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チョロい自爆属性?

16/03/20 誤字脱字を修正しました。

「ではこちらも焼きますね。あ、そちらの魚は生がいいです」


 姫苺さんの勧誘でココへ訪れていると説明してから数分後、スイは一度海に戻り、山ほどと言っても差支えのない量の海産物を持ってきてくれていた。


 今すぐ食べたい、とヨルカが言い出し、現在、バーベキューパーティが始まっている。網だったり炭だったりはもちろんルゥがどこからか呼び出したモノで、当たり前のように誰もツッコミは入れたりしない。


「おぉ、カラフルな食材が多いんだな?」


「カラフル、でしょうか? いつも食べておりますので、よくわかりません」


 今、まさにスイが焼いている魚はタイに似ているのだが、色はとても明るい黄緑色をしている。他にも銀色の海藻だったり、白色と紫色のストライプな貝だったり、オススメでなければ絶対に口にしないような外見だ。


「ねぇ、この魚、生食ってことはこんな感じの刺身でいいの?」


「おぉ、ルゥ殿は器用ですね、とても良いと思います」


 刺身包丁で魚をキレイに切り分けていくルゥを、ヨルカとミルカも輝いた目で見ていた。


「あむっ……んー、味は青魚系か……ショウガ醤油かなぁ」


 そんなつぶやきと同時にルゥの手の中には小箱が現れ、その中からショウガやワサビ、ネギを取り出す。そして調理なんて興味が無い食べる担当のエルトとコリルはすでに生ガキっぽい貝を食べ始めていて、彼女たちが持っていた醤油とポン酢を取り上げる。


 一瞬も手が止まることなく、流れるよう次々に料理を仕上げていくルゥの姿を見ていると、やはりウチの料理頭は彼女なのだと再認識してしまう。


「はい、こういうの大丈夫か、味見どーぞ」


 刺身にした魚とネギをシソで巻いたモノに軽く醤油をつけ、スイに差し出す。


「あむっ……美味しい。いつも食べている魚が、違う食べ物のようです」


「ネギにシソ、醤油が大丈夫なら、味噌や他の薬味系も大丈夫そうね。ヨルカはお味噌汁の準備、この貝を使うわ。ミルカはネギとショウガを細かく切って。あとトマトも」


「「はいっ」」


 ウチでは見慣れた感じの様相が始まり、スイはそれをなんとなくぽけーっとした表情で見つめていた。


「食に、こだわりがあるのですねぇ……」


「……スイたち人魚は、普段魚とか海藻とか、貝を食べてるのか?」


 スイは、軽く笑顔を浮かべながら答えてくれる。


「そうですね、共食いみたいだと食べない人もいますが、基本は魚介類です。あとは家庭によって肉や木の実、山菜でしょうか。あ、うちではたまごも食べます」


「ん? その言い方だと、人魚はたまごはあまり食べない?」


「人魚と言うより、海に住む者は『生命』の根源を重んじる傾向にありまして、たまごのような『始まりのモノ』はあまり口にしないのです」


「あー、海は生命の母、みたいな思想ってこと?」


「です」


 人間で言う、菜食主義者に似た発想なのかもしれない。


「人間界でもそうだけど、魔法界でも海は始まりの場所なのか……」


「噂レベルの話でしかありませんが、人間界と魔法界はかなり似た生態系と聞きます。魔法が発達したか、そうではないか、の違い程度である、と」


「へぇ……それは興味深い話だな?」


「その話はほぼ合ってると言えますが、違うと言えば違います」


 そう言葉を入れたのは、コリルだった。


「魔法界は魔法、人間界は科学をメインに進歩していったのは間違いないですけど、魔法界にも科学はあります。そして今は人間界にも魔法があります。魔法があっての科学の進歩と科学の進歩からさらに魔法が参入という形では――、」


「はいはいわかりましたわ、コリル、こちらの貝もどうぞ」


「……あむっ」


 なんとなく不満そうではあるが、エルトが口元に貝を運ぶので、ぱくりと食べる。そしてそのままどんどん貝を食べさせられ、始まりかけていたコリル先生の演説は終了となった。


「ふむ、少々興味深い話だったので、残念ですね」


「今度たっぷり時間がある時に聞いてやってよ、ホワイトボード使いながら少なくとも五時間はしゃべってくれるからさ」


 コリルが使い魔になったばかりの頃、この『説明癖』には手を焼いて、今ではウチで一番優しいミルカでさえ始まったらすぐに笑顔で制止させるほどである。


 過去一番長かった演説は、人間界の肉、特に牛肉はどうしてこれほどまでに美味しく進化したのかという疑問をベースにしたモノで、それに食いついてしまったミルカは、約五時間もつき合わされていた。


