は絞れたの?」

「拠点という意味ではまだだ。しかしレイを捕らえてある隠れ家は掴んだ」

「でも……なんで今頃?」

 あれから7年も経ってるのに、と唇を噛む。

「FBIからの逃亡と潜伏にそれだけの時間を要したという事だろう」

「でも……っ なんでこんなこと……」

「彼らにはこういう戦い方しか無いのだ。それが良い訳ではないが、大国に立ち向かうためにはこの方法しか無い」

「!」

 どこか愁いを帯びたベリルの横顔にハッとする。彼らは好きでテロリストと呼ばれている訳じゃない。

 そうか、だからベリルは普段テロリストとは言わないんだ……アザムは納得したように目を細めた。

 呼称が必要な時はそう呼ぶんだろうけど、彼自身からその言葉を聞いた事が無い。

「世の中って難しいね……」

「! ……そうだな」

 ちらりと視線を向けて応えたベリルに小さく笑みを返す。

 アメリカが戦うのは主に市場を守るためだ。きっと、テロリストと呼ばれる人たちとはどこか食い違いや思い違いもあるのだと思う。

 曲げられない信念や相容れない想いもあるのだろう。

 僕たちには到底、計り知れない感情が渦巻いていて少し言われたくらいで終わらせられるようなものじゃないコトくらい知ってる。

 それでも……こんなコトは止めて欲しいと思わずにはいられない。

 僕の両親が死んだのは確かに戦争でだ。でも、殺したのはアメリカ兵じゃない……もしアメリカ兵が殺していたとして、僕はアメリカを憎んだのだろうか?

 それは解らない。憎むコトも憎まないコトも、それは当人の意識なんだ。

 中にいた僕にだって、あの戦いがなんだったのか解らない。本当に解っている人なんて……いたんだろうか。

 解らないコトだらけの世界だけど、解らないコトだらけだからこそ僕は知りたい。

 ベリルがぼそりと言ったコトがある。

『人は智の奴隷だ』

 知りたくて知りたくて仕方がない生物、その知識に溺れ振り回される。

 常に客観的に見つめる事は困難だ。主義・主観が異なるからこそ、相手に対する礼儀はわきまえなければならないのだろう。

「アザム」

「! なに?」

 突然、声をかけられてビクリと体を強ばらせた。

「武器を持つのは構わんが、なるべくなら使わぬように」

「え……?」

「身を守るのみに使用すれば良い」

「……っ」

 何もかもを見透かされているような口調に、喉を詰まらせる。

 誰かを傷つける事の恐怖……微かに震えている自分の手を見つめた。

「ベリルは、怖くないの?」

「私には私のやるべき事がある。お前にはお前の道があるようにね」

「そか……」

 恐怖を感じない訳じゃない。しかし、それに打ち勝たなければならない時がある……そう言っているように思えて小さく笑った。

「私にはこれが適していただけだ」

 肩をすくめて発する。


 数時間──車がおもむろに止まった場所は、低いビルが転々とする地域だ。すでに廃墟となっている一角のようで、人の気配は感じられない。

「ここが潜伏先?」

「200mほど先の工場跡がそうだ」

 ここで仲間と落ち合う事になっているとベリルは語った。

「レイを拉致するという目的のため、相手の人数はそう多くないと推測している」

 ピックアップトラックの荷台に背を預けて応える。

「相手を傷つけずに遂行したいものだが……集められた人数がわずかでね」

「何人?」

「私を含めて9人。現在、余裕があったのはそれだけだ」

「敵は何人くらいだと見てるの?」

「およそ8人ほどと思われる」

「ベリルがさっき倒した人たち入れて?」

「動きは制限されるだろうが戦えない訳ではなかろう」

 そう言われればそうだけど……彼はいつもふざけているように見えて実の処、絶対に気を抜かない。

 そんな人だから、僕は彼に遊ばれていたように思う。

 大人を信じられなくて何もかもがどうでもよくなって……なのに、彼は態度を変えるコトなく僕にちょっかい出してきた。

 掴めない感情にこっちは翻弄されまくりだったのに。

「……なんだ」

 複雑な表情を浮かべてこちらを見ているアザムに眉をひそめる。

「なんでもない」

 言ったら余計にからかわれそうで、プイと視線を外した。

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