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第十三話 悲しき魔族

 ハイランドは険しい山の中にある国だった。位置は人間領と魔族領の境にある。人口は少なく、畑は少ない。


 ハイランドには有望な金鉱がいくつもあった。なので、貧しい国ではない。また、国土自体が天然の要塞である。さらに、ハイランド歩兵の勇猛さは有名だった。


 内部からの手引きがあった場合を除き、他の人間の国からの侵略を許した過去がハイランドにはなかった。


 魔族との戦争においても人間はハイランドに兵を集中させれば充分に防げると予測していた。だが、予想は裏切られた。


 ハロン村から陸路でハイランドに行くとする。道中、二つの国を通過しなければならない。また、ハイランドに入る道はよくない。以前、ハロン村に寄った旅人の話では、夏でも五十日は掛かる。どれぐらいの準備をすればいいか考えていると、アルカン王が呼ぶ。


「行くぞ」とアルカン王がドアの外で促す。早すぎる。全然、旅の準備ができていない。


 危険を感じたコレットは注意する

「ハイランドだよ、ちゃんと準備しないと後で困るわ」


「大丈夫だ。夜には帰ってこれる。外套だけ羽織ってこい」

 距離感がおかしい。今はもう昼過ぎだ。ここからハイランドまで行って夜に帰る行程は無理だ。


 抗議しようと家の外に出ると、アルカン王が魔法を唱える。

 空間に大鏡が現れた。鏡の向こうには山々に囲まれた都市が映っている。


 長距離移動魔法は存在する。だが、専用の施設と儀式が必要である。移動できる距離にも制限があるとコレットは旅人から聞いていた。ハロン村からではハイランドまでは飛べないはず。


「これでハイランドまで行けるの?」

「行けるぞ」とアルカン王が鏡に手を伸ばすとバチバチと音がする。火花も散った。


 鏡が拒絶している。

「長距離移動を封じる結界か。これくらいなら問題ない」


 アルカン王がグイと手を鏡に突っ込む。バチンと音がして火花が止まった。アルカン王が鏡を潜った。

コレットが見惚れていると、鏡からアルカン王が手だけ出して手招きしていた。


 恐る恐るアルカン王の手を握ると、鏡の中に引きこまれた。鏡を潜ると、一瞬でハイランドだった。


 ハイランドの空は薄暗い。風も寒く付近は荒涼としていた。コレットの目の前には崩れた城壁があった。城壁は暑さが五mはある堅牢な物だった。そんな堅牢な城壁が崩されていた。


 崩れた城壁をアルカン王は登っていく。置いていかれないようにコレットも続いた。城壁を超えると、ガチャガチャと音がした。


 蝙蝠人間、岩人間、狼男の軍団がやってきて二人を囲んだ。


 初めて見る魔族にコレットが恐怖を感じた。有無を言わさず、狼男の四人が短剣を手に飛び掛かって来た。


 次の瞬間、狼男たちは煙に包まれる。煙からは大蛙が出てきて地面に落ちる。

「物騒だな」と、のほほんとアルカン王が告げる。


 狼男はアルカン王によって一瞬で蛙にされた。魔法詠唱もなければ触れたわけでもない。コレットはここでアルカン王はやはり魔王なのだと思い知った。


 空からカラスが大量に集まってきて、アルカン王の前で塊になる。カラスが融け合うと一人の灰色の修道服を纏った老人になった。


「結界を破って誰かが侵入してきたかと思えばアルカン王ですか。私はコルネ王の側近ペトラと申します。なぜ、今こちらに?」


「ハイランドの捕虜に手紙を書かせるためにきた。コルネに合わせてくれ」


 ペトラは頭を提げて丁寧に詫びる。

「コルネ王におかれましては、戦後の処理に当たっています。すぐにはお会いできません」


 アルカン王の顔がサッと怒りに歪む。

「いつでも遊びに来いと言ってたのは嘘か!」


 アルカン王の言葉にペトラは驚いた。アルカン王は辛らつに嫌味を言う。

「いやいや、社交辞令を本気にした儂が悪かった。もう、来ないと思うから、お元気で、と伝えてくれ」

 アルカン王がプイと背を向けるとペトラは慌てた。


「お待ちください。ここで帰られたら私の立場がありません」

「なら捕虜に合わせてくれ。コルネが戦後処理を任されているのならできるだろう」


 無茶な要求にペトラがたじろぐ。

「えええッ、それは、その――」とペトラの顔が歪む。仕える立場としての悲哀が出ている。


 アルカン王がゴリ押しした。

「どうするんだ? 儂はどっちでもいいぞ。ただ、娘の前で恥をかかされたらこの恥辱は忘れん」


 ガクッとペトラは項垂れた

「ではこちらへ」とペトラは折れた。


 アルカン王はコレットに顔を向けると悪戯っ子のように軽く舌を出した。ペトラには悪いが、アルカン王が一枚、上手だ。


 ペトラに先導されてアルカン王とコレットは進む。魔族の誰もがアルカン王とコレットを見るが手出しをしない。ひそひそと何かを囁いている。人間の食事会でも感じはよくなかったが、これはこれで嫌だった。

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