 あの時はまだヨルカが発情期の真っ最中で、家事のほとんどをミルカがしてたのだが、その演説で出来ず、使い魔としてちゃんと仕事がこなせなかったと悔やみ、だから今では容赦なくスルーをしているみたいだ。


「五時間……マスターの生活付近ですと浜辺もありませんし、水分をたくさん用意する必要がありますね」


「その時には水分だけじゃなくて、人間界の食べ物もいろいろと提供するよ」


「そちらもとても興味深いです。出来れば一日時間が空く日がいいですね……ふむ……」


 ルゥのようにどこからともなくメモ帳のようなモノを取り出し、スイが首を捻らせる。彼女のスケジュールが書かれているのかもしれない。


「一日空くなら人間界を見て回るのもいいかもな? あ、海がいいか? 海に行くなら移動に多少時間があるから、その間にコリルに演説して貰えばいいし」


「人間界の海! 是非見てみたいです。いつがいいでしょうか……んー、今月の終わりなら……あぁでも、人間界とは時間の流れが……」


「出来れば学園が夏休みの間だと助かるかな? あ、待てよ、夏休み期間だと海に人も多いからみんなで移動するのも目立つか……」


 いや、スイが纏ってるヌルヌルの問題もあるし、長時間移動はやめて海に到着後に召喚の方が無難か? などと考えていると、ふと、姫苺さんの顔が目に入る。


「えっと、何か?」


 微かに、俺を怪しむかのような視線だった。


「あんた、何を企んでるの?」


「企むって、スイをいろんなところに案内しようかなと考えてるだけだけど?」


「どうして?」


「どうして? スイが、人間界にくるから?」


「そうじゃなくて、どうしてそう、手の内を晒すようなマネをするわけ?」


「……あっ」


 会話のズレのようなモノの正体に、やっと気がつく。以前、ヨルカの住んでいた町を訪れた時、俺が感じた違和感のソレが原因なのだろう、と。


 姫苺さんも、魔法界の住人。つまり、種族の絆を第一に考える的なアレだ。


「……」


 どう返事をすべきか、少しだけ悩んでしまう。


 が、これに関しては俺なりの結論が一つあったので、変に考え過ぎず、思ったままのコトを伝えることにした。


「好きな人が自分の生活圏に訪れるなら、住んでる場所のいいところを見せたくなったり、美味しい食べ物を食べさせてあげたいって思うのは、普通じゃないか?」


「……好きな、人?」


 俺の言葉に反応したのはスイで、微かに頬を染めている。


「あー、そういう好きじゃなくて……いや、一人の女の子として可愛いと思うけど」


 と言った辺りで、ウチの使い魔全員から鋭い視線が突き刺さる。


「と、とにかく、自分が好きなモノを好きな人に勧めるのはおかしくないと思う」


「……」


 また、無言で見つめられてしまう。しかし、今度は怪しむような視線ではなく、不思議なモノでも見るかのような表情だった。


「あなた、やっぱり変なのね?」


 『あんた』が『あなた』になったのは、少しは好感度が上がったということだろうか。


「でもそこが危うい……ふぅ……どうしてこうなったのか……」


「……?」


 ため息を吐きつつ、何やらぶつぶつ言っている姫苺さんは、ほんのり笑みを浮かべている。


「あっ、ダメダメ、どうしてこんな考えを……」


 あ、また鋭い感じの視線に戻った。


「あ、あんた、意外とやるわね?」


「え? 何が?」


 ってか、また『あんた』に戻ったんですけど。


「でも残念、私はこの海を守るって仕事があるの、あぁー残念ね」


「やっぱり自爆系か」


 料理をしていたはずのルゥが、いつの間にか隣に立っていた。


「ん? 何が自爆なんだ?」


「別に? ねぇスイ、コレ全部上げる」


 先ほど、ヨルカにお勉強と言って作らせていた大量の粉を、ルゥが手渡す。


「えっ、これほど出来の良いアプリコの葉の粉末を、頂いてもいいのですか?」


「その代わり、暇な時でいいからこの浜辺の警護やってくれない?」


「……?」


 ルゥの言葉に、スイは軽く首を傾げた。


「警護も何も、この浜辺も海も、すべて私たち一族の地です。不届者が現れれば守るのは当然ですよ?」


「でも、その子に守って貰ってるんでしょ?」


「……あー」


 何かを納得したのか、スイはポンと手を叩く。


「確かに姫苺殿には浜辺の清掃などをして頂いて貰って助かっておりますが、マスターの使い魔になられてこの地を離れられるとなりましても、特に問題はないです」


「……ぇ?」


 今にも消えそうな声を出したのは、もちろん姫苺さんだ。


「私たち一族は私も含め武闘派が多いですし、一応、何百年もこの地を守り続けてきているわけで、すし……」


