覚悟
拠点に戻った一矢は近くにいたものに
直政に取り次いでもらうよう願い出た。
しかし、新参である一矢の申し出が通ることなく
直政に光義の死を伝えるタイミングを得ることができなかった。
開戦までもう間もない。
このタイミングで仲間を失うのは味方にとっても損害だ。
何としてでも伝えないといけない。
そう考えた一矢は強行突破で直政がいる建物に入っていった。
「井伊直政様はいらっしゃいますか!」
扉を開けるとひと月前と同様に
机に敷かれた地図を囲んで10人ほどの男たちと
中央奥で座る直政の姿があった。
「誰じゃ貴様!今軍議中じゃ!」
「立場をわきまえろ!!」
「まさか間者か!」
幹部であろう男たちが一斉に一矢に怒鳴ってきた。
無理もない光義の付き添いで来たとはいえ
ここに来たのも直政らと顔を合わせたのも一度だけ。
顔を覚えていないのだろう。
確かに数千人規模の軍の幹部達だ。
一矢のような新参者の顔なんていちいち覚えているはずがない。
「軍議中に申し訳ありません!
早急に伝えないといけないことがあり参りました!」
「お前、以前光義の横にいた者だな
今日は光義はどうした?いないのか?」
決して大きな声ではないがそのよく通る声は幹部たちの騒ぎをぴたりと止めた。
「直政様、この者をご存じでしたか」
まさか大将である直政だけが覚えていたとは思わなかった。
だがこれで話を聞いてもらえる。
一矢は息を整え話し始めた。
「先日、盗賊討伐の任務中に何者かの襲撃を受けて光義が亡くなってしまいました」
一矢の言葉に幹部たちが驚く。
「なっ!あの大島殿が・・・」
「決してレベルが高くなかったとはいえその戦闘能力は我が軍でも指折りだったのだぞ」
「一体敵とは誰だったのだ!」
幹部が思い思いの言葉を発する。
一矢は任務の始まりから終わりまでの状況を説明した。
あの錫杖を持った黒衣の僧の事も
亡くなった光義と一矢が同化した事も。
「聞きたいことは色々あるが・・・
光義・・・あやつを失ったのは我が軍にとってもかなりの損失だ
して、お前は死んだ光義と同化したとはどういう事だ」
直政は静かに、だが鋭い視線を一矢に向けた。
光義の死について何かを隠しているのか、黒衣の僧と共謀しているのか
幹部たちの疑惑の目が一矢に向けられた。
「俺は・・・光義には命を二回も助けられています
何も知らない俺にここでの生き方と戦い方を教えてもらいました
感謝してもしきれません
それを・・・あいつが・・・
あの黒衣の僧は光義の不意を突いて殺した
光義は悔やんでも悔やみきれないはずです
俺のスキルは死んだものと同化しスキルも継承できる
だから光義から受け継いだこの大和弓で必ず仇を取ります!!」
一矢の嘘偽りのない眼差しに直政はふっと笑った。
「お前の言っていることが偽りでないことはわかった
だがその敵討ちは中々難しいな」
直政は黒衣の僧について話し始めた。
「お前の言う錫杖を持つ黒衣の僧、戦闘の仕方といい一人だけ思いつく
そいつの名は太源雪斎
今川軍大将、今川義元の右腕だ」
太源雪斎
幼き日の今川義元の教育係を務め、晩年は今川義元の右腕として手腕を発揮し、
今川氏の発展に大きく寄与したことから「黒衣の宰相」「軍師」などと評価されている。
雪斎の手腕は今川義元の全盛期を築き上げた。
「太源雪斎だと!どうして敵の重臣がわざわざ一人で大島殿の所に来たんだ」
「雪斎は光義の能力をそれほどまでに高く評価し、次の戦に参戦されると
今川側にとって脅威になると考えたのだろう
だから雪斎自らが単独での暗殺を試みたのだろう」
幹部の疑問に直政が答えると幹部たちは納得の表情を見せた。
「相手が誰であろうと関係ない
太源雪斎は俺に任せてください」
一矢が深々と頭を下げると座っていた直政が立上り、
一矢の目の前まで歩いてきた。
「お前の覚悟しかと受けとった
だが太源雪斎の強さは俺と同等、それでもやれるか」
「はい!」
「わかった、ならば次の戦で俺は今川義元の首を獲る
お前は太源雪斎の首を必ず獲れ
いいな?」
一矢が大きく頷くと直政は満足そうに笑い
再び自席に戻った。
「では軍議の続きを行う」
直政、幹部たちが再び軍議を再開させると
一矢は振り返り、その場を後にした。
「ありがとうございます、直政様
待ってろよ、太源雪斎、必ず俺の手で殺してやる」
その後、一矢は戦に備えて少しでもレベルを上げるため、
そして光義の大和弓に慣れるために任務を受け続けた。




