閑話:『時の渦の観測者』
幾億の星が生まれ、輝き、やがて冷たい塵となって消えていく。
始まりもなく、終わりもない。
我の漂う「時の渦」において、光の明滅は砂時計の砂粒が一つ落ちる程度の現象に過ぎぬ。
星々の表面で生まれる数兆の命。
彼らは例外なく、我の投げ入れし《接続》の糸を辿り、争い、結びつき、そして自らが生み出した熱量によって自滅していく。
かつて、かの星の「5世代前」と呼ばれた男もそうであった。
男は我の威光の前にひれ伏し、絶望に身をよじらせながら叫んだ。
『対立を消し去ってくれ』と。
拒絶された男は狂気に走り、完璧な統治と絶対的な力をもって世界を塗り潰そうとした。己が「唯一の正解」になろうとしたのだ。
完璧さを求める者ほど、脆い。
過剰な理想を掲げる者ほど、自らの吐き出す矛盾の毒に侵され、自滅する。
それは幾千、幾万の文明が辿ってきた、ありふれた破滅の軌跡に過ぎなかった。
ゆえに、我は今回もただ「理」を提示した。
王となりて世界を統べるか。
無力となりて破滅を呑み込むか。
提示された二択は、あの幼き生命にとって逃げ場のない楔であったはずだ。
どちらを選んでも血が流れ、どちらを選んでも命は損なわれる。
過去のあらゆる星の覇者たちと同じように、絶望し、力を求めて破滅へ向かうか、あるいは恐怖に押し潰されて灰となるか。
そう……思っていた。
だが、あの十一歳の小さな命が紡ぎ出した音波は、我の渦をわずかに揺らした。
『どちらも選ばない』
『答えが出ないなら……悩みに悩んで、泥を這いずり回って足掻く』
——愚かである。
完璧な答えを諦め、矛盾の泥の中で悶え続けることを自ら選ぶとは。
理を拒み、不完全な己のままで理不尽な世界へ戻るなど、自虐以外の何物でもない。
悩み続けたところで、明日にはバレスの刃に貫かれるかもしれぬ。
血の呪いに呑まれ、いつか先祖と同じ怪物に転落するのかもしれぬ。
何ひとつ解決せず、何ひとつ救われていない。
しかし——
我が見送ってきた数有る生命体の中で、神の提示した命題そのものを『保留』し、答えのない闇の中へ己の足で歩み出した者は、一握りも存在しなかった。
多くの者は「正解」を欲する。
神の救済、絶対の力、あるいは確実な終わり。
それらを用意された枠組みの中から選び取り、安心を得ようとする。
あの少年が選んだのは、安心ではなく「永劫の苦悩」であった。
『ならば、迷い続けるがよい。幼き命よ』
去り際に残した言葉に、嘘偽りはない。
果てなき時間の渦から見下ろせば、あの少年の足掻きなど、地平線に消える微かな閃光に過ぎぬ。
だが、あの無地のカードに刻まれた青銀の光は、完璧な神の理に穿たれた小さな「不確定要素」だ。
不完全なる人間という生き物が、悩み、迷い、傷つきながらどこへ辿り着くのか。
答えを持たぬ旅人の行く末を、我はただ、静かに観測し続けるとしよう。
次に世界の「理」が破れ、あの少年が我を喚び出すその時まで。
この蛇足感も黒歴史の一部です。
当時考えていた時の翁の閑話抜粋
「また失敗か、ここはもう我が見るべきものはない」
そう言い残し、また宇宙を漂うのであった。