 スイが苦笑いを始めた辺りで、俺もそれに気づいた。姫苺さんは浜辺に手と膝をつき、項垂れていた。


「問題ない……そっかぁ、問題ないのかぁ……そっかぁ」


 今にも波の音で消されてしまいそうな、そんな声量だった。


「姫苺殿はとても真面目な方でして、どうしても魚の対価に護衛をすると仰るので、皆で見回る時間を減らしたりしていたのです」


 今の言葉は、俺とルゥだけに聞こえるよう、こっそりと囁いてくれた。


 なるほど、どうやら姫苺さんはかなり真面目系の性格みたいだ。


 そういう話なら勧誘がしやすくなったなと思っていると、ルゥがアイコンタクトをしてくる。まぁわたしに任せておきなさい、と言った感じのでコクリと頷くと、ものすごく悪い笑みを浮かべながら姫苺さんに近づき、肩に手を置いた。


「ねぇ、聞いたぁ? も・ん・だ・い・な・い・ん・だ・っ・てっ」


「ぐっ!? ぐぬぬぅ……!」


 微かに涙目な表情が、ちょっと可愛い。


「どうするぅ? わたしたちはあなたのこと必要としてるんだけどぉ、そこまで嫌ならお願いもしにくいかなぁって。ご飯食べ終わったらすぐ人間界戻って、花菱にやっぱりダメでしたって報告しなきゃなぁって感じぃ? 花菱ぃ、残念がるだろなぁ」


「あ、あああ、あんた、何が言いたいのよっ」


「別にぃ? あぁそういえば、花菱が出がけに『姫苺を出迎えるために野菜とか果物を育てておかないと』って言ってたなぁ」


「えっ……花菱様が、私の、ために?」


「あ~ぁ、あなたが『使い魔になります』って言ってくれれば、わたしたちも嬉しいし、花菱だって大喜びしてくれるんだろうなぁ~」


 遅かれながら、やっとルゥの目的を理解した。どうやら今後の主導権を握りたいらしく、姫苺さんの口からお願いするかのような形を作りたいみたいだ。


 いやもう本当、まったくもってルゥらしいやり方だなと感心してしまう。


「あ~ぁ、あなたが『使い魔になります』って言ってくれればなぁ」


「む、むむぅ……し、仕方がない、わね」


 ルゥの策略? に見事にはまってしまった姫苺さんは、ちらちらと俺を顔を見ながら言葉を続ける。


「あ、あなたの使い魔に……って、なんで私がお願いするような形になってるのよっ!」


「チッ、狐ほどチョロくなかったか」


 あー、確かに雨澄なら、今の流れでお願いしそうだなぁ。


「私に使い魔になって欲しいのはそっちでしょ!? お願いしますって頭を下げるのが普通でしょ!?」


「俺の使い魔になって下さい、よろしくお願いします」


 即、ぺこりと頭を下げる。


 まるで俺が頭を下げ慣れてるように見えるかもしれないが、それは断じて違う。


「ぐっ……あ、頭を下げるべき時は下げる……それが素直に出来るなら、ま、まぁ、少しくらいなら、様子見、してあげるわ」


「本当?」


 顔を上げると、姫苺さんは恥ずかしそうに視線を外す。


「仮契約よ、仮契約。花菱様の話が本当かどうかわかったものじゃないし、仮だからね」


「……ありがとう」


「っ……感謝の言葉もすぐに出てくる……むぅ……なんかムカつく」


 そ、そんなこと言われてもなぁ?


「それじゃあさっそく仮契約してもらっていい? あなたの気が変わらないうちに」


「……」


 言いくるめられそうになったからか、ルゥの言葉に、なんとなく腑に落ちないと言った風な表情を浮かべている。でも、すぐに契約用のスクロールを取り出してくれて……


「やっぱり待って」


「ちょっ、何が不満なわけ!?」


「違う、最後のお仕事よ」


 砂浜に刺していたスプーンを、手に取る。そして鋭い視線を、岸壁に向けた。


「何か大きなモノがきますわね」


 特に気にした様子は浮かべず、焼けた魚を食べながらエルトがそう教えてくれる。ヨルカとミルカの耳がピクピクッと動き、コリルは慌てるように俺のそばへとやってくる。


「あー、あいつは人魚が好物だっけ?」


 ルゥの背中に、漆黒の翼が現れる。


 俺を含め、全員が岸壁を見上げていた。


「へぇ、アレが何かわかるんだ? でも、手は出さなくていいわ……よ?」


 姿を現した敵に、姫苺さんが言葉を詰まらせる。三メートルはあるだろう巨体に、胴体と同じくらい太い腕が付いている一つ目の化け物が、こちらを見下ろしていた。


「へぇ~、手、出さなくていいんだ?」


「えっと……角があるし、もしかして、レア?」


 確かあれはサイクロプスって魔物だっけ? と思っていると、そいつは、こちらへ向かって飛び降りた。


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