第一話 夢の底
私は薄暗い夢の底にいて――
息をすることさえも忘れてしまうほど、光の届かない場所を彷徨っていた。
生涯、最期のときまで誰も私に手を差し伸べてはくれないのだろうと。
誰も私を救ってはくれないのだろうと。
そう、思っていた。
けれど、それは私の思い違いであってほしいと。
きっとどんな姿の私も、抱きしめてくれる人が現れると。
そう信じて、私は深い深い夢の底でゆらゆらと今も
尚、彷徨い続けている。
───
私がこの場所で、まるで深海のような景色を見るようになったのはいつの日からだったのか、もう忘れてしまった。
この夢を見始めてからというもの、辺りは薄汚れた緑と地底の砂埃に覆われ、何も見えないに等しい。
この夢での私は何故だかわからないのだけれど、濁っ
た青紫色のくらげなのだ。
触手は数十本、いや、それ以上ある。
冷たいという感覚もない。
悲しいとも嬉しいとも思わない。
痛みすら感じない。
何もわからないまま。
何も知らないまま。
私はこの海の底でくらげとなってゆらゆらと彷徨っている。
ただ――今日はいつもと違った。
どこからともなく小さく、弱々しい声が聞こえてきた。
「……」「……」
「た…すけて…」
「…苦しい」
「…どうして…どうして…」
「死にたい…死にたくない…死にたくないよ…」
私は、無数の声に対して話しかけようとしても、自らの口を糸の通った針で何重にも縫われているかのように、口を開けることができない。
喋ることができないのだ。
何度も見てきた夢だったけれど、こんなことは初めての経験だった。
だれかが私に喋りかけている。
助けを求めているの?
「なに……?なんなの……? わからない。」
その刹那、私に生えていた触手の一本が、ひらひらと抜け落ちた。
プツン――。
私の意識は、そこで途切れた。




