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*込められる弾薬

 アザムは手早く着替えた。厚手のパンツと半袖シャツにデニム生地のベストを合わせた恰好だ。

「……」

 デスクの引き出しを開けてナイフを手にし、ハンドガンを見つめしばらく考えて黒い塊を持ち上げた。実際の重量よりも重みを感じるそれを握る。

 過去にも見ていたハズの彼の闘い──あの時とは異なる感情が芽生えていた。

 優雅で流れるように敵を確実に仕留める姿のその中にある優しさが、見て取るように理解できた。

 本当なら全員をひと突きで殺す事が出来たのに、彼はそうしなかった。瀕死にする事も出来ただろうに、それさえもしなかった。

 医学書を読んで解ったのは、彼の刺し方は人体の構造に基づいているものだという事だ。もちろん、あんな場所で死人を出す事も問題を大きくする要因であったためだろう。

 全てが洗練され無駄がない。他の傭兵たちは、彼に近づくために頑張っているのだろうか。

 そこまで考えて弾倉マガジンを抜き、何も入っていない黒い塊に目を細める。

 ベリルが予備に持っているカートリッジが入るだろう、それを考慮して持っていたと言っていい。

 リビングに戻ると、腕を組んで待っていたベリルが視線を向けた。

「準備は出来たか」

「カートリッジ……ある?」

 アザムから差し出されたマガジンを受け取り、前開きのTシャツの中に手を入れて右脇辺りをいじる。

 カートリッジの詰め込まれているマガジンを取り出し、それを渡して腰のベルト辺りからカートリッジを出してマガジンに詰め始めた。

「相変わらずだね」

 苦笑いで発すると、ベリルは肩をすくませて詰め終わったマガジンを右脇に収める。それを見やり、アザムは少年に視線を移した。

「サムは来ないのかい?」

「行くわけねぇだろ」

「意思は変わらないか」

 ベリルの問いかけに小さく笑んで目を伏せる。

「うん。怖くないと言ったらウソになるけど……確かめたいこともあるんだ」

「そうか」

「オ、オレだって怖いわけじゃないからな!」

 少年が胸を張って震えた声を上げた。

「守る者が少ない方が楽で良い」

 フォローするように発したのだが、少年はそれにカチンときたらしい。

「オレが邪魔だってのか!? バカにすんな!」

 ああ、そういう風にもとれるか……と少年の言葉に感心した。この展開からいくと嫌な予感が脳裏を過ぎる。

「オレもいく!」

「そうなるのか」

 呆れて見下ろした。

「止めてもだめだからな! 行くって決めたからゼッタイに行く!」

「……」

 墓穴を掘った……ベリルは手で顔を覆い、小さく溜息を吐き出して携帯を取り出す。

「すまんがボディスーツを2着持ってきてくれないか。サイズはKSとKMだ。頼む」

 通話を切り、再び溜息を吐いた。

「防弾ベストとかじゃないの?」

「私と同行するならあれでは動けんよ」

 しれっと応えられ少年はぽかんとした。

「ある程度の強度を保つためには重量と厚さが必要だ。それで私の動きについて来られるというなら構わんがね」

 これからの状況を想定した限り、安易な防弾具ではただ動きを鈍くさせるだけだと判断しての物言いだろう。

 しばらくして玄関の呼び鈴が鳴り、ベリルが向かう。

「すまんね」

「いいえ」

 そこにいたグレーのスーツの男から紙バッグを受け取ってドアを閉め、リビングに戻りそれぞれに手渡す。

「?」

 透明の袋に入れられていた布を取り出して広げると、それはインナーだった。

「中に着ろ」

「こんな薄っぺらいの役に立つの?」

 サムの問いかけに、ベリルは腕を組んで笑みを見せる。

「特殊な繊維で作られている。よほどでない限り衝撃はあるものの致命傷にはならん」

「衝撃……気絶するくらいの?」とアザム。

「それくらいは我慢しろ」

「! 気絶しちゃうの!?」

「胴体への直撃はその可能性がある」

「……」

 少年は目を丸くして黒いインナーを見つめた。

「この伸縮性が銃弾の威力を弱める?」

 インナーをじっくり見て発したアザムの言葉に、感心するように微笑む。

「銃弾の回転を弱めて威力を落とし、同時に強靱かつ柔軟な繊維で体内に入り込むのを防ぐ」

「開発には随分とかかってそうだね」

「まず私で試しやがった」

 時折、乱暴になる彼の言葉にクスッとした。

「出るぞ」

 2人が着替え終わった事を確認して、ベリルは玄関に足を向ける。

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