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第十二話 アルカン王の親切

 夜に村に着いた。夜道を移動しても事故に遭わなかったのはグレンの目が人間とは違うせいだ。グレンは夜目が効く。さすがは魔族と思うが、今はどうでもいい。


 夜道で追手が掛かるかも、とビクビクしていた。家に着くとどっと疲れた。

 コレットは疲れた体をベッドに横たえる。


 疲れていたが朝はきちんと起きれた。母の作ってくれた塩気のあるシチューが美味しい。

「貴族好みより、家庭の味が一番だわ」


 食器を片付ける時にミレーがコレットに尋ねる。

「食事会は楽しめた?」


「散々でした、もう行きたくありません」が正直な感想だが、心配させたくないので見栄を張った。

「料理の味付けが好みじゃなかったわ。母さんの味が一番よ。あと、名前はきちんと憶えてもらえたわ」


 参加者には確認していない。できれば忘れて欲しいのだが、誰も忘れないだろう。

「良かった」とミレーは微笑む。コレットとしては良くはないのだが、良かったとコレットは思い込む。


 日々の仕事である馬の世話をする。コレットは馬が好きだった。

 体が大きいが、乱暴なところがない。愛情を掛ければきちんと答えてくれる。


「町に時々行くのならいいけど、私はやっぱり村がいい」


 一仕事して昼食を摂りに家に入るとアルカン王がいた。

「お仕事ご苦労さん。これから出掛けるぞ」


 予定にない外出なので不安だった。

「どこに行くの?」


 アルカン王はサラリと発言した。

「ハイランドだよ」


 貴族が集まる食事会もそうだが、魔族に支配された土地にも行きたくない。


 コレットがお断りの言い訳を考えているとアルカン王が言葉を続ける。

「ハイランドで捕虜になっている人間の手紙を運ぶ」


 身代金の要求や捕虜交換交渉なら理解できる。でも、魔王が郵便配達をするとは想定外だった。

「手紙って独りで運べないほど多いの?」


 アルカン王は怒っていた。


「いいや、これはコレットのためだ。人間たちから偽者扱いされていたとグレンから聞いたぞ。それは不憫だ。人間には手に入らない捕虜から手紙を持っていけば見る目も変わる」


 娘のために骨を折る優しい親心だった。今はその親心が辛い。手紙を運べば、貴族たちからの見る目は変わる。だが、良い方に変わるとは限らない。


「とうした嫌か?」とアルカン王が不思議そうな顔で尋ねる。

「嫌です」と答えたかったがミレーが先に口を開いた。


「嫌なわけないですよ。だって、コレットのためですもの」

「行け」とのミレーからの指令だ。コレットは気のりしないと、ミレーが言葉を続ける。


 ミレーはコレットを見ない。あくまでもアルカン王に向けて話す。


「ハイランドの国外にいるハイランド人にとって中にいる人間の安否は知りたいはず。コレットがやらないと、誰がやるんですか? 手紙は処刑前に愛する人に対して送れる最期の言葉ですから」


 痛いところを突いてきた。ここでコレットが拒否すれば、ハイランドの貴族は身内の最後の言葉が聞けなくなる。これは辛い。


 コレットは決心した。

「行くわ、お父さん。私がお父さんの娘だって疑われるのは嫌だもの」


 アルカン王は娘のためになると知り喜んでいた。

「なら食事が住んだら準備しろ。ハイランドに行くぞ」


 魔族が支配するハイランドに行かねばならない。魔王が一緒なので安全だとは思うが、すんなり帰れる気がコレットにはなぜかしなかった。

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