裏切りの光明
陸奥国
現在の福島県南部にあたる地域に徳川軍と伊達成実率いる伊達軍はいた。
平野に軍を敷き主だった武将が集まり軍議を開いていた。
長机を中心に左方には徳川家康を始め酒井忠次、本田忠勝、榊原康政と座り
右方には伊達成実を始め鬼庭綱元、原田宗時が
座った。
そして左右を見渡せる大将の席には服部半蔵が鎮座した。
すでに徳川、伊達共に半蔵の支配下に置かれ
思いのままに操れる状態になっていた。
「まさかこんなにも順調に進むとは・・・
未来の征夷大将軍と伊達軍共に俺が操れる
そしてのちに大将政宗も操れればあとは武田上杉ととんとん拍子だ」
半蔵の言葉に誰もが無反応でまっすぐ前を向いている。
まさに傀儡状態であった。
「反応がないのもつまらんな
それに俺に絶対服従のこの場では軍議など無意味だろう
では今後について指示を出す
皆忠実に任務を遂行しろ」
「「「はっ!!!」」」
歴戦の武将が一介の忍びに頭を垂れる光景は異様であった。
「家康を始め重臣共に討死の情報は各地に流しているが
それが誤報であることはすぐにばれるであろう
織田軍の岩森一矢は佐竹と合流しその後必ず北条の元へ行く
その間に我らは北の戦線織田信長と武田信玄の戦場へ行く
さすれば押されている武田軍に助力し織田本体を押し返すことができる
この戦場が拮抗したらすかさず武田信玄を俺の支配下に置き
次は上杉の戦場へ行きまた同じことを繰り返す
全員を俺の支配下に置いたら伊達、武田、上杉の戦線を横並びに布陣し
同時に攻めかかる
戦力が少ない織田軍は圧倒的な戦力の我々に為すすべなく後退をせざるを得なくなる
最終的には美濃か尾張の本拠地にて俺の手で処刑してやる」
半蔵の今後の展開に各武将無表情ながらも軽く頷いた。
「それと一匹俺の影傀儡が効かないものがいた
おい、連れてまいれ」
半蔵の言葉に二人の兵がある男の腕を掴み引きずるように
一同の前に姿を現した。
「やあ、老将
体の具合はどうだい」
「ふんったかが忍びの分際で伊達軍のみならず
主君である家康様さえも操るとはさぞかし気持ちいいのだろうな」
かなりの拷問を受けたのであろう
ボロボロ衣服に顔と体は痣に切り傷だらけの石川数正がいた。
「なぜ貴様だけ俺のスキルが効かないのかは知らんが
ここまで知ってしまったのであれば殺すしかあるまい」
「自らのスキルの弱点も知らないで使っているとはまだまだ未熟だな
わしは家康様のみに仕えると誓った身・・・
家康様以外の者の命令など操られても聞かんわ」
「ふむ、まだ減らず口を言う元気はあるのか
ではその家康様直々に処刑してやろう
家康!石川数正の首を切れ」
「はっ」
半蔵の言葉に反応した家康は刀を抜き数正の前に歩み寄る。
「石川数正、主君に切られて本望だろう」
「そうだな、貴様に切られるより100倍ましだわい」
「最後まで腹の立つ老人だ、やれ家康!」
半蔵の合図に家康は刀を振り上げた。
最期を覚悟し目を瞑る数正であったが家康が動く気配が感じられず
不審に思った数正は再び目を開けた。
「い、家康様・・・?」
数正の視界には刀を振り上げた状態でふるふると震える家康がいた。
「なにをやっている!早く切れ!」
半蔵の言葉で再び力を入れ刀を握りしめるが
その切っ先が降りてくる事はなかった。
「か、数正・・・に、げ、ろ・・・」
家康の口から飛び出た言葉に数正と半蔵までもが驚いた。
「洗脳が解けかけてる・・・」
まずいと思った半蔵は家康の刀を奪いその勢いで
数正を切り伏せた。
「ぐっっ!!半蔵め・・・地獄に堕ちるぞ・・・」
そう言い残し数正は息を引き取った。
「はあ、はあ・・・
まさかこんな形でスキルが破れかけるとは」
家康は先ほどの様に半蔵の言葉に逆らう素振りを見せず
再び無表情の状態に戻っていた。
「ふざけるな!この狸が!」
怒りに身を任せた半蔵が一発、二発と家康を殴り飛ばす。
力なく倒れ込む家康を心配する者は誰一人としていない。
「まあいい、これで俺の逆らうやつはいない
気を取り直して織田信長討伐再開だ」
徳川、伊達成実軍約1万5千は下野(現在の栃木県)、上野(現在の群馬県)を通り
武田軍が陣取る信濃国(現在の長野県)へ軍を動かした。




